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連載
125 クリムレット家の蔵書
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リトルハンドの行おうとした取引が失敗し、マジック・クラフト・マーケットが無事に終わってから一か月ほどが経った。
「君への報酬は、こんなものでいいのかい?」
クリムレット卿に言われて、俺は頷いた。俺とクリムレット卿は今、領主居館内の書庫へやってきている。
「いえ、これがいいんです。リトルハンドの件で、俺にはまだまだ日々の研鑽が足りていないと痛感したので」
クリムレット卿から報酬の件で呼ばれ、俺は金銭を得る代わりに頼みを一つお願いしたのだった。
それが、クリムレット卿の蔵書を閲覧させてほしいというものだった。
出回っていない魔法書は貴重品である。
クリムレット卿の蔵書とくれば、俺が拝読する機会など一生ないと言っても過言ではない。
こんな融通を聞いてくれるというのは、お金よりもずっと価値があるだろう。
公開されていないクリムレット家の蔵書。
その中の魔法薬関連書籍を読み漁ることができれば、俺のこれからの助けになるはずだ。勉強はもっともコスパのいい自己投資だと常々思う。少なくとも、不測の事態になっても対応がぎりぎりにならないようにしたい。
この時のために、俺はあらかじめ『ディープインサイト』を飲んでいる。本棚ごと蔵書の書名やジャンルを分析して、有効そうな本を効率的にピックアップしていこうという魂胆である。ちゃんと許可も取った。
「では、失礼して……」
俺は本棚に触れて、所蔵されている書籍を把握。その中から魔法薬や薬草に関連した本をいくつか探し出した。
「便利だね、そのポーション」
「使いどころは限られてきますが『ローレライ』よりは材料が集めやすいので、取り回しやすいんですよね」
「君が頑張ってくれているのは知っている。本は、すべてとは言えないが、貸し出しも許可しよう。遠慮なく申し出てくれ」
「ありがとうございます……!」
一か月経っているが、辺境伯領は平和である。
ウィンターは、アララドさんと交戦の後に逃げたらしい。そもそも彼は証拠隠滅して撤収するために来たようだ。俺とスキアさんが現場に着いた頃には、もう戦闘は終わっていた。目を離した隙に、リトルハンドの死体もなくなっていた。
スキアさんは、なんというか、なんとなく人間じゃないと思っていたが、どういう種族なのだろうか。
聞いていいものなのか迷って、結局聞けずにいる。
「クリムレット卿、ウィンターが言っていたことですが」
あの時ウィンターは《滅びの魔法》という種族丸ごと滅ぼせる魔法を辺境伯領が隠れて所有していると言っていた。
クリムレット卿にも報告はいっているはずだ。どうにも気になる単語だった。
「ああ、滅びの魔法とかいうやつかい。あるかどうか疑っているわけだね」
「疑っているわけじゃないんですが、ちょっと気になっていて」
「あるんじゃないかな」
「へっ!?」
クリムレット卿の口からあっさり肯定の言葉が漏れて、俺は素っ頓狂な声を上げる。あるの!?
クリムレット卿は――微笑していた。
「君への報酬は、こんなものでいいのかい?」
クリムレット卿に言われて、俺は頷いた。俺とクリムレット卿は今、領主居館内の書庫へやってきている。
「いえ、これがいいんです。リトルハンドの件で、俺にはまだまだ日々の研鑽が足りていないと痛感したので」
クリムレット卿から報酬の件で呼ばれ、俺は金銭を得る代わりに頼みを一つお願いしたのだった。
それが、クリムレット卿の蔵書を閲覧させてほしいというものだった。
出回っていない魔法書は貴重品である。
クリムレット卿の蔵書とくれば、俺が拝読する機会など一生ないと言っても過言ではない。
こんな融通を聞いてくれるというのは、お金よりもずっと価値があるだろう。
公開されていないクリムレット家の蔵書。
その中の魔法薬関連書籍を読み漁ることができれば、俺のこれからの助けになるはずだ。勉強はもっともコスパのいい自己投資だと常々思う。少なくとも、不測の事態になっても対応がぎりぎりにならないようにしたい。
この時のために、俺はあらかじめ『ディープインサイト』を飲んでいる。本棚ごと蔵書の書名やジャンルを分析して、有効そうな本を効率的にピックアップしていこうという魂胆である。ちゃんと許可も取った。
「では、失礼して……」
俺は本棚に触れて、所蔵されている書籍を把握。その中から魔法薬や薬草に関連した本をいくつか探し出した。
「便利だね、そのポーション」
「使いどころは限られてきますが『ローレライ』よりは材料が集めやすいので、取り回しやすいんですよね」
「君が頑張ってくれているのは知っている。本は、すべてとは言えないが、貸し出しも許可しよう。遠慮なく申し出てくれ」
「ありがとうございます……!」
一か月経っているが、辺境伯領は平和である。
ウィンターは、アララドさんと交戦の後に逃げたらしい。そもそも彼は証拠隠滅して撤収するために来たようだ。俺とスキアさんが現場に着いた頃には、もう戦闘は終わっていた。目を離した隙に、リトルハンドの死体もなくなっていた。
スキアさんは、なんというか、なんとなく人間じゃないと思っていたが、どういう種族なのだろうか。
聞いていいものなのか迷って、結局聞けずにいる。
「クリムレット卿、ウィンターが言っていたことですが」
あの時ウィンターは《滅びの魔法》という種族丸ごと滅ぼせる魔法を辺境伯領が隠れて所有していると言っていた。
クリムレット卿にも報告はいっているはずだ。どうにも気になる単語だった。
「ああ、滅びの魔法とかいうやつかい。あるかどうか疑っているわけだね」
「疑っているわけじゃないんですが、ちょっと気になっていて」
「あるんじゃないかな」
「へっ!?」
クリムレット卿の口からあっさり肯定の言葉が漏れて、俺は素っ頓狂な声を上げる。あるの!?
クリムレット卿は――微笑していた。
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