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Ver.4.0 ~星々の輝き、揺らめく境界~
ver.4.3-169 悪意は伝播していくもので
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「うー、こういう時に限って何で残業があるのかなー」
「結構遅かったね、春。いつもなら定時なのに、もう7時を回りそうで暗くなっているよ」
「ちょっと会議が、ドタバタしてね」
ブロロンッとサイドカーのエンジン音を聞きつつ、春たちは帰路についていた。
いつもならば定時で終わってゆったりしている帰り道だが、本日は少々社内でドタバタすることがあり、そのせいでやや遅めの残業になったのである。
吸血鬼に狙われている今日この頃なので、出来れば遅い時間の帰宅は避けたかったのだが、仕方がないことだったのだ。
「まさか、うちの会社のネクロノミコン部が会議中に何か降りてきたとか発言して、やばい呪術を行った後に画期的な企画を出してくるとは…何がどうつながるか、わからないものだなぁ」
「何なのその部?」
「元々、太郎丸さんを黒魔術的な儀式で呪術をかけようとしていたところの、正式名称。会社での同好会みたいな扱いで、正式登録されているんだけど、見た目がまんまやばい感じの奴だよ」
「あって良いのかな、そんな同好会…」
おっしゃるとおりだが、あるのだから仕方がない。
肝心の太郎丸さん自身が他国の支店へ移動したからここ最近の活動は見られなかったのだが、本日久しぶりに急に動いたかと思えば、社内がドタバタするようなものを出してきたのだ。
まぁ、会社の利益になるような企画であり、マイナスなものはなかったのだが…思ったよりも忙しく動く羽目になり、残業になってしまったのである。
幸いなことに、事前に遅くなってもどのぐらいで終わるかぐらいの予測が付いたので、ミーちゃんを外で待たせることなくちょうどいい時間に迎えに来てもらえるように連絡することが出来たのだが、それでも遅い帰り道になるのは間違いないだろう。
「できればこのまま、何も遭遇したくないけど…こういう暗くなってきたときこそ厳重に注意が必要だっけ」
「そうだよ。私たち、人ならざる様なものが活動しやすいのはこんな暗くなる時間帯だからね…特に吸血鬼なら、太陽光が届かないような今なら滅茶苦茶動きやすくなるかも。だからこそ、近づいてこないように聖水噴霧器も作動させて、後方からの接近も妨害しているけど、これでもまだ足りないかな?」
「あ、なんか後ろのほうやけに煙が出ているなと思ったけど、煙じゃなくてミストなのか…いや、聖水をこんな使い方していいものなの?」
どこで調達したのか、本当に効果があるのかなど疑問があるが、効果のほどは保証できるらしい。
真祖であるミーちゃんにとっては大したことがないレベルにはなっているらしいが、並大抵の吸血鬼…オデールとかいう輩ぐらいであれば、そうたやすく近づけないほどのものになっているそうだ。
とりあえず、これで後方からの襲撃があっても大丈夫な形にはなっているが、そうなると残りは前方と側面からの襲撃になる。
「ふふふ、それでも抜かりはないよ。ロロさんの魔改造によってこのサイドカー、色々と備え付けられているからね!!側面からは速射ニンニクミサイル、前面からは30ミリ太陽光バズーカーなどがあるし、試射済みだよ!!」
「たかがサイドカーに、何を搭載しているのだろうか…」
なお、これはあくまでも対吸血鬼用の魔改造になっているだけであり、まだまだ改造の余地はあるらしい。
吸血鬼の弱点をことごとく取り入れまくっているようで、ミーちゃん曰く吸血界隈でこれを乗り回せばその日のうちに全滅しかねないやばい代物に仕上がっているようだ。
「というか、試した私が言うのもなんだけど、ロロさんやり過ぎているよね、コレ。普段の生活じゃ使わないような改造だらけだよ」
「今更過ぎる」
考えたらただの海賊船だった帆船を、宇宙戦艦にしたり、妖精郷を近未来感あふれるSFチックな神域に改造したりと、前例は既に色々あったか。
こうなってくると、預けて改造中のロブハウスが恐ろしいが…そういえば、そろそろ改造が済むころ合いだっただろうか。
そう思いながら、進むと…ふと、妙な音が聞こえた。
【----ニワ!!】
「ん?」
「何か今、聞こえたな」
何かの鳴き声のような、それでいて聞くことのない様な音。
音というか、何かの鳴き声の様なものであり、どこからか響いて聞こえるような気もするだろう。
でも、横からでもないし後方からも前でもなく、それでもバイクの音が鳴り響く中で聞こえてくるのは…
ドガァァァン!!
【グワニワニワニグワァァァァァァァ!!】
「「道路を突き破ってでっかいワニが出たぁぁぁぁぁぁぁ!?」」
突然、地面が揺れたかと思えば、次の瞬間目の前の道路の地面にひびが入り、そこから巨大なワニが飛び出してきた。
「いや、まずワニかアレ!?頭こそワニだけど、何あの筋骨隆々な化け物じみたやつ!!」
たとえているならば、ボディービルダーの頭がワニにすげ代わっているような、雑コラのような見た目である。
しかし、ただの筋肉ムキムキのゴリマッチョなワニが飛び出したわけではなく、色がどう見ても不健康そうなどす黒い色合いをしており、目がいくつもあったり血管が浮き出て脈動していたりと、明らかすぎる化け物じみた見た目になっているのだ。
「っ、この臭いはオデー…いや、違う、あの吸血鬼の血の臭いはあるけど、違う!!眷属でもなんでもなく…まさか、屍鬼!?」
「何それ!?」
―――
『屍鬼』
吸血鬼は通常、血と契約によって眷属を生み出すが、時たまその儀式に乗っ取らず何らかの方法で生まれてしまったまがいものの化け物。
普通の動植物が眷属になったものとは違って凶暴性や力が異常なほど増しており、場合によっては生み出した吸血鬼よりも凌駕する力を持ったものになりえる。
生みだしてしまえば命令も聞かない制御不可能なものになる危険性から、吸血界隈では生み出すこと自体が禁忌とされており、すぐに排除する必要がある。
―――
「あの馬鹿吸血鬼、春を襲うために用意して…まではないわね。この感じ、恐らく食われているわ」
「というと?」
「グールは制御不可能な化け物だけど、その元となった吸血鬼を食べてようやく完成するものでもあるようで…多分、喰われて爆誕したのかも」
【グワニワニワァァァァ!!】
何をどうして生みだしたのか、何故ここで突然現れたのかはわからない。
ただ一つ言えることとすれば、グールはとんでもない凶暴性を持っており、遭遇した今…
ブロロッロォゥ!!
「春、全速力で今は引き付けて逃げるよ!!私が真祖でも、このマシンが対吸血鬼用に特化していても、ここで下手に暴れたらまずい!!人気のない場所まで誘導する!!」
「わ、わかった!!」
まだここは人がいる市街地の場であり、暗くなってきたとはいえそこからひょこっと人が外に出てきてもおかしくはない場所。
この状況で出てきたら襲われるのは明白であり、今は僕らのほうに意識が向かれているのであれば、さっさと人気のない場所のほうに誘導したほうが良さそうである。
これが普通の吸血鬼であれば、まだ多少は交渉したり物理的に黙らせやすかったりするらしいが、この様子だとグールは相当厄介なもので、簡単に片付くようなものではないのだろう。
そう思いながら、急いで反転してエンジンを吹かせて進めば、背後から勢いよくワニのグールが追跡を始めてくるのであった…
【ワニワニグワァァァァァア!!】
「聖水噴霧器でだいぶ浴びているのに、効いている様子がないなぁ!?」
「吸血鬼やその眷属ならまだしも、相手は異常な耐久性を持つとも言われる化け物だからね!!せいぜい、全身蚊に刺された程度のかゆみしか感じていないはずだよ!!」
…それはそれで普通に効いているような気がしなくもないのだが。
あ、よく見たら相手の側面からにょっきり腕が生えて、全力でかきむしりながら迫ってきているようだな…
「結構遅かったね、春。いつもなら定時なのに、もう7時を回りそうで暗くなっているよ」
「ちょっと会議が、ドタバタしてね」
ブロロンッとサイドカーのエンジン音を聞きつつ、春たちは帰路についていた。
いつもならば定時で終わってゆったりしている帰り道だが、本日は少々社内でドタバタすることがあり、そのせいでやや遅めの残業になったのである。
吸血鬼に狙われている今日この頃なので、出来れば遅い時間の帰宅は避けたかったのだが、仕方がないことだったのだ。
「まさか、うちの会社のネクロノミコン部が会議中に何か降りてきたとか発言して、やばい呪術を行った後に画期的な企画を出してくるとは…何がどうつながるか、わからないものだなぁ」
「何なのその部?」
「元々、太郎丸さんを黒魔術的な儀式で呪術をかけようとしていたところの、正式名称。会社での同好会みたいな扱いで、正式登録されているんだけど、見た目がまんまやばい感じの奴だよ」
「あって良いのかな、そんな同好会…」
おっしゃるとおりだが、あるのだから仕方がない。
肝心の太郎丸さん自身が他国の支店へ移動したからここ最近の活動は見られなかったのだが、本日久しぶりに急に動いたかと思えば、社内がドタバタするようなものを出してきたのだ。
まぁ、会社の利益になるような企画であり、マイナスなものはなかったのだが…思ったよりも忙しく動く羽目になり、残業になってしまったのである。
幸いなことに、事前に遅くなってもどのぐらいで終わるかぐらいの予測が付いたので、ミーちゃんを外で待たせることなくちょうどいい時間に迎えに来てもらえるように連絡することが出来たのだが、それでも遅い帰り道になるのは間違いないだろう。
「できればこのまま、何も遭遇したくないけど…こういう暗くなってきたときこそ厳重に注意が必要だっけ」
「そうだよ。私たち、人ならざる様なものが活動しやすいのはこんな暗くなる時間帯だからね…特に吸血鬼なら、太陽光が届かないような今なら滅茶苦茶動きやすくなるかも。だからこそ、近づいてこないように聖水噴霧器も作動させて、後方からの接近も妨害しているけど、これでもまだ足りないかな?」
「あ、なんか後ろのほうやけに煙が出ているなと思ったけど、煙じゃなくてミストなのか…いや、聖水をこんな使い方していいものなの?」
どこで調達したのか、本当に効果があるのかなど疑問があるが、効果のほどは保証できるらしい。
真祖であるミーちゃんにとっては大したことがないレベルにはなっているらしいが、並大抵の吸血鬼…オデールとかいう輩ぐらいであれば、そうたやすく近づけないほどのものになっているそうだ。
とりあえず、これで後方からの襲撃があっても大丈夫な形にはなっているが、そうなると残りは前方と側面からの襲撃になる。
「ふふふ、それでも抜かりはないよ。ロロさんの魔改造によってこのサイドカー、色々と備え付けられているからね!!側面からは速射ニンニクミサイル、前面からは30ミリ太陽光バズーカーなどがあるし、試射済みだよ!!」
「たかがサイドカーに、何を搭載しているのだろうか…」
なお、これはあくまでも対吸血鬼用の魔改造になっているだけであり、まだまだ改造の余地はあるらしい。
吸血鬼の弱点をことごとく取り入れまくっているようで、ミーちゃん曰く吸血界隈でこれを乗り回せばその日のうちに全滅しかねないやばい代物に仕上がっているようだ。
「というか、試した私が言うのもなんだけど、ロロさんやり過ぎているよね、コレ。普段の生活じゃ使わないような改造だらけだよ」
「今更過ぎる」
考えたらただの海賊船だった帆船を、宇宙戦艦にしたり、妖精郷を近未来感あふれるSFチックな神域に改造したりと、前例は既に色々あったか。
こうなってくると、預けて改造中のロブハウスが恐ろしいが…そういえば、そろそろ改造が済むころ合いだっただろうか。
そう思いながら、進むと…ふと、妙な音が聞こえた。
【----ニワ!!】
「ん?」
「何か今、聞こえたな」
何かの鳴き声のような、それでいて聞くことのない様な音。
音というか、何かの鳴き声の様なものであり、どこからか響いて聞こえるような気もするだろう。
でも、横からでもないし後方からも前でもなく、それでもバイクの音が鳴り響く中で聞こえてくるのは…
ドガァァァン!!
【グワニワニワニグワァァァァァァァ!!】
「「道路を突き破ってでっかいワニが出たぁぁぁぁぁぁぁ!?」」
突然、地面が揺れたかと思えば、次の瞬間目の前の道路の地面にひびが入り、そこから巨大なワニが飛び出してきた。
「いや、まずワニかアレ!?頭こそワニだけど、何あの筋骨隆々な化け物じみたやつ!!」
たとえているならば、ボディービルダーの頭がワニにすげ代わっているような、雑コラのような見た目である。
しかし、ただの筋肉ムキムキのゴリマッチョなワニが飛び出したわけではなく、色がどう見ても不健康そうなどす黒い色合いをしており、目がいくつもあったり血管が浮き出て脈動していたりと、明らかすぎる化け物じみた見た目になっているのだ。
「っ、この臭いはオデー…いや、違う、あの吸血鬼の血の臭いはあるけど、違う!!眷属でもなんでもなく…まさか、屍鬼!?」
「何それ!?」
―――
『屍鬼』
吸血鬼は通常、血と契約によって眷属を生み出すが、時たまその儀式に乗っ取らず何らかの方法で生まれてしまったまがいものの化け物。
普通の動植物が眷属になったものとは違って凶暴性や力が異常なほど増しており、場合によっては生み出した吸血鬼よりも凌駕する力を持ったものになりえる。
生みだしてしまえば命令も聞かない制御不可能なものになる危険性から、吸血界隈では生み出すこと自体が禁忌とされており、すぐに排除する必要がある。
―――
「あの馬鹿吸血鬼、春を襲うために用意して…まではないわね。この感じ、恐らく食われているわ」
「というと?」
「グールは制御不可能な化け物だけど、その元となった吸血鬼を食べてようやく完成するものでもあるようで…多分、喰われて爆誕したのかも」
【グワニワニワァァァァ!!】
何をどうして生みだしたのか、何故ここで突然現れたのかはわからない。
ただ一つ言えることとすれば、グールはとんでもない凶暴性を持っており、遭遇した今…
ブロロッロォゥ!!
「春、全速力で今は引き付けて逃げるよ!!私が真祖でも、このマシンが対吸血鬼用に特化していても、ここで下手に暴れたらまずい!!人気のない場所まで誘導する!!」
「わ、わかった!!」
まだここは人がいる市街地の場であり、暗くなってきたとはいえそこからひょこっと人が外に出てきてもおかしくはない場所。
この状況で出てきたら襲われるのは明白であり、今は僕らのほうに意識が向かれているのであれば、さっさと人気のない場所のほうに誘導したほうが良さそうである。
これが普通の吸血鬼であれば、まだ多少は交渉したり物理的に黙らせやすかったりするらしいが、この様子だとグールは相当厄介なもので、簡単に片付くようなものではないのだろう。
そう思いながら、急いで反転してエンジンを吹かせて進めば、背後から勢いよくワニのグールが追跡を始めてくるのであった…
【ワニワニグワァァァァァア!!】
「聖水噴霧器でだいぶ浴びているのに、効いている様子がないなぁ!?」
「吸血鬼やその眷属ならまだしも、相手は異常な耐久性を持つとも言われる化け物だからね!!せいぜい、全身蚊に刺された程度のかゆみしか感じていないはずだよ!!」
…それはそれで普通に効いているような気がしなくもないのだが。
あ、よく見たら相手の側面からにょっきり腕が生えて、全力でかきむしりながら迫ってきているようだな…
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