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26話
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「きゃああ、ジェラルド、そんな……」
興奮冷めやらぬ事態に陥っている、私、久保紗雪は今「貴方に心ときめいて」の中で一推しキャラであるジェラルドとのラブラブエンディングを迎えつつあった。
「え、ええ、そんな事言うの、ジェラルドおおお!」
防音の薄い部屋で、何、叫んでいるのだろう。
お隣さん、何事だと思うよね、きっと。
(うるさくて御免なさい、でも……)
ああ、自然と涙が溢れている。
感動の涙、ううん、歓喜の涙よ。
ああ、何時間、ううん、何日、費やしただろう、ジェラルドに。
ひと目見てハートにズギュン。
これが俗に言う一目惚れですか。
それもゲームのキャラに。
最初、「貴方に心ときめいて」を手に取った時、正直、主要キャラ4人には目を奪われたけど、そこまで心ときめなかったのよね。うーん、確かに豪華絢爛なキャラ達だわ。
麗しいわよ、くらくらするわよ、余りの美形度に。
2次元のキャラなのに、何、このキラキラはって思ったけど。
でも、それだけだったのよね……。
エンディング迄のストーリーもまあ、王道で乙女心をキュンキュンさせるけど。
だけど最後の一線でなんか心の琴線に触れなかったのよね、何故か。
現実には一柳さんと言う憧れの男性がいるから、ゲームのキャラは現実には(当たり前だけど)実在しないし、所詮はゲームだし。
深みにハマる事は無いと高を括っていたら……。
サブキャラの立ち位置にいるジェラルドの姿に、一瞬、時が止まってしまった。
ああ、ここに一柳さんがいる……。
私の脳内はそう変換した。
似ても似つかない、でも、私の中では一柳さん=ジェラルドだった。
ああ、ジェラルドなら何とか攻略したら、私に愛を囁いてくれる。
(え、どうしよう……。
い、一柳さんが私に告白……。
両思いに、それもラブラブエンディングに……)
それから毎日がジェラルドに対する愛の日々だった。
朝起きて、画面に向かい出勤までがジェラルドとの対話。
最初はそれはそれは親密度なんて無いに等しいから、ジェラルドの態度が冷たいのなんのって。
美ボイスでツンな言葉を放たれたら、落ち込むよね……。
いくらジェラルドの設定が穏やかで優しいキャラであっても、それは親密度が上がっての事。
恋人でも無い、赤の他人にそんな親しみを込めた言葉をかけるかな?
一応、社交辞令でもと言っても、ジェラルドはマリーベルとは従兄の間柄でもあるから、当然、マリーベル寄りじゃないの。
そんなキャラを攻略するとなると……。
ゲーム初心者でスキルなんて無いに等しい私に、一番、攻略が難儀なキャラを落とすなんて……。
どれだけの努力と忍耐が必要だったか……。
一言では言い表せないわ、ホント。
だけど、だけど。
やっと念願が叶って、今、私は……。
ジェラルドから、愛の告白を受ける事が出来るのよ。
ああやっとクリア出来る……。
なんか、ジーンと胸が熱い。
(悪役令嬢であるマリーベルの従兄である為にジェラルドの攻略は本当に難しかった。
ジェラルドとのイベント発生には他のキャラとの親密度を微調整しながら、ジェラルドとの親密度を上げていく。
それもマリーベルとの親密度もある一定以上に上げないといけないし。
特にマリーベルが好意を抱くキャラとは親密度を下げて、マリーベルの恋を応援していると表立って見せないとジェラルドとの親密度を一気に上げる事は出来ないし。
今、考えるとしみじみと思うのよね。
本当に仲の良い従兄同士なんだな、二人って、ちょっと嫉妬してしまって。
また二人のビジュアルが本当に麗しいから、カップリングとしてもお似合いだし。
お茶会のスチル、本当に綺麗だったな……)
と、うっとりと思い出している矢先に、ラブラブエンディングを迎えたテーマソングが。
そしてアニメーションが。
「あ、ジェラルド……」
ああ、天井が回る。
くるくる回る。
やっと、やっとジェラルドとのエンディングを迎えたのに、どうして。
ぷっつりと意識が途絶えてしまう。
くらくらと目眩を起こし、私は、ばたんと気を失ってしまう。
余りの興奮に私は目眩を起こしその場にて倒れてしまった……。
***
ああ、ここは何処かしら……。
薄らと目を見開くと、ここは紗雪の世界では無い事に気付く。
(あ、そっか。
私は今はエレーヌなんだ)
ぽふっと枕に顔を突っ伏す。
柔らかい感触にうっとりとしながら今の自分を顧みる。
(私は今、王妃付きの侍女として賜っている部屋にいるんだ)
リリアンヌとの会話で神経を擦り減らしたから、現実逃避行で紗雪の時の夢を見たのかな……。
絶対にそうだわ。
でもそうだとしたら微妙な気分。
なんか、変な気持ち。
「ああ、久々にジェラルド攻略の時の夢を見てしまった。
ここ何年も夢に見なかったのに」
その理由は知っている。
でも、それは言えない。
(オリバー兄様……)
会いたいな。
王宮に上がってずっと兄様には会っていない。
会えば、絶対に心が揺れるから。
でも、何時迄も会う事に躊躇ってはいられない。
私は前に進むと決めたんだから。
エレーヌとして、生きて行くと決めたんだから。
だから。
(憧れのジェラルドに会える可能性がある社交界デヴューを控えているんだから。
気持ちを切り替えて、そうよエレーヌ。
現実に会えるのよ、ジェラルドに)
そうよ、紗雪。
気持ちの折り合いをつけて、前に進んで。
エレーヌ・グーベルト伯爵令嬢として、この世界で愛する人と結ばれて誰よりも幸せになるの。
そうしたら久保紗雪として29歳で生を終えた人生が、この世界で転生してエレーヌとして幸せになる事で、報われるんだから……。
興奮冷めやらぬ事態に陥っている、私、久保紗雪は今「貴方に心ときめいて」の中で一推しキャラであるジェラルドとのラブラブエンディングを迎えつつあった。
「え、ええ、そんな事言うの、ジェラルドおおお!」
防音の薄い部屋で、何、叫んでいるのだろう。
お隣さん、何事だと思うよね、きっと。
(うるさくて御免なさい、でも……)
ああ、自然と涙が溢れている。
感動の涙、ううん、歓喜の涙よ。
ああ、何時間、ううん、何日、費やしただろう、ジェラルドに。
ひと目見てハートにズギュン。
これが俗に言う一目惚れですか。
それもゲームのキャラに。
最初、「貴方に心ときめいて」を手に取った時、正直、主要キャラ4人には目を奪われたけど、そこまで心ときめなかったのよね。うーん、確かに豪華絢爛なキャラ達だわ。
麗しいわよ、くらくらするわよ、余りの美形度に。
2次元のキャラなのに、何、このキラキラはって思ったけど。
でも、それだけだったのよね……。
エンディング迄のストーリーもまあ、王道で乙女心をキュンキュンさせるけど。
だけど最後の一線でなんか心の琴線に触れなかったのよね、何故か。
現実には一柳さんと言う憧れの男性がいるから、ゲームのキャラは現実には(当たり前だけど)実在しないし、所詮はゲームだし。
深みにハマる事は無いと高を括っていたら……。
サブキャラの立ち位置にいるジェラルドの姿に、一瞬、時が止まってしまった。
ああ、ここに一柳さんがいる……。
私の脳内はそう変換した。
似ても似つかない、でも、私の中では一柳さん=ジェラルドだった。
ああ、ジェラルドなら何とか攻略したら、私に愛を囁いてくれる。
(え、どうしよう……。
い、一柳さんが私に告白……。
両思いに、それもラブラブエンディングに……)
それから毎日がジェラルドに対する愛の日々だった。
朝起きて、画面に向かい出勤までがジェラルドとの対話。
最初はそれはそれは親密度なんて無いに等しいから、ジェラルドの態度が冷たいのなんのって。
美ボイスでツンな言葉を放たれたら、落ち込むよね……。
いくらジェラルドの設定が穏やかで優しいキャラであっても、それは親密度が上がっての事。
恋人でも無い、赤の他人にそんな親しみを込めた言葉をかけるかな?
一応、社交辞令でもと言っても、ジェラルドはマリーベルとは従兄の間柄でもあるから、当然、マリーベル寄りじゃないの。
そんなキャラを攻略するとなると……。
ゲーム初心者でスキルなんて無いに等しい私に、一番、攻略が難儀なキャラを落とすなんて……。
どれだけの努力と忍耐が必要だったか……。
一言では言い表せないわ、ホント。
だけど、だけど。
やっと念願が叶って、今、私は……。
ジェラルドから、愛の告白を受ける事が出来るのよ。
ああやっとクリア出来る……。
なんか、ジーンと胸が熱い。
(悪役令嬢であるマリーベルの従兄である為にジェラルドの攻略は本当に難しかった。
ジェラルドとのイベント発生には他のキャラとの親密度を微調整しながら、ジェラルドとの親密度を上げていく。
それもマリーベルとの親密度もある一定以上に上げないといけないし。
特にマリーベルが好意を抱くキャラとは親密度を下げて、マリーベルの恋を応援していると表立って見せないとジェラルドとの親密度を一気に上げる事は出来ないし。
今、考えるとしみじみと思うのよね。
本当に仲の良い従兄同士なんだな、二人って、ちょっと嫉妬してしまって。
また二人のビジュアルが本当に麗しいから、カップリングとしてもお似合いだし。
お茶会のスチル、本当に綺麗だったな……)
と、うっとりと思い出している矢先に、ラブラブエンディングを迎えたテーマソングが。
そしてアニメーションが。
「あ、ジェラルド……」
ああ、天井が回る。
くるくる回る。
やっと、やっとジェラルドとのエンディングを迎えたのに、どうして。
ぷっつりと意識が途絶えてしまう。
くらくらと目眩を起こし、私は、ばたんと気を失ってしまう。
余りの興奮に私は目眩を起こしその場にて倒れてしまった……。
***
ああ、ここは何処かしら……。
薄らと目を見開くと、ここは紗雪の世界では無い事に気付く。
(あ、そっか。
私は今はエレーヌなんだ)
ぽふっと枕に顔を突っ伏す。
柔らかい感触にうっとりとしながら今の自分を顧みる。
(私は今、王妃付きの侍女として賜っている部屋にいるんだ)
リリアンヌとの会話で神経を擦り減らしたから、現実逃避行で紗雪の時の夢を見たのかな……。
絶対にそうだわ。
でもそうだとしたら微妙な気分。
なんか、変な気持ち。
「ああ、久々にジェラルド攻略の時の夢を見てしまった。
ここ何年も夢に見なかったのに」
その理由は知っている。
でも、それは言えない。
(オリバー兄様……)
会いたいな。
王宮に上がってずっと兄様には会っていない。
会えば、絶対に心が揺れるから。
でも、何時迄も会う事に躊躇ってはいられない。
私は前に進むと決めたんだから。
エレーヌとして、生きて行くと決めたんだから。
だから。
(憧れのジェラルドに会える可能性がある社交界デヴューを控えているんだから。
気持ちを切り替えて、そうよエレーヌ。
現実に会えるのよ、ジェラルドに)
そうよ、紗雪。
気持ちの折り合いをつけて、前に進んで。
エレーヌ・グーベルト伯爵令嬢として、この世界で愛する人と結ばれて誰よりも幸せになるの。
そうしたら久保紗雪として29歳で生を終えた人生が、この世界で転生してエレーヌとして幸せになる事で、報われるんだから……。
応援ありがとうございます!
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