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第6章 片想いは辛すぎるから

No,75 親友なんかでいられない

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【これは高校3年のお話】

 ここでちょっと部活の話。
 吹奏楽部の二大行事──それは定期演奏会と吹奏楽コンクールだ。

 何度か話したように、人員不足の男子校ではなかなかコンクールの「Aクラス」出場は難しい。
「Bクラス」でも頑張る事は頑張るけれど、強豪校のようなモチベーションにはどうしても欠ける。

 やはり我が部のメイン・イベントは「定期演奏会」だった。これは卒業生のさよならセレモニーでもある。
 定期演奏会は毎年1学期後半、夏休み前に行われる(だから初心者の一年生は頭数だけで、実は大部分を吹いている振りで済ませている)
 3年生はこの演奏会で引退し、あとは大学受験に控えると言うわけだ。

 だから夏にから秋にかけて開催される吹奏楽コンクールには、基本1~2年生で参加することになる。
──と言う、以上は建前。
 人員不足の我が校では、事実上は引退したはずの3年生が、コンクールでも貴重な戦力となっている。
 そしてその3年生の参加については、その一切が本人の判断にゆだねられていた。つまり別の言い方をすれば、自己責任と言う事だ。

 もちろんそれは進路によって様々だった。
 大学受験と言っても、系列大学にそのまま上がるのと外部の大学を改めて受けるのではかなり事情は違ってくる。


※──────────※


 この件については、以前から平田との間では会話されていた。

「え?歴野、演奏会で引退するの?コンクールには出なくていいの?」
 平田は目を丸くして俺を見上げた。
「ああ、俺、父親の事務所を本気で継ぐ事にしたんだ。だからそれなら、それに直結した学部に進みたい。それは、うちの大学では無理なんだ」
「え?よその大学に行くの?オレ、歴野とは大学も一緒だと思ってたのに!」


 そうだよな。平田はそう思うだろうな。俺達は「親友」だから……。
 でも、俺はもう、おまえと一緒にいるのに疲れたよ……。


 誤解の無いように改めて書きたい。
 俺にとって最も安直な進路は、このまま系列の大学に進む事だ。きっとコンクールにも出場出来るし、そんなにきつい受験勉強をする必要もない。

 でも、俺も色々考えた。
 まず、自分が「同性愛者」だと言う確固たる事実。
 もし普通に大学を出て普通に就職したなら、たとえそれがどんな職場であれ、一生独身で、家族も持たない自分の居場所は確保されるのか?
──と言う疑問。

 今のようにLGBTに気遣いのある時代ではなかった。
 男は結婚して一人前。腰掛けOLは花嫁要員。職場結婚も出来ないならお見合いしろ!と、そんな時代だった。

 自由業?
 職人?
 起業?

 どれもピンと来ない俺にとって、最も身近な理想が父親の職業だった。
 父親のなりふりは子供の頃から見て育った。孤独と言えば孤独なのかも知れないが、煩わしい人間関係は一切無い。
 依頼された仕事を黙々とこなしていれば、俺が独身か妻子持ちかなんて誰も気にも掛けない。

 子供の頃から漠然とあった
「父の事務所を継ぐ」と言う進路が、俄然真実味を増してきた。
 だとしたら、漫然とこのまま系列大学に進んで良いのか?うちの大学に、父親の仕事の専門学部は無い。

 調べると、東京になら俺でも頑張れば入れそうな大学がいくつか候補に上がってきた。
 4年は長い。学費も高い。
 それならその時間も費用も、最も有意義に使うべきではないのかと、それが一番の理由だった。


 その上でさっきの台詞だ。

「俺はもう、おまえと一緒にいるのに疲れたよ……」

 本当にそう。平田は、俺を親友だと思っていてくれる。

 だから俺を愛さない。

 絶対に俺を愛してくれない。

「友愛」と「性愛」では天と地ほど違うのだ。


 俺にとって、平田は親友なんかじやない。
──想い人だ。

 だから俺は終止符を打つ。

 卒業したら、もう会わない……

 
 親友なんかで
─────いられない……!


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