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8 三日目の夜

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昨日と同じ時間に同じように夜の街を彷徨い、結局噴水の広場で行き交う人々を眺めていた。

この辺はナンパのスポットになっているのか、辺りにはちょこちょこ俺みたいな人がいた。
少し先では街灯の下で、ふくよかな男が札束をちらつかせてなにか交渉をしている。

話しかけに行くか。正直誰でもいい。特にこだわりもなにもないし金で解決するなら後腐れもないだろう。今夜はあの人でいいか。

そう思って立ち上がると、視界の端に煌めく金色が見えた気がした。

まさかな。そう思って振り向くと…。

「ライア!」

「なんで今日もいるんだよ!」

やっぱりヴィルだった。

「だってここで待っていれば会えるんだろ…?っへクシっ」

彼はこちらに駆け寄ると寒そうに息を吹きかけ手を温めた。
いつから待っていたのだろうか。あんなのただの嫌がらせで言っただけなのにまさか真に受けるなんて。

正直…3回目はないと思ってる。何度も言うけど一人に絞りたくないんだ。
適当に理由をつけてその場をあとにしようと思ったとき、彼が口を開いた。

「ねぇ、明日はお昼に待ち合わせしない?」

「待ちあわせ…」

「お昼にランチとかどうかな」

「ランチ…?」

「そうだよ。だって毎回会うのが夜だけって寂しいから。たまにはお昼デートもしたいからね」

「…デート??」

この男は一体何をいっているんだろうか。
疑問符が浮いている俺とは対照的に彼は満面の笑みで続けた。

「…?恋人なんだからデートするのは当然だろ?」

「は、こ、恋人??」

「え」

「なにがいったいどこでそうなったんだよ」

「だって昨日、好きだって言ってたじゃん」

それはそうだけど…。

「それに…恋人じゃなきゃあんなこと普通しないだろ…」

そう言って彼は顔を赤く染めた。

「…」

なにか誤解が生じている。彼の中でいつのまにか俺は恋人になっていたらしい。

「まだ君のことについて知らないことがたくさんあるから少しずつでも知りたいんだ」

「えっ…と」

「好きな食べ物も、年齢もフルネームも何も知らないから」

「いや…」

「なら私についてまず自己紹介してもいい…」

「悪いけど…俺」

正直に思っていることを話そうと思ったその時、ぽつりぽつりと雨が降り出した。

「雨だ…よくないな。中に入ろうか」

「えっちょっと…」

そういって彼は俺の手を引いた。
どうしよう…。でも彼といれば今夜寝る場所には困らない。

雨も降ってきたことだし…仕方ない。ヴィルについていこう…。

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