龍騎士の花嫁

夜風 りん

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第二部 終章 私の騎士様

ep1

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 リアラは落ち込んだまま掃除をしていた。

 あの事件後、クア=ドルガの屋敷へと(半ば強制的に)戻されたリアラだったが、ヴィクトルはあの日以来、忙しいのか話せていない。
 だが、それ以上に気になることを聞いてしまった。
 深くため息を漏らし、庭掃除を続ける。

 「どうしたの、リアラ?」

 スーヴィエラがリアラの顔を覗き込む。
 「スー様…私、ミサンガを無くした時から運のツキなんです」
 「?」
 「私、幸せに…なりたいって願っただけなのに、悪い方に転がっているんです!」

 リアラはスーヴィエラに縋り付くと、目を潤ませた。

 「避けられているんですかね、私」

 「どうしたの、リアラ!?」

 スーヴィエラが優しく頭を撫でると、リアラがスーヴィエラの胸元に顔を埋めた。
 「…おっきいです」
 「リアラ、それはさすがに怒るよ?」
 「えへへ…」

 「とにかく、軽口を叩いてもどうにもならないし、…とにかく話してみて?」
 「はい…」
 リアラが頷くと、俯いた。

 「私、色々あってヴィクトル様のことが好きになっちゃいました」
 「へぇ…って、ええっ!?」
 「…スー様、やっぱり気が付いていなかったんですね」
 「すごく意外。リアラって真面目な人が好きだったんだ?」
 「不真面目よりは真面目の方が好きですよ?」
 リアラはスーヴィエラの隣に腰掛けると、ため息を漏らした。
 「でも、ダメなんです。ヴィクトル様に縁談が来ているんです! それに、旦那様から私も縁談が…」
 「…え? シリウスがあなたにって?」
 「はい。いい話があるから聞いてくれないかって…」
 「…因みに、中は見た?」
 「ショックすぎて見ていません。まさか、旦那様までそんなことを…」
 「シリウスに限ってそんなこと…でも、うん、リアラのために日頃の恩返しも兼ねてちょっと聞いてくるね!」
 「スー様!?」
 「じゃあ、行ってくるから!」

 スーヴィエラが軽やかに出て行った後、リアラは瞬いた。
 「スー様が軽やかだ…」

 リアラはスーヴィエラが普段、どんな風に甘やかされているのか気になった。


 そんなことを考えていると、スーヴィエラが這々の体で戻って来た。
 何があったのか、耳まで赤くなっている。鎖骨に赤くなっている痕があり、露骨な所有印にリアラは遠い目をした。
 「スー様、お幸せそうですね」
 「だって…幸せだもん…」
 スーヴィエラがほおを朱に染めた。
 リアラは目を細めると、我に返ったスーヴィエラが慌てた。

 「そ、そのお見合い、悪い話じゃないと思うんだけど、まず写真から見てみない?」


 「スー様…わかりました。スー様がそうおっしゃるなら!」


 急いで部屋に帰ったが、写真は捨てていないはずなのにどこにも見当たらなかった。
 シリウスに聞きに行くと、彼はみていないという。
 「…あれ?」
 不思議そうに首を傾げ、一礼して退室すると、ふと、声を掛けられた。

 「リアラさん、ちょっといいですか?」

 そこにはヴィクトルがいた。
 手には食べ放題チケット。

 「甘いもの、好きですか?」

 「そ、それは、まさかっ!」
 「え、はい。アレン工房のケーキ食べ放題チケットです。ちょうど父上から二枚いただいたのでご一緒にどうかと…」
 「なぜ、私?」
 「僕では嫌ですか?」
 「…と…」
 「と?」
 「お友だちということですね! なるほど、わかりました! 是非!」

 リアラは得意の空元気で笑顔を作り、ヴィクトルの背中を押して歩き出した。
 「ヴィクトル様、ケーキ、行きましょう!」
 「え? ちょ、ちょっと、押さないでくださいよ、リアラさん!」

 「早く!」

 リアラの笑顔の裏に何をみたのか、ヴィクトルはハッと息を飲んだが、前を向き直して大空を見上げた。


 「『奥の手』を使いますか…」


 その呟きはリアラに届く前に空気へ溶けて消えた。

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