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第28話 静かな準備
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第28話 静かな準備
王太子の執務室を出たあと。
アルシェラは王宮の長い廊下をゆっくり歩いていた。
隣には騎士レオス。
後ろには侍女が一人。
王宮の窓から光が差し込んでいる。
静かな昼の時間だった。
レオスが言う。
「確認とは」
アルシェラは歩きながら答える。
「婚約よ」
レオスは少し驚く。
「まだ有効だと?」
「ええ」
アルシェラは微笑む。
「本人がそう言ったわ」
レオスは腕を組む。
「では」
「殿下は婚約を解消するつもりがない?」
アルシェラは首を振る。
「違うわ」
そして言った。
「解消できないのよ」
レオスの足が止まる。
「……どういう意味です」
アルシェラは振り向かない。
ただ歩き続ける。
「この婚約」
「王家とヴァルディア家の契約だから」
レオスは理解する。
普通の婚約ではない。
王家と大公爵家の政治契約。
王太子一人の意思では破棄できない。
アルシェラは続ける。
「王太子は“破棄した気”になっている」
「でも」
「正式な手続きは何もしていない」
レオスは呟く。
「つまり」
「まだ婚約者」
アルシェラは軽く頷く。
「そう」
レオスは小さく笑った。
「それは……」
「面白い状況ですね」
アルシェラは言う。
「ええ」
「とても」
二人は客室棟へ戻る。
扉を開ける。
部屋の机にはすでに書類が並んでいた。
レオスが眉を上げる。
「これは?」
アルシェラは椅子に座る。
「昨夜届いたもの」
封筒には紋章がある。
ヴァルディア家。
アルシェラの実家だ。
レオスは言う。
「家から?」
アルシェラは封を開ける。
中には数枚の書類。
家令からの手紙。
そして――
婚約契約書の写し。
レオスは言った。
「準備がいい」
アルシェラは微笑む。
「父は慎重な人だから」
書類には古い署名がある。
王家の印。
ヴァルディア家の印。
婚約の正式契約。
レオスが言う。
「つまり」
「王太子が勝手に破棄しただけ」
アルシェラは頷く。
「そういうこと」
レオスは椅子に座る。
「では次は」
アルシェラは窓の外を見る。
王宮の庭。
噴水。
貴族たちが歩いている。
そして言った。
「社交界」
レオスは首を傾げる。
「戦場ですか」
アルシェラは笑った。
「もちろん」
王宮での戦いは、剣ではない。
噂。
礼儀。
序列。
そして――
公開の場。
アルシェラは言った。
「もうすぐ春の舞踏会がある」
レオスは思い出す。
「王宮主催の?」
「ええ」
王都最大の舞踏会。
王族。
大公爵家。
全ての上級貴族が集まる。
アルシェラは言った。
「そこで確認する」
レオスは聞く。
「何を」
アルシェラは静かに答えた。
「私の立場」
そして少し笑う。
「王太子の立場も」
レオスは深く息を吐く。
「嵐になりますね」
アルシェラは紅茶を飲む。
「そうかしら」
「私はただ」
「約束を守るだけ」
レオスは苦笑した。
「それが一番怖い」
アルシェラは窓を見る。
遠くに王宮の塔。
そのどこかに王太子がいる。
アルシェラは思う。
(あなたは)
(まだ終わったと思っている)
だが違う。
この婚約は終わっていない。
終わらせるなら――
正式に終わらせなければならない。
そしてそれは。
王宮の前で。
その頃。
王太子の執務室。
エドガルドは書類を読んでいた。
侍従が報告する。
「アルシェラ様は客室へ戻られました」
エドガルドは言う。
「そうか」
侍従は続ける。
「社交界ではすでに噂になっております」
エドガルドはため息をつく。
「当然だ」
アルシェラの帰還。
アルグレイス公爵。
そして王宮。
噂にならないはずがない。
侍従は言った。
「春の舞踏会まで二週間です」
エドガルドの手が止まる。
舞踏会。
王宮最大の社交の場。
王太子はゆっくり言う。
「……あいつ」
侍従は黙る。
エドガルドは小さく笑った。
「なるほどな」
アルシェラの狙いが見えてきた。
王太子は椅子にもたれる。
「いいだろう」
そして呟いた。
「舞踏会で決着だ」
王宮の外では、春の風が吹いていた。
嵐の前の――
静かな準備の時間だった。
王太子の執務室を出たあと。
アルシェラは王宮の長い廊下をゆっくり歩いていた。
隣には騎士レオス。
後ろには侍女が一人。
王宮の窓から光が差し込んでいる。
静かな昼の時間だった。
レオスが言う。
「確認とは」
アルシェラは歩きながら答える。
「婚約よ」
レオスは少し驚く。
「まだ有効だと?」
「ええ」
アルシェラは微笑む。
「本人がそう言ったわ」
レオスは腕を組む。
「では」
「殿下は婚約を解消するつもりがない?」
アルシェラは首を振る。
「違うわ」
そして言った。
「解消できないのよ」
レオスの足が止まる。
「……どういう意味です」
アルシェラは振り向かない。
ただ歩き続ける。
「この婚約」
「王家とヴァルディア家の契約だから」
レオスは理解する。
普通の婚約ではない。
王家と大公爵家の政治契約。
王太子一人の意思では破棄できない。
アルシェラは続ける。
「王太子は“破棄した気”になっている」
「でも」
「正式な手続きは何もしていない」
レオスは呟く。
「つまり」
「まだ婚約者」
アルシェラは軽く頷く。
「そう」
レオスは小さく笑った。
「それは……」
「面白い状況ですね」
アルシェラは言う。
「ええ」
「とても」
二人は客室棟へ戻る。
扉を開ける。
部屋の机にはすでに書類が並んでいた。
レオスが眉を上げる。
「これは?」
アルシェラは椅子に座る。
「昨夜届いたもの」
封筒には紋章がある。
ヴァルディア家。
アルシェラの実家だ。
レオスは言う。
「家から?」
アルシェラは封を開ける。
中には数枚の書類。
家令からの手紙。
そして――
婚約契約書の写し。
レオスは言った。
「準備がいい」
アルシェラは微笑む。
「父は慎重な人だから」
書類には古い署名がある。
王家の印。
ヴァルディア家の印。
婚約の正式契約。
レオスが言う。
「つまり」
「王太子が勝手に破棄しただけ」
アルシェラは頷く。
「そういうこと」
レオスは椅子に座る。
「では次は」
アルシェラは窓の外を見る。
王宮の庭。
噴水。
貴族たちが歩いている。
そして言った。
「社交界」
レオスは首を傾げる。
「戦場ですか」
アルシェラは笑った。
「もちろん」
王宮での戦いは、剣ではない。
噂。
礼儀。
序列。
そして――
公開の場。
アルシェラは言った。
「もうすぐ春の舞踏会がある」
レオスは思い出す。
「王宮主催の?」
「ええ」
王都最大の舞踏会。
王族。
大公爵家。
全ての上級貴族が集まる。
アルシェラは言った。
「そこで確認する」
レオスは聞く。
「何を」
アルシェラは静かに答えた。
「私の立場」
そして少し笑う。
「王太子の立場も」
レオスは深く息を吐く。
「嵐になりますね」
アルシェラは紅茶を飲む。
「そうかしら」
「私はただ」
「約束を守るだけ」
レオスは苦笑した。
「それが一番怖い」
アルシェラは窓を見る。
遠くに王宮の塔。
そのどこかに王太子がいる。
アルシェラは思う。
(あなたは)
(まだ終わったと思っている)
だが違う。
この婚約は終わっていない。
終わらせるなら――
正式に終わらせなければならない。
そしてそれは。
王宮の前で。
その頃。
王太子の執務室。
エドガルドは書類を読んでいた。
侍従が報告する。
「アルシェラ様は客室へ戻られました」
エドガルドは言う。
「そうか」
侍従は続ける。
「社交界ではすでに噂になっております」
エドガルドはため息をつく。
「当然だ」
アルシェラの帰還。
アルグレイス公爵。
そして王宮。
噂にならないはずがない。
侍従は言った。
「春の舞踏会まで二週間です」
エドガルドの手が止まる。
舞踏会。
王宮最大の社交の場。
王太子はゆっくり言う。
「……あいつ」
侍従は黙る。
エドガルドは小さく笑った。
「なるほどな」
アルシェラの狙いが見えてきた。
王太子は椅子にもたれる。
「いいだろう」
そして呟いた。
「舞踏会で決着だ」
王宮の外では、春の風が吹いていた。
嵐の前の――
静かな準備の時間だった。
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