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第1章 少年理久・幼少の記憶
No,11 亮ちゃん何をしたの?
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【これは小学校4年のお話】
僕と亮ちゃんの秘密のお医者さんごっこは、途切れる事なく続いていた。
それはもはや無垢な「ごっこ遊び」の範疇を越え、いつしか微熱に浮かされて見る白昼夢のように怪しげな秘め事となっていった。
でも、それは僕にとっては恋でもSEXでもない。もちろん精通も無かったし、その意味だってまだ知らなかった。
ただ、何かしら性的な興奮が伴っていた事だけは確かと思う。
そしてそれは、2歳年上だった亮ちゃんにとってはもっと悩ましく深刻な問題行動であった事を、僕はずっと後になってから知る事になる。
それは4年生の時だった。ご近所グループで「かくれんぼ」をした。
波奈は中学生になってグループを抜けて、次代のリーダーは6年生の亮ちゃんだった。
6年生にもなって「かくれんぼ」か?と思わないでもないけど、まだ低学年の子もいたし、僕の家でする「かくれんぼ」は定評があった。
なんてったって、事務所を兼ねる僕の家はちょっと広い。これだけのスペースでの「かくれんぼ」はバカに出来ない。高学年でも楽しかった。
ただし、両親共に留守でなければ出来ない遊びだ。そのレア感も、楽しさに拍車を掛けた。
「理久!こっちこっち!」
亮ちゃんが僕を呼び寄せる。そこは畳を敷いた客間の押入れ。
「ここに一緒に隠れよう!」って亮ちゃんは言う。開けるとそこには、みっちりとお客さん用の布団があった。
「理久、先に入れ、布団の裏のずっと奥まで」
「うん、分かった。亮ちゃんきついよ、押してくれる?」
僕たち二人は押入の布団の裏に挟まれた。狭くてとても身動きできない。
「閉めるぞ」
「うん」
内側から何とかかんとか戸を閉めると、中は真っ暗になってしまった。目を見開いても、鼻の先さえ見えはしない。
「亮ちゃん、きついよ」
「しーっ、黙って……」
瞬間、僕達は暗闇と無音の世界に包まれた。微かに聞こえるのは互いの吐息だけ。
壁と布団に挟まれて、しかも亮ちゃんの身体まで密着している。
あれは何分間の出来事だった?
亮ちゃんの腕が僕の肩に回って、顔を亮ちゃんの方へと向けられた。暗闇でなんにも見えないけれど、それくらいの事は何となく分かる。
唇に感じるささやかな圧迫。
時間にしたらほんの数秒?
(なに?この感じ……)
亮ちゃんの汗は甘い匂い。
唇が何かに塞がれている。
(手のひら?声なんて出さないよ?)
温かくて柔らかい。そして甘い、亮ちゃんの匂い。
(亮ちゃん、息が出来ないよ…)
あの時のあれが何だったのか?
僕はそれを、ずっと考える続けることなる。
──その答えを知る時がいずれ来るけど、それはまた別のお話。
それっきり、亮ちゃんは僕に冷たくなった。悪戯な遊びにも誘ってくれない。
僕の気持ちも変だった。
「淋しい」と言うよりムカついた。
(亮ちゃんは、僕の事が大好きだって言ったじゃないか!)
もちろん、あの頃の僕に恋心なんて大それたものなど有るはずもない。
でも、何となく裏切られたような、嘘をつかれたような気分になった。
(もう、亮ちゃんなんかと遊んであげない!)
僕は僕で、意固地になっていたのかも知れない。
やがて亮ちゃんは中学に上がった。
こんなに近所なのに、不思議なくらい会わなくなった。
不自然なくらい顔を見ない。
何が亮ちゃんを不機嫌に変えた?
亮ちゃんが、思春期に僕の事でずっと悩んでいたなんて、それはずっと後になってから知る事だった。
あの時の僕はただ拗ねていただけ。
(亮ちゃんなんてもういいや。
もう、知らない……)
あの押し入れの中のよく分からない「感触」以来、僕たちの秘密の遊びは完全に途絶えた。
僕と亮ちゃんの秘密のお医者さんごっこは、途切れる事なく続いていた。
それはもはや無垢な「ごっこ遊び」の範疇を越え、いつしか微熱に浮かされて見る白昼夢のように怪しげな秘め事となっていった。
でも、それは僕にとっては恋でもSEXでもない。もちろん精通も無かったし、その意味だってまだ知らなかった。
ただ、何かしら性的な興奮が伴っていた事だけは確かと思う。
そしてそれは、2歳年上だった亮ちゃんにとってはもっと悩ましく深刻な問題行動であった事を、僕はずっと後になってから知る事になる。
それは4年生の時だった。ご近所グループで「かくれんぼ」をした。
波奈は中学生になってグループを抜けて、次代のリーダーは6年生の亮ちゃんだった。
6年生にもなって「かくれんぼ」か?と思わないでもないけど、まだ低学年の子もいたし、僕の家でする「かくれんぼ」は定評があった。
なんてったって、事務所を兼ねる僕の家はちょっと広い。これだけのスペースでの「かくれんぼ」はバカに出来ない。高学年でも楽しかった。
ただし、両親共に留守でなければ出来ない遊びだ。そのレア感も、楽しさに拍車を掛けた。
「理久!こっちこっち!」
亮ちゃんが僕を呼び寄せる。そこは畳を敷いた客間の押入れ。
「ここに一緒に隠れよう!」って亮ちゃんは言う。開けるとそこには、みっちりとお客さん用の布団があった。
「理久、先に入れ、布団の裏のずっと奥まで」
「うん、分かった。亮ちゃんきついよ、押してくれる?」
僕たち二人は押入の布団の裏に挟まれた。狭くてとても身動きできない。
「閉めるぞ」
「うん」
内側から何とかかんとか戸を閉めると、中は真っ暗になってしまった。目を見開いても、鼻の先さえ見えはしない。
「亮ちゃん、きついよ」
「しーっ、黙って……」
瞬間、僕達は暗闇と無音の世界に包まれた。微かに聞こえるのは互いの吐息だけ。
壁と布団に挟まれて、しかも亮ちゃんの身体まで密着している。
あれは何分間の出来事だった?
亮ちゃんの腕が僕の肩に回って、顔を亮ちゃんの方へと向けられた。暗闇でなんにも見えないけれど、それくらいの事は何となく分かる。
唇に感じるささやかな圧迫。
時間にしたらほんの数秒?
(なに?この感じ……)
亮ちゃんの汗は甘い匂い。
唇が何かに塞がれている。
(手のひら?声なんて出さないよ?)
温かくて柔らかい。そして甘い、亮ちゃんの匂い。
(亮ちゃん、息が出来ないよ…)
あの時のあれが何だったのか?
僕はそれを、ずっと考える続けることなる。
──その答えを知る時がいずれ来るけど、それはまた別のお話。
それっきり、亮ちゃんは僕に冷たくなった。悪戯な遊びにも誘ってくれない。
僕の気持ちも変だった。
「淋しい」と言うよりムカついた。
(亮ちゃんは、僕の事が大好きだって言ったじゃないか!)
もちろん、あの頃の僕に恋心なんて大それたものなど有るはずもない。
でも、何となく裏切られたような、嘘をつかれたような気分になった。
(もう、亮ちゃんなんかと遊んであげない!)
僕は僕で、意固地になっていたのかも知れない。
やがて亮ちゃんは中学に上がった。
こんなに近所なのに、不思議なくらい会わなくなった。
不自然なくらい顔を見ない。
何が亮ちゃんを不機嫌に変えた?
亮ちゃんが、思春期に僕の事でずっと悩んでいたなんて、それはずっと後になってから知る事だった。
あの時の僕はただ拗ねていただけ。
(亮ちゃんなんてもういいや。
もう、知らない……)
あの押し入れの中のよく分からない「感触」以来、僕たちの秘密の遊びは完全に途絶えた。
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