一条春都の料理帖

藤里 侑

文字の大きさ
557 / 893
日常

第五百二十五話 ハンバーガー

しおりを挟む
 つい昨日、冬休みが終わったばかりなのに、また休みだ。なんか調子狂うなあ。だからといって休みということに異論はない。いやあ、土曜課外がなくてよかった。
 いい天気の中、家の中に引きこもってゲームをする贅沢。やらなければいけないことをやって、それからするゲームというのは、格別だ。スマホゲームもいいもんだが、カセットを入れて、セーブデータを選んでやるゲームもまた、良いのである。
「コントローラーが……」
 今のところ少々……いや、だいぶ支障があるというか、不満というか、ゲームをするうえで気が散るのは、コントローラーの誤作動だろうか。勝手にキャラクターが動くんだよなあ。おかげでパズルゲームじゃミス連発だし、物の配置がうまくいかない。
 繋ぎなおしたり、設定しなおしたりしてみても、どうもうまくいかない。年末年始に使い過ぎたか。
「ああー、違う違う、そこじゃなくて」
「何言ってんの、さっきから」
「あー、それがさ……」
 かくかくしかじか、父さんに事情を説明する。
「修理出そうかなあ、そろそろ。もう限界。見て」
 何も触っていないのに、キャラクターは猛ダッシュしている。父さんはそれを見ると笑った。
「そうだね、それは出した方がいいだろうね」
「でも出してる間はゲームできないし」
「じゃあ、代わりのコントローラーを買えばいいじゃないの」
 と言うのは母さんだ。
「そしたら何人かでゲームするときにも使えるでしょ」
「なるほど」
「修理に出すコントローラーの梱包なら任せて。得意分野よ」
 母さんは「箱と緩衝材も買わないとね」と付け加えた。父さんはスマホを見ながら「修理依頼をまずは出さないとな」と言った。
 安い買い物ではないが……まあ、初売りの手伝いしたおかげでお小遣いもらったし、買おうかな。

 プレジャスのゲーム売り場は以前よりも縮小されていたが、コントローラーはちゃんと置いてあった。いろんな色があるんだよなあ。何色にしようか。修理に出すやつは右が黄緑で左がオレンジだから、別の色にしたいなあ。
 無難な色もいいけど、奇抜な色も好きだ。ゲーム機本体が黒だから、派手な色が映えるんだよな。
「うーん……」
 熟考している間、父さんと母さんはゲームのカセットを見ていた。
「いろんなゲームがあるのね」
「おっ、このシリーズまだ出てるのか」
 やはりオレンジに惹かれるが、紫も捨てがたい。右と左で違う色を選べるので、右を何色にして左を何色にすべきかというのもある。うーん、何色がいいかなあ。紫、気になってんだよな。よし、右は紫に決定。
 左はどうすっかなあ。紫に合う色か……暗めの色がいいのだろうか。いやいや、ここは派手にいこう。ピンクだ。
「決まったよ」
「お、何色にしたんだ?」
「紫とピンク」
「また派手なの選んだのねえ」
 いいんじゃない? と、父さんも母さんも笑った。
 ゲームのカセットも欲しいのがあるんだけど、さすがに予算オーバーかな。
「どうしたの、何か欲しいのある?」
 つい、そのゲームカセットの前で立ち止まっていたら、母さんが聞いてきた。
「あ、いや、これずっとほしいなーと思ってて」
「これ? ああ、楽しそうね」
「CMで見たことあるぞ。父さんも実は気になってたんだ」
 オンライン対戦が主なのかなと思っていたが、実はそうでもないと分かってから、欲しいなあと思うようになったのだ。ストレス発散になりそうな陣取りゲームだが、バトルフィールドに一人で落書きしまくれるモードもあるらしい。やりてえんだよな、それ。
「よし、じゃあこれは私たちが買おう」
「えっ」
 思いがけない母さんの言葉に、父さんと母さんの顔を交互に見る。
「高いよ?」
「いいのいいの。春都はコントローラーだけ買いなさい」
「でも……」
「気にするな」
 父さんは言って笑った。
「父さんたちもやりたいんだ」
 そう言われては、何も言い返せない。ありがたく受け取っておくことにしよう。
「ありがとうございます」
 まさしく、大吉な一年の始まりだ。

 帰りにドライブスルーでハンバーガーを買って帰る。オンライン注文で頼んでいたから、すんなり買えた。すごいな、便利だなあ。
 期間限定の焦がし醤油ソースたっぷりのハンバーガーにポテトとオレンジジュースを合わせてみた。チキンナゲットもたくさんだ。
 テイクアウト商品を家で広げる時間って、なんか楽しい。
「いただきます」
 ハンバーガー、でかいなあ。バンズがふわふわのカリカリだ。肉も分厚いし、レタス、トマト、玉ねぎがたっぷりだ。
 香ばしい表面にふわふわの中身、まぶされたゴマの香ばしさもさることながら、焦がし醤油ソースの豊かな香りが鼻に抜ける。ほんの少しヒリッとするのもいいな。
 分厚いパテは肉汁がすごい。焦がし醤油風味だというだけではなく、パテにも焦げ目がいい感じについていて、香ばしい。普段のハンバーガーよりもあらびきな感じの肉だから、食べ応えがある。
 みずみずしいレタス、シャキッと爽やかな玉ねぎ、トマトの酸味がうまいこと口をさっぱりさせる。やっぱり、ハンバーガーには野菜が必要だよなあ。
 ここにシロップの甘味の効いた、爽やかなオレンジジュースを流し込む。細かい氷で冷やされたオレンジジュースは、熱くなった口に程よい。
 チキンナゲットにはバーベキューソースを。程よい香辛料の香りにわずかばかりの果実風味、焼き肉のたれに似て非なる味わいがたまらないな。マスタードの酸味は柔らかで、でも香りは抜群だ。
 ポテトは塩が濃く、カリッと揚がっていて病みつきになりそうだ。ソースをつけて食うとまた変わっていい。
 ピクルスを一枚食べて、ハンバーグを食べ進める。ほんのり暖かくなったピクルス、風味と食感がいいな。
 包み紙に残ったソースも余すことなく食べたいものである。ハンバーガーの最後の一口で拭って食べる。パンがうまいことソースを吸ってくれて、おいしい。あっ、ピクルスもう一枚入ってた。なんかラッキー。
 あーうまかった。さて、あとは残ったジュースを飲みながら、ゲームでもしようかな。

「ごちそうさまでした」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...