婚約破棄ですか?結構ですわ。ですが違約金は国家予算になります

しおしお

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第8話 辺境公爵

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第8話 辺境公爵

王都を出て三日。

街道の景色は、すっかり変わっていた。

石畳の整った道は次第に土の街道へと変わり、王都近くの農地は姿を消し、代わりに広い草原と森が広がっている。

遠くには山の稜線が見えた。

アルグレイス公爵領。

王国の北方を守る辺境の地だ。

「もうすぐでございます」

馬車の中で、執事グラントが窓の外を見ながら言った。

アルシェラはカーテンを少し開ける。

遠くに石造りの城が見えた。

王都の華やかな宮殿とは違う。

高く厚い城壁。
角ばった塔。
実用性を重視した造り。

まるで要塞のようだった。

「思っていたより……」

アルシェラは少し驚く。

「大きいですね」

グラントは頷く。

「北方は魔物や盗賊も多い土地です」

「アルグレイス公爵は軍事力で知られております」

馬車は城門へ近づく。

門の前には騎士たちが立っていた。

重い鎧。
長い槍。

彼らは馬車の紋章を見ると、すぐに姿勢を正す。

「ヴァルディア公爵家の馬車だ」

騎士の一人が声を上げた。

「通せ」

城門がゆっくりと開く。

重い木の門。

鉄で補強された巨大な扉だ。

馬車はその中へ入った。

城の中は意外と活気があった。

兵士が訓練している。
鍛冶屋が武器を打っている。
商人が荷物を運んでいる。

王都の優雅な空気とは違う。

だが、どこか力強い雰囲気だった。

馬車は城の前で止まる。

御者が扉を開ける。

「到着いたしました」

アルシェラはゆっくり降りた。

北の空気は王都より少し冷たい。

だが澄んでいた。

その時だった。

「ようこそ」

低く落ち着いた声が響いた。

アルシェラが顔を上げる。

城の階段の上に、一人の男が立っていた。

背が高い。

黒い外套を羽織り、銀灰色の髪が風に揺れている。

鋭い目。

整った顔立ち。

そしてどこか冷たい雰囲気。

ヴァレリオン・アルグレイス。

辺境公爵。

アルシェラはすぐに理解した。

彼女はドレスの裾を軽く持ち上げ、礼をする。

「突然の訪問をお許しください」

「アルシェラ・ヴァルディアでございます」

ヴァレリオンは階段を降りてくる。

その動きは無駄がなく、静かだった。

彼はアルシェラの前で止まる。

しばらく彼女を見ていた。

その視線は鋭い。

まるで人を観察するような目だった。

アルシェラは視線を逸らさない。

ヴァレリオンが口を開く。

「事情は聞いている」

短い言葉。

「王都は騒がしいらしいな」

アルシェラは小さく微笑む。

「そのようですね」

ヴァレリオンはわずかに眉を動かす。

「落ち着いている」

彼は言う。

「普通の令嬢なら泣き崩れるところだ」

アルシェラは少し考えた。

そして答える。

「泣いたところで、何も変わりませんから」

その言葉に、ヴァレリオンの目がわずかに細くなる。

「なるほど」

彼は短く言った。

そして少しだけ視線を横へ向ける。

「部屋は用意してある」

「好きなだけ滞在するといい」

それは意外なほどあっさりした言葉だった。

アルシェラは軽く頭を下げる。

「ありがとうございます」

ヴァレリオンは振り返る。

「案内しろ」

近くにいた侍女に命じる。

侍女は慌てて頭を下げた。

「こちらでございます」

アルシェラは侍女の後ろを歩く。

城の中へ入る。

石の廊下。

高い天井。

王宮ほど豪華ではないが、整った城だった。

侍女が扉を開く。

「こちらがお部屋です」

客室だった。

広く、暖炉があり、窓からは草原が見える。

アルシェラは部屋に入る。

「お気に召しましたでしょうか」

侍女が不安そうに言う。

アルシェラは微笑んだ。

「とても素敵です」

侍女は安心したように頭を下げる。

「ご用があればお呼びください」

扉が閉まる。

部屋に静けさが戻る。

グラントが荷物を確認している。

アルシェラは窓へ歩く。

外には広い草原。

遠くに山。

王都では見えなかった景色。

彼女は小さく息を吐く。

その時。

背後からグラントの声。

「どう思われますか」

アルシェラは振り返る。

「何が?」

「ヴァレリオン公爵です」

アルシェラは少し考えた。

そして言った。

「噂ほど冷たい方ではなさそうです」

グラントは微笑む。

「私も同じ印象です」

アルシェラは窓の外を見る。

この城での生活が始まる。

それがどんな未来になるのか。

まだ分からない。

だが確かなことが一つあった。

王都とは違う風が、ここには吹いていた。
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