婚約破棄ですか?結構ですわ。ですが違約金は国家予算になります

しおしお

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第4話 新しい婚約

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第4話 新しい婚約

王宮の大広間は、いつもよりも慌ただしかった。

侍従や侍女が忙しく行き来し、書記官たちは机に書類を積み上げている。
廊下では騎士たちが警備を強化し、侍女たちは噂話をひそひそと交わしていた。

原因はひとつだった。

昨夜の卒業舞踏会。

王太子アドリアンによる突然の婚約破棄。
そして、義妹ノエリアとの新しい婚約宣言。

その余波は、王宮にも広がっていた。

「本当に発表なさるのですか」

王太子の執務室で、側近の一人が慎重に尋ねた。

書類を抱えた若い官僚だった。

その視線の先には、窓際に立つアドリアンの姿がある。

「当然だ」

アドリアンは迷いなく答えた。

「私は昨夜、すでに宣言した」

側近は少しだけ言葉を選ぶ。

「ですが、婚約破棄の手続きはまだ正式に――」

「そんなもの、すぐ終わる」

アドリアンは軽く手を振った。

「アルシェラも反論しなかった」

それは確かに事実だった。

昨夜の舞踏会で、アルシェラはただ一言。

“承知いたしました”

それだけを言って去った。

泣きもせず、怒りも見せず。

ただ静かに。

その姿が、なぜかアドリアンの胸の奥に小さな違和感を残していた。

だが彼はその感情を無視する。

「それに」

アドリアンは振り返る。

「ノエリアをこれ以上待たせるわけにはいかない」

その言葉と同時に、執務室の扉が軽く叩かれた。

「殿下」

侍女の声。

「ノエリア様がお見えです」

「通せ」

扉が開く。

薄いクリーム色のドレスを着た少女が、控えめに部屋へ入ってきた。

ノエリア・ヴァルディア。

柔らかな金髪が肩に流れ、潤んだ瞳がどこか不安げに揺れている。

彼女はアドリアンを見ると、少しだけ顔を伏せた。

「お邪魔ではありませんでしたか……?」

小さな声。

遠慮がちな態度。

それを見たアドリアンの表情が柔らぐ。

「そんなことはない」

彼はノエリアの手を取った。

「ちょうど君の話をしていた」

ノエリアは驚いたように目を瞬かせる。

「私の……?」

「そうだ」

アドリアンは自信ありげに言った。

「今日、正式に発表する」

側近が息を呑む。

「殿下」

だがアドリアンは構わない。

「私とノエリアの婚約だ」

ノエリアは目を大きく見開いた。

「え……?」

「昨日の宣言だけでは不十分だ」

アドリアンは言う。

「王宮として正式に発表する」

それを聞いたノエリアの瞳が潤む。

「殿下……」

彼女は涙ぐみながら言った。

「本当に……よろしいのですか」

「どういう意味だ」

「私のせいで……お姉様と……」

言葉が途切れる。

涙がこぼれそうになる。

その姿は、まるで自分を責めているかのようだった。

アドリアンは優しく肩に手を置く。

「君のせいではない」

「でも……」

「むしろ私が遅すぎた」

アドリアンの声が強くなる。

「もっと早く気づくべきだった」

「君がどれだけ苦しんでいたか」

ノエリアは震える声で言う。

「私は……ただ……」

「もういい」

アドリアンは彼女を安心させるように言った。

「もう誰も君を傷つけない」

側近はその光景を黙って見ていた。

口を挟むことはできない。

だが胸の奥に、消えない疑問が残っていた。

本当にこれでいいのか。

ヴァルディア公爵家は王国でも屈指の有力家門だ。

その嫡女との婚約を破棄してまで、新しい婚約を急ぐ。

それは決して小さな問題ではない。

だがアドリアンは気にしていない。

彼は机の上の書類を指差した。

「発表文だ」

側近は目を通す。

そこにはすでに書かれていた。

“王太子アドリアン殿下は、ノエリア・ヴァルディア嬢との婚約をここに発表する”

側近は小さく息を吐く。

もう準備は終わっていた。

アドリアンは満足そうに言った。

「これで王都も落ち着くだろう」

しかし。

その頃、王都の別の場所では――

まったく違う動きが始まっていた。

ヴァルディア公爵邸。

屋敷の前に、大きな馬車が停まっている。

荷物が積み込まれ、従者たちが静かに動いていた。

アルシェラ・ヴァルディアは階段を降りてくる。

淡い青のドレス。

長い銀髪が背に流れている。

執事グラントが頭を下げた。

「準備が整いました」

アルシェラは頷く。

「ありがとう」

彼女は馬車を見た。

王都を離れる馬車。

「もう戻られないのですか」

グラントが尋ねる。

アルシェラは少し考えた。

そして穏やかに答える。

「分かりません」

未来はまだ決まっていない。

ただ一つ確かなのは。

「ここにいる必要は、もうありません」

アルシェラは馬車に乗り込む。

扉が閉まる。

御者が手綱を引く。

馬車はゆっくりと動き出した。

王都の門へ向かって。

そして同じ頃。

王宮では、新しい婚約の発表が行われていた。

王太子アドリアンとノエリア。

王都の人々はその知らせを聞く。

祝福する者。

驚く者。

疑問を抱く者。

だがまだ誰も知らない。

この婚約が――

王都の運命を大きく変えることになるとは。
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