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Ver.5.0 ~世界の焔と、導きの篝火~

ver.5.1-128 可能性の光はどこにでも

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…神龍帝との戦いも経て、女神の力に関しての理解が深まった。

 まぁ、衣服路上爆散事件を未然に防げたのもあるし、偶然とはいえ非常に良い出会いだっただろう。

「ついでに色々と探って、神様コミュニティも見つけて…この可能性を見つけるとは、先日のイベントの時はさんざんだったけど、ちょっと運が向いてきたかも?」

 こぽこぽとあぶくを立てて、怪しい光を放つ液体がたっぷり入った大鍋を混ぜつつ、僕はそうつぶやく。




 昨日、小規模アップデート予定が発表されたようで、あちこちで騒いでいる人が多いだろう。
 また、嵐の中にあったダンジョンに関しての情報も、前線・攻略組が公開したのもあってか、そちらに向かう人も多くいるらしい。

 だが、そんなことはどうでも良い。

 情報を色々と見ていく中で、偶然発見した…いや、今まで何故それを思いつかなかったのかと言えるものを見つけてしまったのだから。

 そのため、わざわざ久しぶりに錬金術師の職業をフルに発揮して、アイテムを集めるのに全力を尽くし、こうやって作成しているのである。

「それにしても、本当にこれで出来るの?ネタアイテムとして紹介されていたから、そこまで難易度も高くは無いと思うけど…」
「ああ、間違いなくできるはずだよ!!この、『男体化薬』は!!」

 一緒にアイテムを集めつつ、錬金している光景を眺めながらミーちゃんが問いかけた言葉に対して、僕は自信満々に回答する。



 男体化薬…女体化スキルがあるならば、その逆として用意されていてもおかしくはなかった代物。
 考えてみれば、性別が反転するようなアイテムやスキルの存在は他にもあった可能性が0ではなかったのに、なぜこれを探すことはなかったのだろうか。

「このアイテムさえあれば、女神になったときに性別反転して、オンラインの世界限定とはいえ男神として活動できるかもしれないからね!!現実で作れない悲しみがあっても、オンライン上でならばなれるはず!!」
「あー、確かに現実ではそろえることが出来ない、オンライン内の中だからこそ手に入る素材使う門ね…でも、それで良いの?」
「問題ない!!万が一の変態戦隊共にばれた時とかでも、男神として姿を見せられれば惨事は防げるはず!!まぁ、男の状態でバニーにされたりしたら、それはそれで大惨事かもしれないけど…」
「確かに…いや、ハルの場合、そのアバターならちょっとした可愛い女装で済みそうな気もするけどね」

 それはどういう意味なのか。
 色々とツッコミを入れたいが、今はこのアイテムの完成に向けて全力を注ぐべきだろう。

 本当に万が一の遭遇や、女神ではない活動として薬品を使うことが出来れば、今後のバレるリスク等を減らすことが出来るだろうし、悪くはないはずである。


 そう考えつつも、久しぶりに錬金術師としての職業の力を発揮できていることも楽しくなってくるだろう。

「えっと、ここで赤くなってきたらマンドラゴラのみじん切りを投入して…水分が減ってきたら、聖ニガ団子を混ぜると…何でこれが材料に入っているのやら」
「本当はホーリーバードの肉を投入するらしいけれども、情報だとこっちのほうがより効果時間などの強化につながるみたいだね」

 どこでどう考えて、ニガ団子を混ぜることを思いついた人がいたのやら。
 オンライン初期のころに浸かっていたニガ団子とはいえ、知らぬ合間にこっちはこっちで別の可能性が開拓されていたことには驚くだろう。

 なお、聖ニガ団子と名が付く通り、アンデッド系モンスター特攻効果など秘められているようで、他のアイテムの錬金素材としても重宝されているらしい。
 味は濃縮団子に砂糖と唐辛子をブレンドしたものに近いらしいが‥誰だ、この食レポを残したプレイヤー。絶対に食べないと分からない味なのに、細かく書かれているのもなんか怖い。


 そんなことを気にしつつ、手順を間違えていないかしっかり集めた情報とにらめっこしながら、作業を進めていく。
 ネタアイテムとして紹介されていたが、製法がなかなかデリケートなところがあるようで、ほんのわずかでも間違えたら別のアイテムになってしまう可能性もあるらしい。

 ただ、その間違えてなった別のアイテムのほうが、何やら世の中需要があるとも聞くが…間違えずに、しっかりと作るのだ。

「それにしても、男体薬か…元から男の子なハルに効果あるのかな?女神の姿になって女の子になっても、元の性別を参照するなら、効果はなさそうな気がしなくもないけど…」
「それはそれであり得る話だけど、かけられる可能性があったらやりたいじゃん」

 神の肉体に効果があるのかと思うが、可能な限り状態異常に対するデバフを自分の身にかけた状態で行うつもりなので、ある程度の効果は見込めると思いたい。


ゴボゴボゴボゴボボボボ!!
「っと、沸騰してきたら、ここでタイラントアントの目玉と、緑色の蠢く液体を投入して…うん、間違いなく順調に進んでいると思いたいね」
「…ふと思ったけど、それ、本当に使って大丈夫なものなのかな?明らかに、食したらやばそうなものばかりは材料になっているけど…」
「ネット情報だと、味は醤油プリンらしい。ウニになるかと思ったら、混ざらないちょっとやばめの味だけど、飲めないことはないらしい」
「何故醤油プリン」
「わからない。ものによってはサルミアッキ味や革靴味、謎の物体Xドクロ味なんてのもあるらしいけれど、飲める方に入るらしい」

 その味を表現できるってことは、味わったことがあるのだろうが…最後のほうのはわからないとして、先人の尊い犠牲を積み重ねてわかっているから良しとしよう。

 今はもう、この薬品の完成を待つのみだ。

「あとは、ここから現実で三日ほど煮込んで放置状態にすれば良しっと。ログアウトしても火を絶やさないように、稼働し続けるアイテムも使用して、他に何かがうっかり混ざりこまないように防壁とトラップを仕掛けて…これで大丈夫かな」

 目を離している間に、何かがあってはいけないだろう。
 そのため、この最後の過程こそ気を抜かないようにしてやり続けたいが、あいにくちょっと現実のほうの用事…会社のほうで社員に課せられる研修があるらしく、休めないのである。

 うーん、不安はあるができる限り最悪の可能性を排除して…もしも失敗したらに備えて予備の素材も用意しているし、またやることもできなくは無いので、用意しすぎる必要もないだろう。

「というか、三日後にその小アップデートもあるのか…アップデート祝いで一緒にやれそうか。とはいえ、それで変な変更があって影響されても困るし…女神の力でより厳重に守るとしよう」
「女神の手で厳重に守られて作られるアイテムか…ものによっては、神具とかのような扱いにされそうなのに、出来上がるのが男体薬…うーん、なんだろうこの、何か間違っている使い方な感じは」


 そんなツッコミをされたが、気にする必要もあるまい。
 この薬品が完成した暁には、このオンライン内で黒き女神ではなく、黒き神として誕生できるのだ。

「ふふふ…完成が待ち遠しいなぁ」

 アップデート共に生まれた楽しみに、僕は期待を胸に心を弾ませるのであった…




「ところで、逆の効果として女体化薬もあるの?」
「あるらしい。スキルとしても元々持っていたけど、最近確認されたようだよ。でも…」
「でも?」
「性転換してまさかの美少女になった、みたいな話がよくあるけど、そう都合よく行かないって。ある程度元の容姿が影響するらしく、噂だとゴリラマンさんが試した結果、花の付いたピンクゴリラになったらしい」
「何で試したのか…」
「教育者たるもの、物凄いデバフなどの危険性を考慮し、生徒の身の安全を考え、まずは自分の身で確認した結果らしいよ」

…ついでに噂話を聞きつけた欲望戦隊が、手に入れられないのであれば、自らの肉体を美少女にできないかと試し、大惨事が起きたとも聞く。
 何をやっているのだろうか、あの戦隊。
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