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10話
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(ど、どうしよう。
どうしたらいいの、私……)
王太子ラルフが間近で私を見ている。
見ている、ではなく射抜いている。
紺碧の海の様な深いブルーの瞳。
光の加減で濃いグリーンにも見て取れる。
(綺麗……。
王太子ラルフと義弟であるルーファン、そして王弟ギランと、隣国の王トリスタンが「貴方に心ときめいて」の主要キャラだったのよね。
この4人は特に絵師さんが、ううん、製作者が力を入れていたキャラだけあって、キャラも声も超美ボイスなのよね。
紗雪の時はリリアンヌの相手は誰が良いか本当に悩んだモノだけど。
だって、それぞれ本当にロマンチックな展開で、絶対にある筈ないじゃんと言う、ちょっと恥ずかしいストーリーだったけど。
でもそれが癖になるのよね。
もう親密度が上がったら、声のトーンが違う。
赤面シーン満載で「あ、これヤバイ、私。現実に戻れるかしら」と本当に悩んだし。
でも、最後の一線をどうにか踏み止まったけど。
一柳さんが現実にいたし、ゲームは所詮ゲームの世界だと自分を無理に納得させていたから。
あ、これが一柳さんが居なかったら、多分、一推しキャラと将来を考えていたわ、きっと。
美ボイスで耳元での囁きのオンパレード。
これがもしピンクの世界でだったら……。
も、悶絶モンだわ。
絶対に夢の世界で生きるって。
現実に理想求めても所詮は現実。
ある訳無いでしょう、あんな乙女心を擽り、揺さ振るセリフを語る男性なんていたらお目にかかりたい。
一柳さんは……、もし、私にあんな激甘な言葉で囁いてくれたら。
だめ、想像つかない。
一柳さんのイメージが崩れる。
優しい笑顔に癒されて、心温まったけど、でも……。
やっぱり、違うの。
一柳さんは、私にとって、別次元の人なの…………)
紗雪であった頃を回想した所為で、私はラルフが私の手を取り、何かを語っているのを聞き逃していた。
あんな超美ボイスで語っているのに。
「ラルフ様、貴方の勝手で我が妹を巻き込まないでいただきたい!」
(普段、冷静なオリバー兄様が感情を露わにしている。
い、今、ラルフは私に何を言ったの)
「俺の勝手では無い。
義母上のたっての願いで、俺がこのグーベルト家に赴いた。
お前の妹を義母上付きの侍女にと申されている」
ラルフの意外な言葉に、私は今日何度目かの言葉の喪失を味わう。
(え、今、ラルフって、「俺」と言っていなかった?
公式では、「私」だよ、それになんか軽い……。
それにさっきからずっと違和感を感じたのよね。
最初の時の、「あの」にやり、と笑った顔。
あれも違うわ。
ラルフはもっと近寄り難くて、気位が高くてこう、凛とした美貌で。
「暁の王太子」と呼ばれるだけあって煌びやかで神々しい。
正に王族と言う感じだけど、でも目の前のラルフは「貴方に心ときめいて」のラルフとイメージが全然違う。同じ人物の筈なのに、どうしてこうも違いが出るの)
でも麗しい姿と超絶美ボイスは遜色ないんだけど。
(これはもしかして、他のキャラも違うのかしら?
え、ちょっと待って。
今、ラルフの違いに気を取られて、エレーヌの現状を把握していなかった。
なんて言いましたか?
わ、私を義母上の侍女にと言いませんでしたか?
ラルフが王妃を義母上と言っているし。
亡き王妃の遺児であるラルフと現王妃とは犬猿の仲であるのに、今の口調では、全然、そんな風に取れない。
義母上となんて絶対に言わないし。
ここって、本当に「貴方に心ときめいて」と同じ世界観だよね……。
段々と確信持てなくなってきた。
ああ、それよりも今の現実に目を向けよう。
私、本当に王妃様に侍女として仕えるの?)
不安げな表情の私にオリバー兄様の口調が荒くなる。
ああ、怒り心頭だわ、これは。
「お、お兄様……」
「俺をずっと貴方の配下として縛り付けたくての策に相違ない。
よりによってエレーヌを巻き込もうとは、なんて卑劣な!」
「お願い、お兄様。
どうかお怒りを鎮めて……。
お兄様の立場が危うくなる、だから……」
私が王都に向かえばいい……。
そうすれば一旦、この場を鎮める事が出来る。
お兄様の立場を守る事が出来る。
だから私が王妃様に仕えたら。
(これで、本当に「貴方に心ときめいて」でのエレーヌの展開と全く違う運命を辿る事になるわ。
ヒロインであるリリアンヌとは一体どんな風に接触するの?
私はリリアンヌと友人と言う立場なのかしら。
それとも、もしかして……)
モブキャラである私がヒロインのリリアンヌと立場が入れ替わる展開になり得る可能性だって、ある……。
思い浮かんだ言葉に顔が蒼白になる。
頭がくらくらして平衡感覚がおかしい。
足元がふらついて目の前が真っ暗になって……。
お兄様の叫ぶ声が何処か遠い。
一瞬の出来事。
私は急に意識を失い、その場にて倒れたのであった。
どうしたらいいの、私……)
王太子ラルフが間近で私を見ている。
見ている、ではなく射抜いている。
紺碧の海の様な深いブルーの瞳。
光の加減で濃いグリーンにも見て取れる。
(綺麗……。
王太子ラルフと義弟であるルーファン、そして王弟ギランと、隣国の王トリスタンが「貴方に心ときめいて」の主要キャラだったのよね。
この4人は特に絵師さんが、ううん、製作者が力を入れていたキャラだけあって、キャラも声も超美ボイスなのよね。
紗雪の時はリリアンヌの相手は誰が良いか本当に悩んだモノだけど。
だって、それぞれ本当にロマンチックな展開で、絶対にある筈ないじゃんと言う、ちょっと恥ずかしいストーリーだったけど。
でもそれが癖になるのよね。
もう親密度が上がったら、声のトーンが違う。
赤面シーン満載で「あ、これヤバイ、私。現実に戻れるかしら」と本当に悩んだし。
でも、最後の一線をどうにか踏み止まったけど。
一柳さんが現実にいたし、ゲームは所詮ゲームの世界だと自分を無理に納得させていたから。
あ、これが一柳さんが居なかったら、多分、一推しキャラと将来を考えていたわ、きっと。
美ボイスで耳元での囁きのオンパレード。
これがもしピンクの世界でだったら……。
も、悶絶モンだわ。
絶対に夢の世界で生きるって。
現実に理想求めても所詮は現実。
ある訳無いでしょう、あんな乙女心を擽り、揺さ振るセリフを語る男性なんていたらお目にかかりたい。
一柳さんは……、もし、私にあんな激甘な言葉で囁いてくれたら。
だめ、想像つかない。
一柳さんのイメージが崩れる。
優しい笑顔に癒されて、心温まったけど、でも……。
やっぱり、違うの。
一柳さんは、私にとって、別次元の人なの…………)
紗雪であった頃を回想した所為で、私はラルフが私の手を取り、何かを語っているのを聞き逃していた。
あんな超美ボイスで語っているのに。
「ラルフ様、貴方の勝手で我が妹を巻き込まないでいただきたい!」
(普段、冷静なオリバー兄様が感情を露わにしている。
い、今、ラルフは私に何を言ったの)
「俺の勝手では無い。
義母上のたっての願いで、俺がこのグーベルト家に赴いた。
お前の妹を義母上付きの侍女にと申されている」
ラルフの意外な言葉に、私は今日何度目かの言葉の喪失を味わう。
(え、今、ラルフって、「俺」と言っていなかった?
公式では、「私」だよ、それになんか軽い……。
それにさっきからずっと違和感を感じたのよね。
最初の時の、「あの」にやり、と笑った顔。
あれも違うわ。
ラルフはもっと近寄り難くて、気位が高くてこう、凛とした美貌で。
「暁の王太子」と呼ばれるだけあって煌びやかで神々しい。
正に王族と言う感じだけど、でも目の前のラルフは「貴方に心ときめいて」のラルフとイメージが全然違う。同じ人物の筈なのに、どうしてこうも違いが出るの)
でも麗しい姿と超絶美ボイスは遜色ないんだけど。
(これはもしかして、他のキャラも違うのかしら?
え、ちょっと待って。
今、ラルフの違いに気を取られて、エレーヌの現状を把握していなかった。
なんて言いましたか?
わ、私を義母上の侍女にと言いませんでしたか?
ラルフが王妃を義母上と言っているし。
亡き王妃の遺児であるラルフと現王妃とは犬猿の仲であるのに、今の口調では、全然、そんな風に取れない。
義母上となんて絶対に言わないし。
ここって、本当に「貴方に心ときめいて」と同じ世界観だよね……。
段々と確信持てなくなってきた。
ああ、それよりも今の現実に目を向けよう。
私、本当に王妃様に侍女として仕えるの?)
不安げな表情の私にオリバー兄様の口調が荒くなる。
ああ、怒り心頭だわ、これは。
「お、お兄様……」
「俺をずっと貴方の配下として縛り付けたくての策に相違ない。
よりによってエレーヌを巻き込もうとは、なんて卑劣な!」
「お願い、お兄様。
どうかお怒りを鎮めて……。
お兄様の立場が危うくなる、だから……」
私が王都に向かえばいい……。
そうすれば一旦、この場を鎮める事が出来る。
お兄様の立場を守る事が出来る。
だから私が王妃様に仕えたら。
(これで、本当に「貴方に心ときめいて」でのエレーヌの展開と全く違う運命を辿る事になるわ。
ヒロインであるリリアンヌとは一体どんな風に接触するの?
私はリリアンヌと友人と言う立場なのかしら。
それとも、もしかして……)
モブキャラである私がヒロインのリリアンヌと立場が入れ替わる展開になり得る可能性だって、ある……。
思い浮かんだ言葉に顔が蒼白になる。
頭がくらくらして平衡感覚がおかしい。
足元がふらついて目の前が真っ暗になって……。
お兄様の叫ぶ声が何処か遠い。
一瞬の出来事。
私は急に意識を失い、その場にて倒れたのであった。
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