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第29話 社交界の風向き
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第29話 社交界の風向き
アルシェラが王都へ戻って三日。
王宮の中も、王都の社交界も、すでに落ち着きを失っていた。
原因はただ一つ。
アルシェラ・ヴァルディアの帰還。
そしてもう一つ。
アルグレイス公爵家の後ろ盾。
王都の貴族たちは敏感だ。
風向きが変わる瞬間を見逃さない。
その日の午後。
王都のサロン。
上級貴族の夫人たちが紅茶を飲んでいた。
「聞きました?」
一人が声を落とす。
「アルシェラ様のこと」
別の夫人が頷く。
「ええ」
「アルグレイス公爵の馬車で王都入り」
「驚きましたわ」
三人目が言う。
「北方の公爵ですよ?」
「あの家が関わるなんて」
夫人の一人が小さく笑った。
「それだけではありませんわ」
全員が彼女を見る。
「春の舞踏会」
「アルシェラ様が出席するそうです」
紅茶のカップが止まる。
「本当?」
「ええ」
夫人は言う。
「王宮の客室に滞在しているそうですもの」
それは意味を持つ。
王宮に滞在する貴族。
それは――
王家の客人。
つまり追放された令嬢ではない。
夫人の一人が言う。
「では婚約は」
別の夫人が答える。
「まだ有効らしいわ」
その言葉で空気が変わった。
王太子の婚約。
それは王国最大の政治案件。
夫人の一人が呟く。
「では」
「ノエリア様は……?」
誰も答えない。
その沈黙が答えだった。
その頃。
王宮の庭園。
ノエリア・ヴァルディアは一人で歩いていた。
白い花が咲く庭。
美しい景色。
だが彼女の心は穏やかではない。
侍女が言う。
「社交界では」
「いろいろな噂が……」
ノエリアは止まる。
「どんな噂?」
侍女は少し迷う。
だが言った。
「アルシェラ様の婚約が」
「まだ続いているのではないかと」
ノエリアの手が握られる。
「……そう」
侍女は続ける。
「舞踏会で」
「何か起きるのではと」
ノエリアは庭の噴水を見る。
水が静かに落ちている。
彼女は思う。
(お姉様)
戻ってきただけではない。
戦いに来た。
ノエリアはゆっくり言う。
「王太子殿下は?」
侍女が答える。
「執務室に」
ノエリアは歩き出す。
「会いに行きます」
侍女が驚く。
「今ですか?」
ノエリアは静かに答えた。
「ええ」
「今」
一方。
王宮客室棟。
アルシェラは書類を読んでいた。
レオスが入ってくる。
「王都の様子ですが」
アルシェラは顔を上げる。
「噂?」
レオスは頷く。
「広がっています」
アルシェラは笑った。
「早いわね」
レオスは椅子に座る。
「社交界の風向きが変わっています」
アルシェラは窓の外を見る。
王宮の庭。
遠くに貴族たちの姿。
レオスは言う。
「以前は」
「あなたが悪者だった」
アルシェラは頷く。
「ええ」
王太子に捨てられた令嬢。
そういう噂だった。
レオスは続ける。
「今は違う」
アルシェラは聞く。
「どう違うの?」
レオスは言った。
「王太子が」
「面倒な状況にいる」
アルシェラは少し笑った。
「そうね」
王太子は婚約を破棄したつもり。
だが正式には破棄していない。
そして婚約者は王宮にいる。
さらに――
アルグレイス公爵が背後にいる。
レオスは言う。
「舞踏会まであと十日」
アルシェラは紅茶を飲む。
「十分ね」
レオスは聞く。
「何が」
アルシェラは答えた。
「皆が考える時間」
レオスは小さく笑う。
「貴族は」
「考えすぎますから」
アルシェラは言う。
「それが社交界よ」
そして窓を見る。
王宮の塔。
そのどこかにノエリアと王太子がいる。
アルシェラは静かに思う。
舞踏会。
そこが本当の舞台。
全ての貴族が集まる。
全ての視線が向く。
そして――
誰が正しいのか。
それが決まる。
王都の空は、ゆっくりと夕暮れに染まり始めていた。
アルシェラが王都へ戻って三日。
王宮の中も、王都の社交界も、すでに落ち着きを失っていた。
原因はただ一つ。
アルシェラ・ヴァルディアの帰還。
そしてもう一つ。
アルグレイス公爵家の後ろ盾。
王都の貴族たちは敏感だ。
風向きが変わる瞬間を見逃さない。
その日の午後。
王都のサロン。
上級貴族の夫人たちが紅茶を飲んでいた。
「聞きました?」
一人が声を落とす。
「アルシェラ様のこと」
別の夫人が頷く。
「ええ」
「アルグレイス公爵の馬車で王都入り」
「驚きましたわ」
三人目が言う。
「北方の公爵ですよ?」
「あの家が関わるなんて」
夫人の一人が小さく笑った。
「それだけではありませんわ」
全員が彼女を見る。
「春の舞踏会」
「アルシェラ様が出席するそうです」
紅茶のカップが止まる。
「本当?」
「ええ」
夫人は言う。
「王宮の客室に滞在しているそうですもの」
それは意味を持つ。
王宮に滞在する貴族。
それは――
王家の客人。
つまり追放された令嬢ではない。
夫人の一人が言う。
「では婚約は」
別の夫人が答える。
「まだ有効らしいわ」
その言葉で空気が変わった。
王太子の婚約。
それは王国最大の政治案件。
夫人の一人が呟く。
「では」
「ノエリア様は……?」
誰も答えない。
その沈黙が答えだった。
その頃。
王宮の庭園。
ノエリア・ヴァルディアは一人で歩いていた。
白い花が咲く庭。
美しい景色。
だが彼女の心は穏やかではない。
侍女が言う。
「社交界では」
「いろいろな噂が……」
ノエリアは止まる。
「どんな噂?」
侍女は少し迷う。
だが言った。
「アルシェラ様の婚約が」
「まだ続いているのではないかと」
ノエリアの手が握られる。
「……そう」
侍女は続ける。
「舞踏会で」
「何か起きるのではと」
ノエリアは庭の噴水を見る。
水が静かに落ちている。
彼女は思う。
(お姉様)
戻ってきただけではない。
戦いに来た。
ノエリアはゆっくり言う。
「王太子殿下は?」
侍女が答える。
「執務室に」
ノエリアは歩き出す。
「会いに行きます」
侍女が驚く。
「今ですか?」
ノエリアは静かに答えた。
「ええ」
「今」
一方。
王宮客室棟。
アルシェラは書類を読んでいた。
レオスが入ってくる。
「王都の様子ですが」
アルシェラは顔を上げる。
「噂?」
レオスは頷く。
「広がっています」
アルシェラは笑った。
「早いわね」
レオスは椅子に座る。
「社交界の風向きが変わっています」
アルシェラは窓の外を見る。
王宮の庭。
遠くに貴族たちの姿。
レオスは言う。
「以前は」
「あなたが悪者だった」
アルシェラは頷く。
「ええ」
王太子に捨てられた令嬢。
そういう噂だった。
レオスは続ける。
「今は違う」
アルシェラは聞く。
「どう違うの?」
レオスは言った。
「王太子が」
「面倒な状況にいる」
アルシェラは少し笑った。
「そうね」
王太子は婚約を破棄したつもり。
だが正式には破棄していない。
そして婚約者は王宮にいる。
さらに――
アルグレイス公爵が背後にいる。
レオスは言う。
「舞踏会まであと十日」
アルシェラは紅茶を飲む。
「十分ね」
レオスは聞く。
「何が」
アルシェラは答えた。
「皆が考える時間」
レオスは小さく笑う。
「貴族は」
「考えすぎますから」
アルシェラは言う。
「それが社交界よ」
そして窓を見る。
王宮の塔。
そのどこかにノエリアと王太子がいる。
アルシェラは静かに思う。
舞踏会。
そこが本当の舞台。
全ての貴族が集まる。
全ての視線が向く。
そして――
誰が正しいのか。
それが決まる。
王都の空は、ゆっくりと夕暮れに染まり始めていた。
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