『婚約もしていないのに婚約破棄ですか? 〜岩塩で殴れば目が覚めます?〜』

しおしお

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第二十七話 条件

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第二十七話 条件

 統合の知らせは、まず重臣たちに伝えられた。

 王城の大広間に集められた貴族たちは、誰も声を荒げなかった。驚きはあった。怒りも、悔しさもあるだろう。だが、否定の言葉は出ない。

 ここまで来る道のりを、皆が見てきたからだ。

 

「併呑ではない」

 王は静かに告げる。

「段階的統合だ」

 

 その言葉に、わずかな安堵が広がる。

 

「民価格は維持される」

「行政は継続される」

「王族の生活も保障される」

 

 宰相が一つひとつ読み上げる。

 

 つまり。

 国の形は変わるが、民の暮らしは急に壊れない。

 

「政治的決定権は移譲する」

 

 そこだけが、決定的だった。

 

 若い伯爵が口を開きかける。

「ですが――」

 

 王が手を上げる。

「我らは守れなかった」

 静かな声。

「塩は守れた。だが国家は守りきれなかった」

 

 沈黙が落ちる。

 

 北方、ハライト公国。

 ヴィエリチカは統合文書に目を通していた。

「民価格、維持」

「はい」

「税制は段階的調整」

 

 彼女は頷く。

「急がせません」

 

 側近が確認する。

「王族の処遇は」

 

「生活保障」

 彼女は微笑む。

「元王太子も」

 

「職務は」

 

 ヴィエリチカは一瞬、視線を窓外へ向ける。

 灰色の岩山。

 

「元王族を、民間で働かせるわけにはまいりません」

 

 その言葉に、側近は理解する。

 処遇は与える。

 だが責任からは逃れない。

 

 王城。

 元王太子は報告を受ける。

「差額補填義務は消滅いたします」

 

 彼はしばらく黙っていた。

 

「……そうか」

 

 肩の力が、わずかに抜ける。

 だが、安堵ではない。

 

「国は」

「統合されます」

 

 彼は頷く。

「それで民が守られるなら」

 

 誇りは消えていない。

 ただ形を変えた。

 

 数日後、正式文書が発布される。

 王国はハライト公国の管理下に入る。

 段階的統合。

 

 民は戸惑う。

 だが市場は動く。

 塩はある。

 価格も変わらない。

 

 大きな混乱は起きない。

 

 岩は静かに重なる。

 

 白い塩は今日も届く。

 

 国の名は変わり始めた。

 だが食卓の味は、変わらなかった。
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