婚約破棄ですか?結構ですわ。ですが違約金は国家予算になります

しおしお

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第31話 舞踏会の夜

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第31話 舞踏会の夜

春の王宮舞踏会。

それは王都最大の社交の場だった。

王宮の大広間には、無数のシャンデリアが輝いている。
黄金の光。
鏡張りの壁。
磨かれた大理石の床。

貴族たちが次々と到着していた。

公爵家。
侯爵家。
伯爵家。

王国の上位貴族がすべて集まる夜。

その中心にあるのは――

王太子エドガルド・ヴァルドール。

そしてその隣には、ノエリア・ヴァルディア。

ノエリアは淡い白のドレスを着ていた。

純潔を象徴する色。

まるで王太子妃のような装い。

周囲の貴族たちが囁く。

「お似合いだ」

「王太子妃になるのだろう」

「もう決まったようなものだ」

ノエリアは微笑む。

完璧な笑顔。

だが心の奥は静かではない。

(まだ来ていない)

アルシェラ。

彼女はまだ現れていない。

王太子が小さく言う。

「心配するな」

ノエリアは顔を向ける。

「殿下?」

エドガルドはワインを持つ。

「来ても同じだ」

ノエリアは頷く。

「……はい」

その時。

入口でざわめきが起きた。

ざわめきは波のように広がる。

「……来た」

誰かが言った。

「アルシェラ様だ」

視線が一斉に入口へ向く。

そして現れた。

アルシェラ・ヴァルディア。

深い青のドレス。

夜空のような色。

胸元にはヴァルディア家の宝石。

そして――

その隣に立つ男。

ヴァレリオン・アルグレイス公爵。

北方最強の貴族。

大広間の空気が変わる。

ざわめきがさらに広がる。

「アルグレイス公爵」

「本当に来たのか」

「なぜ王宮に」

ヴァレリオンは無表情のまま歩く。

アルシェラも静かに進む。

堂々と。

逃げる者の歩き方ではない。

ノエリアの胸が強く打つ。

(どうして)

公爵がここにいる?

王太子の顔も少し変わった。

「……面白い」

アルシェラは王太子の前で止まる。

そして優雅に礼をした。

「ごきげんよう」

王太子は言う。

「久しぶりだな」

アルシェラは微笑む。

「ええ」

ノエリアは一歩前に出る。

「お姉様」

アルシェラは頷く。

「ノエリア」

短い会話。

だが大広間の全員が見ている。

王太子は言った。

「ちょうどよかった」

アルシェラは首を傾げる。

「何がです?」

王太子は周囲を見た。

そして声を上げる。

「皆、聞いてくれ」

ざわめきが止まる。

大広間が静かになる。

王太子は言った。

「今夜」

「私は一つの決断をする」

貴族たちが息を呑む。

王太子は続けた。

「アルシェラ・ヴァルディアとの婚約」

「これを正式に破棄する」

ざわめきが広がる。

ノエリアの心臓が強く打つ。

王太子はさらに言う。

「そして」

「新たに婚約する」

彼はノエリアの手を取った。

「ノエリア・ヴァルディアと」

貴族たちがざわめく。

誰もが予想していた。

だがそれでも――

公開宣言。

ノエリアは少し震えていた。

王太子はアルシェラを見る。

「異議はあるか」

その声は挑発だった。

大広間の全員がアルシェラを見る。

沈黙。

数秒。

やがてアルシェラは小さく笑った。

「ええ」

王太子の眉が動く。

アルシェラは言う。

「異議があります」

ざわめきがさらに広がる。

王太子は冷たい目で言う。

「何だ」

アルシェラは静かに手を上げた。

後ろのレオスが一歩前に出る。

彼の手には――

書類。

アルシェラはそれを受け取る。

そして大広間に向けて言った。

「殿下」

「婚約破棄は」

「あなた一人ではできません」

王太子は言う。

「何?」

アルシェラは書類を掲げた。

「これは」

「王家とヴァルディア家の正式契約」

ざわめき。

貴族たちが顔を見合わせる。

アルシェラは続ける。

「婚約は」

「両家の合意が必要」

王太子は言う。

「だからどうした」

アルシェラは穏やかに答える。

「ヴァルディア家は」

「まだ同意していません」

大広間が凍る。

王太子の顔が変わる。

アルシェラはさらに言う。

「つまり」

「この婚約は」

「まだ有効です」

貴族たちがざわめく。

ノエリアの顔が青くなる。

王太子は机を叩くように言った。

「くだらない」

アルシェラは静かに言う。

「そうでしょうか」

そして振り返る。

後ろに立つ男。

ヴァレリオン・アルグレイス。

アルシェラは言った。

「証人もいます」

ヴァレリオンは一歩前に出た。

その存在だけで空気が変わる。

彼は低い声で言う。

「契約は有効だ」

その声は重い。

北方公爵の言葉。

貴族たちが息を呑む。

アルシェラは王太子を見る。

そして微笑んだ。

「殿下」

「婚約を終わらせたいなら」

一歩前へ出る。

「正式に」

「終わらせてください」

大広間は完全に静まり返っていた。

そしてこの瞬間――

舞踏会はただの社交の場ではなくなった。

王国最大の公開裁判。
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