25 / 31
第26話 姉妹の再会
しおりを挟む
第26話 姉妹の再会
王宮客室棟。
扉の前で侍女が深く頭を下げる。
「ノエリア様がお見えです」
アルシェラは紅茶のカップを置いた。
「お通しして」
侍女が扉を開ける。
静かな足音。
そして現れたのは――
ノエリア・ヴァルディアだった。
淡い桃色のドレス。
優雅な微笑み。
王都の社交界で「天使」と呼ばれる笑顔。
ノエリアは優雅に礼をした。
「お久しぶりです、お姉様」
アルシェラも軽く礼を返す。
「ええ」
「久しぶりね、ノエリア」
二人の視線が合う。
静かな時間。
だがその空気は、決して穏やかではない。
アルシェラが言う。
「座って」
ノエリアは微笑んだ。
「ありがとうございます」
侍女が紅茶を用意する。
カップが置かれる音だけが部屋に響く。
ノエリアは言った。
「王都に戻られたと聞いて」
「驚きました」
アルシェラはカップを持つ。
「そうでしょうね」
ノエリアは首を傾げる。
「北方にいらっしゃると聞いていました」
アルシェラは微笑む。
「ええ」
「少し滞在していたわ」
ノエリアの目がわずかに動く。
「アルグレイス公爵家に?」
アルシェラは紅茶を一口飲んだ。
「そうよ」
ノエリアは沈黙した。
ほんの一瞬。
しかしその沈黙は長く感じられた。
アルシェラは静かに言う。
「とても良くしていただいたわ」
ノエリアは笑顔を保つ。
「それは……」
「よかったです」
だが心の中では別の声が響く。
(最悪)
アルグレイス公爵。
王国最強の軍事貴族。
その家が味方に付く意味は大きい。
ノエリアは紅茶を持つ。
「それで」
「今回はどうして王都へ?」
アルシェラは少し考える。
そして言った。
「呼ばれたからよ」
ノエリアの眉がわずかに動く。
「誰に?」
アルシェラは答えない。
代わりに言う。
「王宮よ」
ノエリアの指が止まる。
王宮。
つまり――
王家。
ノエリアは静かに笑う。
「そうでしたの」
「では王太子殿下とも」
アルシェラは肩をすくめた。
「まだ会っていないわ」
「でもそのうち呼ばれるでしょうね」
ノエリアは紅茶を置いた。
「お姉様」
「王都は……」
少し言葉を選ぶ。
「北方とは違います」
アルシェラは笑った。
「知っているわ」
「私、ここで育ったもの」
ノエリアは一瞬黙る。
アルシェラは続ける。
「それに」
「心配しなくても大丈夫よ」
ノエリアは首を傾げる。
「何がです?」
アルシェラは穏やかに言った。
「あなたの居場所を」
「奪いに来たわけじゃない」
その言葉は優しかった。
だがノエリアの胸が強く打つ。
(嘘)
奪うつもりがなくても――
奪われる可能性がある。
それが一番怖い。
ノエリアは笑顔を作る。
「そんなこと」
「考えたこともありません」
アルシェラは何も言わない。
ただ紅茶を飲む。
沈黙が続く。
やがてノエリアが立ち上がった。
「今日は挨拶だけです」
「お姉様が無事でよかった」
アルシェラも立つ。
「ありがとう」
ノエリアは礼をする。
「またお会いしましょう」
扉へ向かう。
そして扉の前で一度だけ振り返る。
アルシェラは静かに立っていた。
穏やかな顔。
だがその奥にあるものは、昔とは違う。
ノエリアは思う。
(変わった)
以前の姉ではない。
弱くて、優しくて、押し切れる姉ではない。
今のアルシェラは――
落ち着きすぎている。
ノエリアは扉を出た。
廊下を歩く。
侍女が後ろに続く。
しばらく歩いてから、ノエリアは小さく呟いた。
「アルグレイス公爵……」
侍女は聞こえないふりをする。
ノエリアの表情はもう笑っていなかった。
一方。
部屋の中。
アルシェラは再び椅子に座った。
紅茶はもう冷めている。
レオスが静かに言う。
「警戒すべきでしょうか」
アルシェラは首を振った。
「いいえ」
「彼女は」
少し考える。
そして言った。
「まだ焦っているだけ」
窓の外には王宮の庭。
静かな風。
アルシェラは思う。
王都は変わっていない。
だが一つだけ違う。
今の自分は――
以前の自分ではない。
そして王宮のどこかで。
王太子エドガルドもまた、同じ報告を聞いていた。
「姉妹が会った?」
侍従が答える。
「はい」
エドガルドは小さく笑った。
「面白くなってきたな」
王宮の空気が、少しずつ動き始めていた。
王宮客室棟。
扉の前で侍女が深く頭を下げる。
「ノエリア様がお見えです」
アルシェラは紅茶のカップを置いた。
「お通しして」
侍女が扉を開ける。
静かな足音。
そして現れたのは――
ノエリア・ヴァルディアだった。
淡い桃色のドレス。
優雅な微笑み。
王都の社交界で「天使」と呼ばれる笑顔。
ノエリアは優雅に礼をした。
「お久しぶりです、お姉様」
アルシェラも軽く礼を返す。
「ええ」
「久しぶりね、ノエリア」
二人の視線が合う。
静かな時間。
だがその空気は、決して穏やかではない。
アルシェラが言う。
「座って」
ノエリアは微笑んだ。
「ありがとうございます」
侍女が紅茶を用意する。
カップが置かれる音だけが部屋に響く。
ノエリアは言った。
「王都に戻られたと聞いて」
「驚きました」
アルシェラはカップを持つ。
「そうでしょうね」
ノエリアは首を傾げる。
「北方にいらっしゃると聞いていました」
アルシェラは微笑む。
「ええ」
「少し滞在していたわ」
ノエリアの目がわずかに動く。
「アルグレイス公爵家に?」
アルシェラは紅茶を一口飲んだ。
「そうよ」
ノエリアは沈黙した。
ほんの一瞬。
しかしその沈黙は長く感じられた。
アルシェラは静かに言う。
「とても良くしていただいたわ」
ノエリアは笑顔を保つ。
「それは……」
「よかったです」
だが心の中では別の声が響く。
(最悪)
アルグレイス公爵。
王国最強の軍事貴族。
その家が味方に付く意味は大きい。
ノエリアは紅茶を持つ。
「それで」
「今回はどうして王都へ?」
アルシェラは少し考える。
そして言った。
「呼ばれたからよ」
ノエリアの眉がわずかに動く。
「誰に?」
アルシェラは答えない。
代わりに言う。
「王宮よ」
ノエリアの指が止まる。
王宮。
つまり――
王家。
ノエリアは静かに笑う。
「そうでしたの」
「では王太子殿下とも」
アルシェラは肩をすくめた。
「まだ会っていないわ」
「でもそのうち呼ばれるでしょうね」
ノエリアは紅茶を置いた。
「お姉様」
「王都は……」
少し言葉を選ぶ。
「北方とは違います」
アルシェラは笑った。
「知っているわ」
「私、ここで育ったもの」
ノエリアは一瞬黙る。
アルシェラは続ける。
「それに」
「心配しなくても大丈夫よ」
ノエリアは首を傾げる。
「何がです?」
アルシェラは穏やかに言った。
「あなたの居場所を」
「奪いに来たわけじゃない」
その言葉は優しかった。
だがノエリアの胸が強く打つ。
(嘘)
奪うつもりがなくても――
奪われる可能性がある。
それが一番怖い。
ノエリアは笑顔を作る。
「そんなこと」
「考えたこともありません」
アルシェラは何も言わない。
ただ紅茶を飲む。
沈黙が続く。
やがてノエリアが立ち上がった。
「今日は挨拶だけです」
「お姉様が無事でよかった」
アルシェラも立つ。
「ありがとう」
ノエリアは礼をする。
「またお会いしましょう」
扉へ向かう。
そして扉の前で一度だけ振り返る。
アルシェラは静かに立っていた。
穏やかな顔。
だがその奥にあるものは、昔とは違う。
ノエリアは思う。
(変わった)
以前の姉ではない。
弱くて、優しくて、押し切れる姉ではない。
今のアルシェラは――
落ち着きすぎている。
ノエリアは扉を出た。
廊下を歩く。
侍女が後ろに続く。
しばらく歩いてから、ノエリアは小さく呟いた。
「アルグレイス公爵……」
侍女は聞こえないふりをする。
ノエリアの表情はもう笑っていなかった。
一方。
部屋の中。
アルシェラは再び椅子に座った。
紅茶はもう冷めている。
レオスが静かに言う。
「警戒すべきでしょうか」
アルシェラは首を振った。
「いいえ」
「彼女は」
少し考える。
そして言った。
「まだ焦っているだけ」
窓の外には王宮の庭。
静かな風。
アルシェラは思う。
王都は変わっていない。
だが一つだけ違う。
今の自分は――
以前の自分ではない。
そして王宮のどこかで。
王太子エドガルドもまた、同じ報告を聞いていた。
「姉妹が会った?」
侍従が答える。
「はい」
エドガルドは小さく笑った。
「面白くなってきたな」
王宮の空気が、少しずつ動き始めていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい
神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。
嘘でしょう。
その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。
そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。
「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」
もう誰かが護ってくれるなんて思わない。
ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。
だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。
「ぜひ辺境へ来て欲しい」
※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m
総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ ありがとうございます<(_ _)>
覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。
婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません
黒木 楓
恋愛
子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。
激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。
婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。
婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。
翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」
物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。
★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位
2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位
2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位
2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位
2023/01/08……完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる