転校してきた清楚系サキュバスの美少女幼馴染に童貞とけつあなを狙われちゃうお話

オニオン太郎

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第4話「俺の妹がこんなにキモい」③

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 シロちゃんの部屋は一言で言えば汚く、脱いだ服や出掛ける用のカバンなどがバラバラと床に散乱していた。

 足の踏み場もないと言うほどではないけど、わかりやすく不摂生だ。片付いている場所と言えば、机とゲーミングチェアの周りだけで、あまつさえ部屋全体に独特な臭気が漂っている。

 もっとも目に付くのは、部屋の隅に追いやられた、大量の白髪の入ったゴミ袋だ。ありえないとは思ったけれど、おそらく自分の髪の毛を自分で切っているのだろう。どれだけ外に出たくないの?


「ひ……うひ……ひ、引かれるよね、やっぱり……でもだって、部屋掃除するのめんどいんだもん……」

「ま、まあ、気持ちはわかるよ……」


 私はひとまずシロちゃんに適当に賛同してお茶を濁した。まあ、確かに、片付けってめんどくさいよね。


「そ、そう言えばなんだけど……」


 と、シロちゃんがもじもじとしながらこちらをじっと見つめてきた。私は「なに?」と首を傾げ、するとシロちゃんは、ものすごく言いにくそうにもごもごと口を動かした。


「その……さっき、鍵開けした時……ちらっと、変な尻尾みたいなのが見えた気がしたけど……アレ、なに?」


 ギクリと、私は焦って背筋を伸ばす。

 まさか、クロくん、シロちゃんに話していないの? 
 いや。確かに、彼ならそうやたらめったら言いふらさないとは思っていたけど。でも、まさか家族にも言っていないなんて。私は予想外の事に驚いてしまった。


「えっ……と、その。……驚かないで聞いてね? ……私、サキュバスなの……」


 私はたどたどしく、慎重に慎重に言葉を出す。シロちゃんは案の定私の言葉を聞いて、わけが分からないと言う感じで首を傾げた。


「……サキュバス並に性欲が強いってこと?」

「そうじゃなくて! ほ、本物のサキュバスなの! 私! 異世界からやって来たの!」


 私はどうにか理解してもらおうと、必死に声を出す。するとシロちゃんは、ポケットからスマホを取り出し、「救急車、救急車、と……」とポチポチ操作を始めた。


「本当だよ! 頭なんか打ってないよ! ほら、見て! 魔法だって使えるんだよ!」


 私はシロちゃんに叫ぶと、手元でボッと炎をつけてみせた。シロちゃんは「ぬおお!?」と驚き、そのままひっくり返ってしまう。


「ほ、本物……!? え、じゃあ、本当にサキュバス!?」

「そ、そう。……こっちには、その、クロくんを追って来たの。小さい頃、アイツと遊んでたことがあって……それで、忘れられなくて……」


 私は恥ずかしさから髪をいじいじとする。シロちゃんはキョトンと目を点にして、「こ、コテコテの幼馴染設定だなぁ」と言いながら、ゆっくりと立ち上がった。


「あー、でも、そう言えばいたね。兄貴と一緒に遊んでた、黒髪の子。そっかぁ、アレ夜陰ちゃんだったかあ」

「あ、し、知っててくれたんだね……」

「うん。君と遊んだ記憶はないけど。遠くから見ていただけだからさぁ。思い出すなぁ、あの時は兄貴を取られた気がして、やけに嫉妬してたなぁ」


 シロちゃんはそう言って、ありし日を懐かしむようにヘラヘラと笑った。私としてはまったく笑えないのだけれど。


「でも、まあ、よかったじゃん。アイツ、よく君のこと話してたよ」

「えっ、本当!?」

「まーねー。アレはたぶん好きだったんじゃないかなぁ。君、きっと兄貴の初恋の人だよ」

「う、ウソ!? 私、初めての人だったの……? こ、これはもう……けつあなを確るしか……」

「そう言う発想に行く辺り本当にサキュバスなんだね……」


 シロちゃんは呆れかえったように肩を落とした。まあ、仕方ないよね。


「でも、兄貴狙うんなら覚悟した方がいいよ~。アイツ、結構モテっからね」

「えっ!? そ、そうなの?」

「うん。バレンタインの時はいつもチョコ持って帰って来て、よく私にくれたんだよね。まあ、なんとなくわかるでしょ? アイツ、チビだけど顔良いし、運動できるし成績もまあ悪くはないし。ハッキリした性格してるし、そりゃ、人気も出るわなぁって」

「そ、そうだよね……。クロくん、カッコイイもんね」

「ちょいちょい男子からも告られてたなぁ。『オスでもいいんだ! いや、むしろオスだからいいんだ!』って」

「クロくんかわいいもんね……」


 私は『まあそういうこともあるよね』と肩を落とした。

 いやでも、クロくんに告白する男子って、何と言うか、結構レベルが高いと言うか。顔の割に結構筋肉質だから、普通に男子ってわかる見た目をしていると思うけど。


「まあとにかく、兄貴は私と違って凄いんだよ。ほら、私はさぁ。中学の頃からこんな感じだし、性格も暗いからさ。……女子からよくいじめられてたし、男子からも陰口言われてたんだけど。でも、兄貴はずっと私を守ってくれてたんだよ。10歳児みたいな体だったのに、デカイ男子にもまったく怯まずにさ」


 シロちゃんはどこか悲壮感を漂わせて続ける。私は彼女のその話に、どうしてシロちゃんが、クロくんのことをああも好ましく思っているのかを理解した。

 ――そうか。私と、同じなんだ。そう思った途端、気付けば私は、心の内をシロちゃんにそのまま打ち明けた。


「わかるなぁ。私もね、アイツを好きになった理由、アイツから守ってもらえたからだし」


 シロちゃんがわかりやすく私に反応する。まだ話を続けても良いことを察すると、私はさらに言葉をつなげていく。


「実はね。私のお母さん、夜職でさ。サキュバスだからそれが一番良いのだけど、こっちの世界だと、これって悪いことって思われるみたいで。そのせいで私、すっごいからかわれたの。エロ女とか、どうせ浮気で生まれた子供だろ、とか」

「う、うっわぁ……ガキ特有の倫理観も配慮もまったくない鬼畜発言……」

「その時に、親の仕事は関係ねぇだろって、私の味方をしてくれたのがクロくんなの。『他人をバカにしていじめるお前らの方が余程惨めだよ』って、私の前で堂々と言い返してくれてね。その姿が今も目に焼き付いているの。それから、流石にこっちの価値観じゃ育てられないって、向こうの世界に行ったんだけどね。……あんなにカッコイイ後姿を見たら、そりゃ、好きになっちゃうよね」

「――そう、だね。わかるよ。私も昔はマジで好きだったから」

「ごめん、それは結構謎。双子の兄妹にそう言う気持ちって抱くものなの?」

「そんなこと言われても私だってわかんないよ。キモさや罪を許してこそ多様性でしょ?」

「それ、割とガチで言ってたんだね……」

「炎上は現代社会で一番の娯楽だよ。人を殴るのは楽しいって社会学者も言ってた」


 シロちゃんはそう言ってげへげへと笑った。なんと言うか、かなりブラックな感性を持っている子だな。見ている分には楽しいけど、目の前でそう言う話をされると反応に困ってしまう。


「そ、そう言えば、シロちゃんって家にいる時はなにをしてるの?」


 私は炎上を回避するために話題を切り替える。シロちゃんは私の意図に乗って、「ああ、いや。ゲームしたり、アニメ見たりしているけど」と返事をしてくれた。


「へぇ! アニメって、何見るの?」

「え? ……今季だと、『俺ヤバ』と『スマッシュとトンファー』、『ゴリの子』辺り……」

「『ゴリの子』……あっ! 知ってる、『元太』の奴だ!」

「そ、そうそう。アレはMADだけど……。OPのサビが突然元太に繋がる奴」

「面白かったよね、アレ! でも私、実は本編見てないんだよね。ボディビルダーのおじさんが双子を妊娠して産むって言う話なのは知ってるけど」

「あー。うん、大体そんな感じ。まあ、知らないのなら、ネタバレ聞かないうちに一話目見た方がいいよ。その方が絶対面白いから」

「へぇ……今度見てみるね! 私、ほのぼのとしたアニメ好きだから、楽しみ!」


 私がパッと笑顔を散らすと、シロちゃんは、何と言うか、ものすごくいやらしい笑みを浮かべた。なんだろう、その妙に含みのある笑顔。


「て、ていうか、あれ? 夜陰ちゃん、何でアニメ詳しいの? 異世界に日本のアニメがあるとは思えないけど」

「ああ、異世界は光ファイバー対応なんだ! 女神さまがYouTube見るために勝手に繋いでね!」

「どういうこと!? 前代未聞だよ、異世界と光ファイバーで通じているって!? と言うか女神が勝手に繋いだって、何もかも意味わかんないよ!?」

「シロちゃん。なろう系ファンタジーの世界観に細かいツッコミはしちゃいけないんだよ? ろくに設定考えていないだけの作者からツイ○ターでお気持ち表明されちゃうよ?」

「強引な理由付け! 神様だからってなんでもやっていいわけじゃないよ!」

「ちなみに女神様、格ゲーで負けが込むと迅雷を降らしてくるから結構困ってるんだよね」

「滅んじゃえそんな世界! なんでこの世を司る神様がよりにもよって格ゲーマーなの!? 魔王より凶悪だよ! 国民総出で転生RTAされても文句言えないよ!」

「いやでも、やり過ぎるとCAPC○Mから怒られるからなんだかんだ大丈夫なんだよね」

「スゲェなCAPC○M! ストファイで世界救っちまってるよ!」


 シロちゃんは愕然とした表情でしきりにツッコミをしまくっていた。なんだか、やっぱりすごく面白いな、この子。


「ね! シロちゃん、もっとアニメとかゲームの話しようよ! 私、なんだかすごく楽しい!」

「楽しさのベクトルが違う気がする。で、でも、うん。わ、私も、楽しいし……」

「じゃあ、決まりね!」


 私はシロちゃんの手を取りにこりと笑う。シロちゃんは、私の表情を見下ろすと、「う、うひっ……」と顔を赤くしてから、「は、はい……」と私から目を逸らした。
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