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序章

~権利の譲渡~

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......話とは何だろうか。
そんな事を考えながら、俺はご主人様の部屋まで行く。

(何か怒られるような事したっけ?)

ご主人様の気に触ることはしてない―ハズだ。
思い当たる節を考えていたら、すぐにその時は来てしまった。あー、緊張する。

―コン、コン。

「ご主人様、失礼致します」

「うむ」

扉をノックし、ご主人様の返事を待つ。
これがいつものだ。今朝が異常だっただけで。

―ガチャッ......パタン。

入り際に一礼しつつ、1歩。部屋に足を踏み入れる。 
ご主人様はソファーに腰掛けており、自分で淹れたらしいコーヒーを飲んでいる。部屋の中にコーヒーメーカーあるしね。

「話とは何でしょう?」

ご主人様の目を見据えつつ、俺は言う。
だが、

「まぁ、そう早まるな。......座りなさい」

「失礼致します」

ご主人様に座れと言われれば、立っているわけにもいかない。俺はそれに従い、ご主人様と向かい合うようにソファーに座った。

「えー、この5年間。執事としての務め、ご苦労だった」

「......はい。ありがとうございます」

え、何?
クビにされるの、俺。

「うん。そして―本日を持って、志津二くんには執事をやめてもらう」

「はい!?」

驚きのあまり、テーブルに身を乗り出してしまう。
コーヒーカップが僅かに揺れた。

「いや、クビとかではないから安心したまえ。これは私の問題でな―」

「良かった......して、ご主人様の問題とは一体?」

「―財閥・鷹宮だ」

......せっかくクビにならないって安心していたのに。今度は我が家の危機ですか?

「私は鷹宮の会長として全国に企業を構えている。そして、それはどんどん進出させるつもりだ」

「それは存じてますが、まさか......海外進出ですか?」

こくり。
ご主人様はコーヒーを飲み、頷いた。

「故に、私は海外に移住しなくてはならない。相手国との取引や契約も済ませてある。明後日には行くつもりだ」

「あー......」

「明日には引越し業者を手配し、この部屋の家具はみな運んでもらう。そして明後日には自家用機で直行だ。執事くんも連れていくし、コック長も連れていく事になるが......」

自家用機なんて持ってたんですか。
それにしても、

「ご主人様がいなくなったらこの家は成り立ちませんよ?」

「それは重々承知している」

してんのかい。

「だから、志津二くんを家主にする。この家の権限も全て与える」

「いや、それは......」

俺は回答することに躊躇う。躊躇うしかない。
ここの家主は財閥・鷹宮家の会長であるご主人様だけ。その権利を貰うなんて以ての外。

「主の命令に逆らうのか?」 

躊躇う俺を、ご主人様はじっと見つめる。
その目は細く、鋭く。威圧感を与える目だ。
逆らえば―そういう目だ。

「志津二くんはもっと自分に自信を持った方がいい。この私が言っているのだ、間違いない」

「......はい、承りました。鷹宮志津二、未熟者ながらやらせて頂きます」

俺は、答えた。
逆らえば―の威圧感より、家主がいないと鷹宮家が成り立たない事の方が心配だったからだ。特にお嬢様。

「そうかそうか、良かったよ。これで鷹宮家は安泰だ」

......そこまでのものじゃないんですが。俺は。

「財閥の面は任せたまえ。志津二くんに頼みたいのは、家主と―異能者組織・鷹宮だ」

「本部も、ですか?」

「うん。関与こそ殆どしていないが、私も鷹宮本家筋の一員だ。異能もある」

そう言えばそーでしたね。
ご主人様の異能なんて見た事ありませんが。

「志津二くんには、本家筋の穴埋めとして本部に......と思ったんだが。その必要もないだろうな」

曰く、結衣さんとかの繋がりも強いからそこは大丈夫。だそうで。言われればそうだけど。

「今の話は後で皆にも伝えておく。......あ、あと1つ。君たちが入学するについてだ」

特別国立高等学校。
国立高校はご存知の通り、国が置いた高校だ。
だがこれは『特別』と付く。

「国レベルの影響力を持つ、鷹宮家が創った学校......ですよね?」

「それだけではない。表向きはただの高校だが、本質はだ。本家筋の異能者だけを集め、日々育成している」

......そこまでのものだったか。
ご主人様から半強制的に入学するよう言われたので、何かがおかしいとは思っていたが。 

「元々は鷹宮家の為の高校として私が創ったのだが、いつからかコンセプトが変わっていってね。......次だ。学校の周りには、タレントゥムと言う学園都市がある。それぞれ区別されていて、異能にまつわる研究機関も多々あるんだ」

「今更ですが、一般人には気付かれないのですか?大っぴらに活動しているように思えますが」

いいや、とご主人様は首を降る。
何故なら、

「一般人には、異能と異能者の存在は秘匿している。そんなお伽噺じみた存在し得ないものを.....まさか有るとは思わないだろう?」

「その心理を逆手に取ったというワケですか」  

心理とも言えるのか危ういが。

 「うむ、これで話はおしまいだ。学校頑張れ」

「はい。それでは失礼致しますね」

俺はもたれかかっていたソファーから立ち上がり、部屋を出た......のだが。

「お嬢様、どうなさいました?」

扉のすぐ横の壁に、お嬢様がもたれかかっていたのだ。

「お父様、海外移住だって?」

「えぇ。......もしかして、聞いてましたか?」

「うん。全部」

お嬢様はそう言うと、1つ。大きな伸びをして。

「これからは2人きりになるわね」

と笑顔で言ってきた。

「そうですねぇ」

「ちょっと。そこは少しくらいポケーっとしなさいよ!少しは私の可愛さに溺れなさい!」

手を胸に当てて、ドヤ顔なお嬢様。
何言ってるんですか。ナルシストですか。

「......リビング行きますよ。ナルシストお嬢様」

「な・ん・で・す・っ・て?」

「リビング行きますよー」

「無視するな!」

ワイワイと騒ぎながら廊下を歩いていた俺たちの事を、ご主人様がそっと見ていたのは内緒の話。


~Prease to the next time!
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