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第13章 むっつり好青年は必死
No,137そこまでにしといてね!
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【これは 大学4年 のお話】
座席が確定した。だからあとは余裕の振る舞いだ。劇場内をうろうろすれば知った顔とも出くわす。
「あら理久ちゃん、今日は普通の男の子みたいな格好してるのね」
なんて声を掛けられる。
さすがに真夏は僕もカジュアルな服装だ。暑苦しくて、ぞろりとスーツなんて着ていられない。
開演5分前。
さあ、そろそろ着座しようかなと席に向かうと──。
(あれ?)
さっきの青年が座っている。
(そうか、自分の席をさばいたのではなく、自分の隣の席をさばいたのか……)
何だか急に気が重くなった。
実はこう言う事は珍しくない。こんな切っ掛けで顔見知りになった女性は多い。が、僕にとって男性は別だ。
自分の事を棚に上げてこんな事を言うのも失礼だけど、東宝劇場に一人で来ている男性や、或いは男同士で来ている人達は何かしら一癖ある人が多いと思っている。
奥さんや彼女との付き合いで普通に観劇に来ている男性は、あまり僕らと接点は生じない。
チエットの「さばき」にまで関わる男性は、例えばどこぞの演劇関係者だったり芸能関係者だったり、あるいはかなりヘビーでマニアなファンだったりする。
僕としては貴重で折角の観劇なのだから、100%舞台に集中したい。変に話し掛けられて気を使うのは億劫だ。
また宝塚のファンにLGBTの人が多いことも事実だ。
ここまで数年のファン活動の中でビアンの女性カップルと知り合った事もあるし、隠す気もない派手なオネエさんグループも度々見掛ける。
でも彼等はすべからく良く弁えている。ここは「神聖なる宝塚歌劇をお淑やかに鑑賞する劇場」なのだ。だからお互い当たりさわりなく、良い意味で知らん振りでやり過ごす。
もし知った顔と出会っても、お互い静かな微笑で会釈し合うだけだ。誰も「あら!ネェさん!ご盛んだわねぇ!」なんてド派手に大声を張ったりはしない。
が、中にはちょっと困るタイプの人もいる。要するに、こんなところでナンパされても迷惑なのだけれど……
僕の宝塚観劇史上、不埒にも何回か、この神聖な劇場内でナンパをされた事がある。
──この話は、実はそのひとつなのだ。
※──────────※
「失礼します」
と、さりげなく挨拶して僕は彼の隣へ腰掛けた。
「ああ、どうぞ……」
と彼も受け答える。常識の範疇だ。
これ以上、僕の方から話し掛ける気はない。彼もじっと黙っていた。
幕が開き、第一部の芝居が始まった。既に何度か観ている芝居だけれど、とにかく席が良かったので楽しめた。
(この人、こんないい席をどうやって取ったんだろう?)
と思い付くと、隣の彼の正体が俄然気になってきたのも事実だった。
大スターの退団公演と言うことで、平日の昼の部でさえ即完売しているのだ。本当なら三階の端っこでも難しいはずだ。
(でもまあ、関わるのは面倒)
と、僕は第一部の幕が降りると無言で席を立った。
幕間は劇場を出て過ごした。半券を持っていれば出入りは自由だから──。
何となく彼から離れたかったのには理由があった。実は既に予感があった。公演中、ちらりちらりと僕の横顔を覗き見るのだ。
(席は上々だけど、ホント、面倒はやだな……)
と思っていた。
座席が確定した。だからあとは余裕の振る舞いだ。劇場内をうろうろすれば知った顔とも出くわす。
「あら理久ちゃん、今日は普通の男の子みたいな格好してるのね」
なんて声を掛けられる。
さすがに真夏は僕もカジュアルな服装だ。暑苦しくて、ぞろりとスーツなんて着ていられない。
開演5分前。
さあ、そろそろ着座しようかなと席に向かうと──。
(あれ?)
さっきの青年が座っている。
(そうか、自分の席をさばいたのではなく、自分の隣の席をさばいたのか……)
何だか急に気が重くなった。
実はこう言う事は珍しくない。こんな切っ掛けで顔見知りになった女性は多い。が、僕にとって男性は別だ。
自分の事を棚に上げてこんな事を言うのも失礼だけど、東宝劇場に一人で来ている男性や、或いは男同士で来ている人達は何かしら一癖ある人が多いと思っている。
奥さんや彼女との付き合いで普通に観劇に来ている男性は、あまり僕らと接点は生じない。
チエットの「さばき」にまで関わる男性は、例えばどこぞの演劇関係者だったり芸能関係者だったり、あるいはかなりヘビーでマニアなファンだったりする。
僕としては貴重で折角の観劇なのだから、100%舞台に集中したい。変に話し掛けられて気を使うのは億劫だ。
また宝塚のファンにLGBTの人が多いことも事実だ。
ここまで数年のファン活動の中でビアンの女性カップルと知り合った事もあるし、隠す気もない派手なオネエさんグループも度々見掛ける。
でも彼等はすべからく良く弁えている。ここは「神聖なる宝塚歌劇をお淑やかに鑑賞する劇場」なのだ。だからお互い当たりさわりなく、良い意味で知らん振りでやり過ごす。
もし知った顔と出会っても、お互い静かな微笑で会釈し合うだけだ。誰も「あら!ネェさん!ご盛んだわねぇ!」なんてド派手に大声を張ったりはしない。
が、中にはちょっと困るタイプの人もいる。要するに、こんなところでナンパされても迷惑なのだけれど……
僕の宝塚観劇史上、不埒にも何回か、この神聖な劇場内でナンパをされた事がある。
──この話は、実はそのひとつなのだ。
※──────────※
「失礼します」
と、さりげなく挨拶して僕は彼の隣へ腰掛けた。
「ああ、どうぞ……」
と彼も受け答える。常識の範疇だ。
これ以上、僕の方から話し掛ける気はない。彼もじっと黙っていた。
幕が開き、第一部の芝居が始まった。既に何度か観ている芝居だけれど、とにかく席が良かったので楽しめた。
(この人、こんないい席をどうやって取ったんだろう?)
と思い付くと、隣の彼の正体が俄然気になってきたのも事実だった。
大スターの退団公演と言うことで、平日の昼の部でさえ即完売しているのだ。本当なら三階の端っこでも難しいはずだ。
(でもまあ、関わるのは面倒)
と、僕は第一部の幕が降りると無言で席を立った。
幕間は劇場を出て過ごした。半券を持っていれば出入りは自由だから──。
何となく彼から離れたかったのには理由があった。実は既に予感があった。公演中、ちらりちらりと僕の横顔を覗き見るのだ。
(席は上々だけど、ホント、面倒はやだな……)
と思っていた。
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