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2章 吹く風既に、台風の目に

2-17 教訓を糧に、工夫も凝らし

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 先日あった、飛行するタイプの魔獣の件。

 あれはマグネットランサーモードとやらでどうにかできたが、全てが金属の魔獣ではないこともあるし、磁力が効かないような相手もあるので、何かと使える場面がかなり限定されていた。

 いや、そもそもあのモードの後にゼナは酔うから封印を決定したらしいのだが‥‥‥‥


「というか、魔剣も目を回すのか?」
「感覚的なものによりますので、個人差、いえ、個剣差によって変わるはずデス。カッコ良さや見た目、一応戦略的な多方向への対応、威力の増加を狙って回転する魔剣士の方々もいるのですが、たまに滅茶苦茶酔うからやめてほしいと愚痴をこぼす魔剣もいるのデス」

 そんな文句を言う魔剣もいるのか…‥‥意志があるらしいからありえなくもないのだが、文句を言いたいのに口にすることができない魔剣には何とも言えない気持ちになる。
 まぁ、そもそもゼナがこうやって普通に会話が成り立つメイドの魔剣という時点で色々おかしい気もするのだが、そこにツッコミを入れてももうしょうがない事だと諦めている自分もいるだろう。


「それで、本日の模擬戦の授業内で私は提案しまシタ。そう、対空戦闘の模擬戦も入れるべきダト」
「だから、色々遠隔操作で武器を放てる魔剣士が、相手になっているのか‥‥‥」

 魔剣にも色々あるようで、火球を飛ばしたり、岩石を放つもので今回の授業の模擬戦は行われていた。

 多少状況が違えども、それでも出来る限り対空戦闘に近づけた形で行われている模擬戦は、出される弾などをどうにかこうにか切り捨てるなどの対処を行うことによって空中戦に備える心構えを付けられるらしい。

‥‥‥全部が全部、空中の相手って訳でもないけれどね。魔獣の中には土中を進むものや水中、火中なども突き進むタイプもいるらしいので、何かと状況が変わりやすい。

 だからこそ臨機応変に対応しつつ、各戦況に応じて魔剣を持つ者を向かわせる人たちもいるらしいが、先日の一件は各所で発生したからこそ情報共有が追い付かずに起きたからこそ、苦戦したらしい。普段ならば最適な魔剣士が派遣されるらしいが、それでも距離などもあるのでまだまだ改善すべきところはあるそうだ。

 魔獣との戦闘は長いことあるらしいが、それでも対処を一つ作ればそれを超える魔獣がでてきた利することもあるらしいからね‥‥‥何かと面倒なものでもある。

「ところで、対空戦闘の授業だけど何か策でもあるのか?}
「ふふふ‥‥‥私がただ何も、対策を立てずに授業を提案したと思いますカ?メイド魔剣たるもの、ご主人様に対する魔獣への対応を想定して自己改良をするべきだという事で、新しいモードを密かに作っていたのデス!」
「いや、普通のメイドがまず授業に提案をして、教員に意見が取り入れられること自体特殊な事だと思うけどな?」
「ツッコむのはやめておけ。あのメイド魔剣に対して常識は通じんぞ」
「というか、そもそも魔剣が自己改良できるのか…‥‥魔剣の謎を増やしていくだけの、謎製造機じゃないか?」

 ゼナの言葉に対して、周囲の同級生たちがひそひそとそう話し合うが、同感である。

 メイド魔剣、謎が多いというか解決しそうにない迷宮入りの代物を、さらに複雑怪奇に変えていっているようにしか思えないのである。本当になんだろう、このメイド魔剣。

 そう思いつつも、いつも通りのソードモードに変わった。

「新しいモードがあるなら、最初からそっちに変わればよくないか?」
「初披露する場合は、こういう方がいいと教わってマス。最初から見せるのはナンセンスだそうデス」
「誰にだよ…‥‥いやまぁ、とりあえずその新しいモードとやらにチェンジしてくれ」
「了解デス!ノーマルモードからチェンジ、『ソードウイングモード」!!」

 彼女がそう口にした瞬間、腕にあった剣が移動して背中側に回り込む。

 そしてそのまま形状を変化させ、鳥の翼のように…‥‥いや、先日のバッドバッドを参考にしたのか蝙蝠のような鋼の翼に変わった。

「ご主人様の身体を動かして感覚をつかんでもらいマス」


 もう慣れたけれども、ゼナに体を操られて空に浮き上がった。

 少々強く蹴り上げたが、最初の部分だけは自力で宙に出る必要があるらしい。けれども、一度空中に浮きあがりさえすれば、後は自由自在に飛行できるそうだ。


「…‥‥羽ばたき自体がほとんどないのに、どういう理屈で浮いているんだこれは」
「火や岩を出す魔剣に対して、今さらという感じデス」

‥‥‥何も言えない。そう言えば魔剣も色々と出せるけど、考えたらどこからどうやって作られて出てきているのかというツッコミが入りそうなものだ。

 でも考えたところで意味をなさないので、ここは誰もツッコミを入れないのだろう。


「基本的に、翼が刃になってますので、体当たりに近い方法で攻撃を行いマス。地上からの弾を狙ってくだサイ」

 翼そのものが刃となっているので、体当たり攻撃を主軸にするらしい。

 けれども遠距離相手にも考えているようで、翼から風の刃も出せるようになっているようだ。


「おお、なんか使うとこれはこれで凄いな…‥‥しかも空を飛べて遠距離攻撃手段があると、地上の魔獣相手に圧倒的なアドバンテージが取れそう!」
「ですが、飛行性能にやや力を振ってますので、風での刃を用いた攻撃力自体はソードモードに劣りマス。あくまでも地上の敵は地上用の攻撃で行うほうが良いでしょウ」

 魔剣と魔獣との相性があるように、このモードチェンジにそれなりに影響があるらしい。

 要は相手によって考えなければいけないようだが、先日のバッドバッドの剣で実感させられているので色々と手探りで確認しておくのが良いだろう。

 とにもかくにも、大空を飛翔して進めるこの感覚は、戦闘抜きであれば結構楽しいのであった‥‥‥うん、空を飛ぶのは何かと夢に見る事もあるからな。大空を自由気ままにできるのは気分が良い。

「あ、それと実はこのモード、少々制限がありマス」
「何かあるのか?」
「まだ、あくまでも大空からの魔獣に対する手段の構築をしたばかりで、悪天候時の対策がいま一つなのデス。今後の改良で乗り切れるようにしますが、出来れば悪天候時の飛行は避けてくだサイ」
「言われなくても、嵐の日なんかに飛ぶようなことはしないよ」

 そんな命知らずすぎる行動はしたくはない。それにまだまだ慣れていないし、きちんと把握したうえで考えないといけないんだよなぁ…‥‥







「‥‥‥なぁ、大臣。あれ、鳥か?」
「いえ、人ですね。どうやら件のメイド魔剣を扱う学生のようです」
「メイド魔剣と言う事や、調査で浮かび上がって来たことで胃が痛いのに、今度は空を飛んで目立つというのか…‥‥神がいるならば、我々に試練でも課しているのか…‥‥?」

‥‥‥大空をフィーが楽しんでいる頃、王城の方では遠い目になってそうつぶやく国王と臣下がいたのであった。

「しかもあれで、大分目立つからなぁ…‥‥今のところまだ動きはないが、時間の問題すぎる…‥‥」

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