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黄龍大帝のツガイ
花嫁修業
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何であそこに居たかと訊かれたので。
元白かと思って助けた白い生き物は麒麟だった。
助けたお礼に、麒麟の国の宴会に招かれた、と話した。
朱赫はあの後、とりあえずすぐに換金できそうな金とか宝石を持たせてくれようとして、倉庫を探してくれていたみたいだ。
お金があれば、しばらく生きていくのには困らないし、死にたいとは思わないだろうと思ったんだって。
いい人だなあ。
そこを雷音に見つかって。
理由を言ったら、大目玉を食らって。
雷音は慌てて龍のあぎとから俺を探しに出たけど。
俺はピッケルを残して、消えていた。
崖の下に落ちた形跡もないし、争った形跡もない。
獣臭い気配があったため、自分と同じ世界の何者かに連れ去られたのだろう、と判断した。
一旦、こっちの世界に戻って。
気配を探りながら空をうろうろしていたようだ。
それで、すぐに飛んでこれたのか。
*****
雷音は、別の生まれ変わりを待つなんて嫌だ。
他の誰かじゃなく、今の、望でないと、嫌なんだと何度も言って。
婚姻の儀式を済ませれば、もう龍気の補充をする必要もなくなるから。どうかそれまで我慢してくれないか、と。懇願された。
「ぶっちゃけ俺、男なんか大嫌いだし、男に抱かれるのなんて気持ち悪いと思ってる」
今でもその気持ちに、変わりはないと言うと。
雷音はショックを受けた顔をしていた。
「でも。雷音だと、嫌じゃないってわかった」
別の男だと、気持ち悪いのに。
雷音は大丈夫だった。
だからさっきも、逆鱗に触れて誘ったんだと告げると。
雷音は、見るからに嬉しそうな顔になった。
面白いくらいわかりやすいな。
皇帝陛下のくせに。
俺なんかの言動に振り回されて。一喜一憂して。
何でそこまで、って思うくらい。俺のことが好きなんだ。
こんなのは初めてで。
何だかくすぐったい気持ちになる。
*****
「それで、結婚だけど。……延期して欲しいんだ」
『ええっ!?』
「だって俺、何も知らないし。作法もわからないし。皇帝のツガイだって覚悟も出来てない。そういうの勉強する時間が欲しいんだ」
そういう立場に相応しい自分に、少しでもなれたらいいと思う。
俺は自分に自信が無くて。不安で。
逃げてしまいたくなるけど。
『……もう死にたいとは、云わないな?』
雷音は、優しく俺の頬に触れた。
大きな、あたたかい手。
「うん」
大きく頷いて見せて。
『では、作法などの指南役は青峰に頼もう。儀式などを指揮するのはあれの仕事だ。色々と詳しい』
ああ、青峰が式の進行役だったのか。
だから結婚はナシにしようかと言った時にうろたえてたんだな。
色々と予定を変更させて、申し訳ないことしちゃった。
迷惑を掛けた朱赫にも、謝らないと。
*****
『いや、それがきっかけで陛下とツガイになる気になったなら、何よりだ』
こっちへ戻ってきた経緯を話して謝ったら、朱赫は笑って許してくれた。
いい人だ……。
イケメンな上いい人とか出来過ぎじゃない? ほんとは二重人格とかじゃない? などと疑ってしまう人間不信な俺であった。
そういえば朱赫は人間じゃなかった。
龍だった。
『ええ、生きて戻って来てくれて、嬉しいです』
青峰は穏やかに笑って。
ああ、ここに来て良かったな、と思った。
純粋な優しさが嬉しい。
不幸の連続で、疲れて。
もう限界で。
心が病んでいたんだ。
俺のせいじゃないのにどうしてこんな苦労しなくちゃいけないんだ、と。世の中を恨んでいた。
死んだ気になれば何でも出来る、なんて根拠の無い根性論だと思った。
だって、一生懸命頑張ってるのに報われなくて。
生きるのにも疲れちゃうんだし。
逃げないで、諦めないで、もっと必死になって生きようとしていれば、もしかしたら他の道も開けていたかもしれない。
でも。
今は、逃げて良かったと思う。
逃げた先で、雷音と出会えたんだし。
龍のツガイになるのも悪くないか、と思ってる。
……本当は、選ばれて光栄だと思わないといけないような立場の人なんだろうけど。
まだ、そこまでは割り切れないかな。
*****
青峰は、わりと厳しい先生だった。
儀式の作法を覚える間に、美しい歩き方や、優雅に見える動き方とかも教えられて。
俺って今までほんとに何も考えずにぼーっと生きてたんだな、と思った。
貴族って、常に指先まで気を遣って生きてるとか知らなかったよ。
働かないで楽に所得を得てるイメージを抱いていてすまない……。
ツガイである俺の悪い噂は、雷音の監理不行届きということで。皇帝の悪い噂になってしまうし。
気をつけないと。
元白かと思って助けた白い生き物は麒麟だった。
助けたお礼に、麒麟の国の宴会に招かれた、と話した。
朱赫はあの後、とりあえずすぐに換金できそうな金とか宝石を持たせてくれようとして、倉庫を探してくれていたみたいだ。
お金があれば、しばらく生きていくのには困らないし、死にたいとは思わないだろうと思ったんだって。
いい人だなあ。
そこを雷音に見つかって。
理由を言ったら、大目玉を食らって。
雷音は慌てて龍のあぎとから俺を探しに出たけど。
俺はピッケルを残して、消えていた。
崖の下に落ちた形跡もないし、争った形跡もない。
獣臭い気配があったため、自分と同じ世界の何者かに連れ去られたのだろう、と判断した。
一旦、こっちの世界に戻って。
気配を探りながら空をうろうろしていたようだ。
それで、すぐに飛んでこれたのか。
*****
雷音は、別の生まれ変わりを待つなんて嫌だ。
他の誰かじゃなく、今の、望でないと、嫌なんだと何度も言って。
婚姻の儀式を済ませれば、もう龍気の補充をする必要もなくなるから。どうかそれまで我慢してくれないか、と。懇願された。
「ぶっちゃけ俺、男なんか大嫌いだし、男に抱かれるのなんて気持ち悪いと思ってる」
今でもその気持ちに、変わりはないと言うと。
雷音はショックを受けた顔をしていた。
「でも。雷音だと、嫌じゃないってわかった」
別の男だと、気持ち悪いのに。
雷音は大丈夫だった。
だからさっきも、逆鱗に触れて誘ったんだと告げると。
雷音は、見るからに嬉しそうな顔になった。
面白いくらいわかりやすいな。
皇帝陛下のくせに。
俺なんかの言動に振り回されて。一喜一憂して。
何でそこまで、って思うくらい。俺のことが好きなんだ。
こんなのは初めてで。
何だかくすぐったい気持ちになる。
*****
「それで、結婚だけど。……延期して欲しいんだ」
『ええっ!?』
「だって俺、何も知らないし。作法もわからないし。皇帝のツガイだって覚悟も出来てない。そういうの勉強する時間が欲しいんだ」
そういう立場に相応しい自分に、少しでもなれたらいいと思う。
俺は自分に自信が無くて。不安で。
逃げてしまいたくなるけど。
『……もう死にたいとは、云わないな?』
雷音は、優しく俺の頬に触れた。
大きな、あたたかい手。
「うん」
大きく頷いて見せて。
『では、作法などの指南役は青峰に頼もう。儀式などを指揮するのはあれの仕事だ。色々と詳しい』
ああ、青峰が式の進行役だったのか。
だから結婚はナシにしようかと言った時にうろたえてたんだな。
色々と予定を変更させて、申し訳ないことしちゃった。
迷惑を掛けた朱赫にも、謝らないと。
*****
『いや、それがきっかけで陛下とツガイになる気になったなら、何よりだ』
こっちへ戻ってきた経緯を話して謝ったら、朱赫は笑って許してくれた。
いい人だ……。
イケメンな上いい人とか出来過ぎじゃない? ほんとは二重人格とかじゃない? などと疑ってしまう人間不信な俺であった。
そういえば朱赫は人間じゃなかった。
龍だった。
『ええ、生きて戻って来てくれて、嬉しいです』
青峰は穏やかに笑って。
ああ、ここに来て良かったな、と思った。
純粋な優しさが嬉しい。
不幸の連続で、疲れて。
もう限界で。
心が病んでいたんだ。
俺のせいじゃないのにどうしてこんな苦労しなくちゃいけないんだ、と。世の中を恨んでいた。
死んだ気になれば何でも出来る、なんて根拠の無い根性論だと思った。
だって、一生懸命頑張ってるのに報われなくて。
生きるのにも疲れちゃうんだし。
逃げないで、諦めないで、もっと必死になって生きようとしていれば、もしかしたら他の道も開けていたかもしれない。
でも。
今は、逃げて良かったと思う。
逃げた先で、雷音と出会えたんだし。
龍のツガイになるのも悪くないか、と思ってる。
……本当は、選ばれて光栄だと思わないといけないような立場の人なんだろうけど。
まだ、そこまでは割り切れないかな。
*****
青峰は、わりと厳しい先生だった。
儀式の作法を覚える間に、美しい歩き方や、優雅に見える動き方とかも教えられて。
俺って今までほんとに何も考えずにぼーっと生きてたんだな、と思った。
貴族って、常に指先まで気を遣って生きてるとか知らなかったよ。
働かないで楽に所得を得てるイメージを抱いていてすまない……。
ツガイである俺の悪い噂は、雷音の監理不行届きということで。皇帝の悪い噂になってしまうし。
気をつけないと。
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