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第27話 王太子の呼び出し
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第27話 王太子の呼び出し
翌朝。
王宮客室棟の廊下に、固い足音が響いた。
王宮の伝令兵だった。
扉の前で立ち止まり、姿勢を正す。
「アルシェラ・ヴァルディア様」
扉が開く。
中から騎士レオスが出てきた。
「何用だ」
伝令兵は敬礼する。
「王太子殿下より」
「呼び出しです」
レオスは少しだけ眉を動かした。
「今か」
「はい」
伝令兵は続ける。
「王太子殿下の執務室へ」
レオスは頷いた。
「伝える」
伝令兵は礼をして去っていく。
部屋の中。
アルシェラは窓の前に立っていた。
王宮の庭園。
朝の光が差し込んでいる。
レオスが言う。
「王太子殿下です」
アルシェラは振り向く。
「早いわね」
レオスは腕を組む。
「予想通りでは」
アルシェラは微笑む。
「そうね」
王太子が動くのは当然。
王都に戻ってきた以上、会わないわけにはいかない。
アルシェラはドレスを整える。
「準備はいい?」
レオスは頷く。
「いつでも」
アルシェラは言った。
「護衛はいらないわ」
レオスは首を振る。
「必要です」
アルシェラは少し笑う。
「王太子の執務室よ」
「戦場じゃない」
レオスは答える。
「王宮は戦場です」
アルシェラは一瞬だけ黙る。
そして言った。
「……そうね」
「じゃあ廊下まで」
レオスは頷いた。
「了解」
数分後。
アルシェラは客室棟を出た。
王宮の廊下。
高い天井。
赤い絨毯。
見慣れた場所。
だが周囲の視線は、昔とは違う。
侍女。
兵士。
役人。
皆が彼女を見る。
そして小声で囁く。
「アルシェラ様だ」
「戻ってきたのか」
「北方から」
「アルグレイス公爵の……」
噂はもう広がっている。
アルシェラは気にしない。
ただ静かに歩く。
やがて王太子棟へ着いた。
扉の前に兵士が立っている。
「アルシェラ様」
兵士は敬礼した。
「殿下がお待ちです」
扉が開く。
中は広い執務室だった。
窓の前に一人の男が立っている。
エドガルド・ヴァルドール。
王太子。
彼は振り返った。
「久しぶりだな」
アルシェラは礼をする。
「お久しぶりです」
エドガルドは椅子に座った。
「座れ」
アルシェラは向かいの椅子に座る。
しばらく沈黙。
王太子は言った。
「北方にいたそうだな」
「はい」
「アルグレイス公爵のところに?」
アルシェラは頷く。
「少しお世話になりました」
エドガルドは腕を組む。
「少し、か」
その言葉には皮肉が混じっていた。
「公爵家の馬車で王都へ戻る程度には“少し”らしいな」
アルシェラは静かに答える。
「親切な方でした」
エドガルドはアルシェラを見る。
じっと。
昔と同じ顔。
だが雰囲気が違う。
以前はもっと――
弱かった。
今は違う。
王太子は言う。
「アルシェラ」
その声は少し低い。
「お前は何をするつもりだ」
アルシェラは首を傾げる。
「何とは?」
エドガルドは机を叩く。
「王都に戻った」
「アルグレイス公爵の後ろ盾」
「そして王宮」
「偶然だと思うか?」
アルシェラは少し考える。
そして言った。
「半分は偶然です」
エドガルドは眉をひそめる。
「半分?」
アルシェラは穏やかに言う。
「もう半分は」
「必要だったから」
エドガルドは黙る。
必要?
何のために。
アルシェラは言った。
「王太子殿下」
「一つだけ確認してよろしいでしょうか」
エドガルドは頷く。
「言え」
アルシェラは静かに言った。
「私とあなたの婚約」
「まだ有効ですか?」
部屋の空気が一瞬止まった。
エドガルドの目が細くなる。
「……今さらそれを聞くのか」
アルシェラは答える。
「必要な確認です」
王太子はしばらく沈黙した。
そして言った。
「形式上は」
「まだ有効だ」
アルシェラは小さく頷く。
「そうですか」
エドガルドはアルシェラを見る。
「だからどうした」
アルシェラは立ち上がった。
そして礼をする。
「それが分かれば十分です」
エドガルドは眉をひそめる。
「待て」
アルシェラは顔を上げる。
「何ですか?」
王太子は言った。
「まだ話は終わっていない」
アルシェラは穏やかに答える。
「いえ」
「終わっています」
エドガルドの目が鋭くなる。
「どういう意味だ」
アルシェラは微笑んだ。
「それは」
「そのうち分かります」
そして彼女は扉へ向かった。
王太子の執務室を出る。
廊下に出ると、レオスが待っていた。
「どうでした」
アルシェラは歩きながら言う。
「確認が取れたわ」
レオスは首を傾げる。
「何の」
アルシェラは答える。
「まだ」
「終わっていないこと」
王宮の廊下を歩く。
その背中を、何人もの視線が追っていた。
そして執務室の中では。
王太子エドガルドが椅子に座ったまま呟く。
「……何を企んでいる」
アルシェラ・ヴァルディア。
彼女の帰還は――
まだ始まったばかりだった。
翌朝。
王宮客室棟の廊下に、固い足音が響いた。
王宮の伝令兵だった。
扉の前で立ち止まり、姿勢を正す。
「アルシェラ・ヴァルディア様」
扉が開く。
中から騎士レオスが出てきた。
「何用だ」
伝令兵は敬礼する。
「王太子殿下より」
「呼び出しです」
レオスは少しだけ眉を動かした。
「今か」
「はい」
伝令兵は続ける。
「王太子殿下の執務室へ」
レオスは頷いた。
「伝える」
伝令兵は礼をして去っていく。
部屋の中。
アルシェラは窓の前に立っていた。
王宮の庭園。
朝の光が差し込んでいる。
レオスが言う。
「王太子殿下です」
アルシェラは振り向く。
「早いわね」
レオスは腕を組む。
「予想通りでは」
アルシェラは微笑む。
「そうね」
王太子が動くのは当然。
王都に戻ってきた以上、会わないわけにはいかない。
アルシェラはドレスを整える。
「準備はいい?」
レオスは頷く。
「いつでも」
アルシェラは言った。
「護衛はいらないわ」
レオスは首を振る。
「必要です」
アルシェラは少し笑う。
「王太子の執務室よ」
「戦場じゃない」
レオスは答える。
「王宮は戦場です」
アルシェラは一瞬だけ黙る。
そして言った。
「……そうね」
「じゃあ廊下まで」
レオスは頷いた。
「了解」
数分後。
アルシェラは客室棟を出た。
王宮の廊下。
高い天井。
赤い絨毯。
見慣れた場所。
だが周囲の視線は、昔とは違う。
侍女。
兵士。
役人。
皆が彼女を見る。
そして小声で囁く。
「アルシェラ様だ」
「戻ってきたのか」
「北方から」
「アルグレイス公爵の……」
噂はもう広がっている。
アルシェラは気にしない。
ただ静かに歩く。
やがて王太子棟へ着いた。
扉の前に兵士が立っている。
「アルシェラ様」
兵士は敬礼した。
「殿下がお待ちです」
扉が開く。
中は広い執務室だった。
窓の前に一人の男が立っている。
エドガルド・ヴァルドール。
王太子。
彼は振り返った。
「久しぶりだな」
アルシェラは礼をする。
「お久しぶりです」
エドガルドは椅子に座った。
「座れ」
アルシェラは向かいの椅子に座る。
しばらく沈黙。
王太子は言った。
「北方にいたそうだな」
「はい」
「アルグレイス公爵のところに?」
アルシェラは頷く。
「少しお世話になりました」
エドガルドは腕を組む。
「少し、か」
その言葉には皮肉が混じっていた。
「公爵家の馬車で王都へ戻る程度には“少し”らしいな」
アルシェラは静かに答える。
「親切な方でした」
エドガルドはアルシェラを見る。
じっと。
昔と同じ顔。
だが雰囲気が違う。
以前はもっと――
弱かった。
今は違う。
王太子は言う。
「アルシェラ」
その声は少し低い。
「お前は何をするつもりだ」
アルシェラは首を傾げる。
「何とは?」
エドガルドは机を叩く。
「王都に戻った」
「アルグレイス公爵の後ろ盾」
「そして王宮」
「偶然だと思うか?」
アルシェラは少し考える。
そして言った。
「半分は偶然です」
エドガルドは眉をひそめる。
「半分?」
アルシェラは穏やかに言う。
「もう半分は」
「必要だったから」
エドガルドは黙る。
必要?
何のために。
アルシェラは言った。
「王太子殿下」
「一つだけ確認してよろしいでしょうか」
エドガルドは頷く。
「言え」
アルシェラは静かに言った。
「私とあなたの婚約」
「まだ有効ですか?」
部屋の空気が一瞬止まった。
エドガルドの目が細くなる。
「……今さらそれを聞くのか」
アルシェラは答える。
「必要な確認です」
王太子はしばらく沈黙した。
そして言った。
「形式上は」
「まだ有効だ」
アルシェラは小さく頷く。
「そうですか」
エドガルドはアルシェラを見る。
「だからどうした」
アルシェラは立ち上がった。
そして礼をする。
「それが分かれば十分です」
エドガルドは眉をひそめる。
「待て」
アルシェラは顔を上げる。
「何ですか?」
王太子は言った。
「まだ話は終わっていない」
アルシェラは穏やかに答える。
「いえ」
「終わっています」
エドガルドの目が鋭くなる。
「どういう意味だ」
アルシェラは微笑んだ。
「それは」
「そのうち分かります」
そして彼女は扉へ向かった。
王太子の執務室を出る。
廊下に出ると、レオスが待っていた。
「どうでした」
アルシェラは歩きながら言う。
「確認が取れたわ」
レオスは首を傾げる。
「何の」
アルシェラは答える。
「まだ」
「終わっていないこと」
王宮の廊下を歩く。
その背中を、何人もの視線が追っていた。
そして執務室の中では。
王太子エドガルドが椅子に座ったまま呟く。
「……何を企んでいる」
アルシェラ・ヴァルディア。
彼女の帰還は――
まだ始まったばかりだった。
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