8 / 52
序章
~権利の譲渡~
しおりを挟む......話とは何だろうか。
そんな事を考えながら、俺はご主人様の部屋まで行く。
(何か怒られるような事したっけ?)
ご主人様の気に触ることはしてない―ハズだ。
思い当たる節を考えていたら、すぐにその時は来てしまった。あー、緊張する。
―コン、コン。
「ご主人様、失礼致します」
「うむ」
扉をノックし、ご主人様の返事を待つ。
これがいつものだ。今朝が異常だっただけで。
―ガチャッ......パタン。
入り際に一礼しつつ、1歩。部屋に足を踏み入れる。
ご主人様はソファーに腰掛けており、自分で淹れたらしいコーヒーを飲んでいる。部屋の中にコーヒーメーカーあるしね。
「話とは何でしょう?」
ご主人様の目を見据えつつ、俺は言う。
だが、
「まぁ、そう早まるな。......座りなさい」
「失礼致します」
ご主人様に座れと言われれば、立っているわけにもいかない。俺はそれに従い、ご主人様と向かい合うようにソファーに座った。
「えー、この5年間。執事としての務め、ご苦労だった」
「......はい。ありがとうございます」
え、何?
クビにされるの、俺。
「うん。そして―本日を持って、志津二くんには執事をやめてもらう」
「はい!?」
驚きのあまり、テーブルに身を乗り出してしまう。
コーヒーカップが僅かに揺れた。
「いや、クビとかではないから安心したまえ。これは私の問題でな―」
「良かった......して、ご主人様の問題とは一体?」
「―財閥・鷹宮だ」
......せっかくクビにならないって安心していたのに。今度は我が家の危機ですか?
「私は鷹宮の会長として全国に企業を構えている。そして、それはどんどん進出させるつもりだ」
「それは存じてますが、まさか......海外進出ですか?」
こくり。
ご主人様はコーヒーを飲み、頷いた。
「故に、私は海外に移住しなくてはならない。相手国との取引や契約も済ませてある。明後日には行くつもりだ」
「あー......」
「明日には引越し業者を手配し、この部屋の家具はみな運んでもらう。そして明後日には自家用機で直行だ。執事くんも連れていくし、コック長も連れていく事になるが......」
自家用機なんて持ってたんですか。
それにしても、
「ご主人様がいなくなったらこの家は成り立ちませんよ?」
「それは重々承知している」
してんのかい。
「だから、志津二くんを家主にする。この家の権限も全て与える」
「いや、それは......」
俺は回答することに躊躇う。躊躇うしかない。
ここの家主は財閥・鷹宮家の会長であるご主人様だけ。その権利を貰うなんて以ての外。
「主の命令に逆らうのか?」
躊躇う俺を、ご主人様はじっと見つめる。
その目は細く、鋭く。威圧感を与える目だ。
逆らえば―そういう目だ。
「志津二くんはもっと自分に自信を持った方がいい。この私が言っているのだ、間違いない」
「......はい、承りました。鷹宮志津二、未熟者ながらやらせて頂きます」
俺は、答えた。
逆らえば―の威圧感より、家主がいないと鷹宮家が成り立たない事の方が心配だったからだ。特にお嬢様。
「そうかそうか、良かったよ。これで鷹宮家は安泰だ」
......そこまでのものじゃないんですが。俺は。
「財閥の面は任せたまえ。志津二くんに頼みたいのは、家主と―異能者組織・鷹宮だ」
「本部も、ですか?」
「うん。関与こそ殆どしていないが、私も鷹宮本家筋の一員だ。異能もある」
そう言えばそーでしたね。
ご主人様の異能なんて見た事ありませんが。
「志津二くんには、私の穴埋めとして本部に......と思ったんだが。その必要もないだろうな」
曰く、結衣さんとかの繋がりも強いからそこは大丈夫。だそうで。言われればそうだけど。
「今の話は後で皆にも伝えておく。......あ、あと1つ。君たちが入学する特別国立高等学校についてだ」
特別国立高等学校。
国立高校はご存知の通り、国が置いた高校だ。
だがこれは『特別』と付く。
「国レベルの影響力を持つ、鷹宮家が創った学校......ですよね?」
「それだけではない。表向きはただの高校だが、本質は異能者育成機関だ。本家筋の異能者だけを集め、日々育成している」
......そこまでのものだったか。
ご主人様から半強制的に入学するよう言われたので、何かがおかしいとは思っていたが。
「元々は鷹宮家の為の高校として私が創ったのだが、いつからかコンセプトが変わっていってね。......次だ。学校の周りには、タレントゥムと言う学園都市がある。それぞれ区別されていて、異能にまつわる研究機関も多々あるんだ」
「今更ですが、一般人には気付かれないのですか?大っぴらに活動しているように思えますが」
いいや、とご主人様は首を降る。
何故なら、
「一般人には、異能と異能者の存在は秘匿している。そんなお伽噺じみた存在し得ないものを.....まさか有るとは思わないだろう?」
「その心理を逆手に取ったというワケですか」
心理とも言えるのか危ういが。
「うむ、これで話はおしまいだ。学校頑張れ」
「はい。それでは失礼致しますね」
俺はもたれかかっていたソファーから立ち上がり、部屋を出た......のだが。
「お嬢様、どうなさいました?」
扉のすぐ横の壁に、お嬢様がもたれかかっていたのだ。
「お父様、海外移住だって?」
「えぇ。......もしかして、聞いてましたか?」
「うん。全部」
お嬢様はそう言うと、1つ。大きな伸びをして。
「これからは2人きりになるわね」
と笑顔で言ってきた。
「そうですねぇ」
「ちょっと。そこは少しくらいポケーっとしなさいよ!少しは私の可愛さに溺れなさい!」
手を胸に当てて、ドヤ顔なお嬢様。
何言ってるんですか。ナルシストですか。
「......リビング行きますよ。ナルシストお嬢様」
「な・ん・で・す・っ・て?」
「リビング行きますよー」
「無視するな!」
ワイワイと騒ぎながら廊下を歩いていた俺たちの事を、ご主人様がそっと見ていたのは内緒の話。
~Prease to the next time!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
110
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる