役立たずと捨て石にされたコミュ障皇女は、死地に送られ愛される

なかの豹吏

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 フェリクス様がドミトリノ王国に来て数日、何故か帰ろうとせず、宰相ガイタ様のお屋敷でお世話になっているらしい。

 そして、毎日私に会いに来る……。

「いやぁヴァレリア様、私も腕に覚えはある方だと思っていましたが、ガイタ様にはまったく敵いませんでした」

「そう……ですか」

 そして来る度、

「ああ、ガイタはドミトリノでも屈指の豪傑だからね、というか宰相で豪傑って他の国に居るの? まあ落ち込むことは無い、アレに勝てるのは父上ぐらいのものさ」

「ジョルディ陛下はそれ程に……。 では、ご子息のマリウス様も相当な腕前なのでしょうなぁ」

「ああ、俺は全然――」

「是非とも、一度お手合わせ願いたい」

 マリウス様を挑発し、何かと競い合おうとする。

 それにしても、ジョルディ陛下とはまだ私もお会いしてない。 何年か前に王妃様がお亡くなりになって、喪中の旅に出ているらしいけれど。

「ヴァレリア様も夫になるお方がどれほど頼れる男か見てみたいでしょう?」

「えっ。 いえ、私は……」

「おお、それは良いですな! 皇子、男を上げる好機ですぞ!」

「いや、だからさ……」

 力比べの好きなガイタ様を上手く巻き込んで、なし崩しに見たくない仕合が始まることになってしまった。

 結果は――、



「ぐぅ……」

 予想通り、何度やってもフェリクス様の圧勝。
 フェリクス様の方が二つ年上だし、身体も大きいのだから……。

「ま……だまだ……」

「マリウス様っ!」

 もう私は見ていられなくなって、よろけるマリウス様に駆けて行った。

「うぅ」

 傍に行く前に崩れ落ちてしまい、私は慌てて抱き上げ、膝にマリウス様のお顔を乗せる。

「――なっ!? ヴァレリア様!?」

 白い肌に赤紫のアザが……腕や、お顔にまで。

 可哀想……。 あの時、私がはっきりそんなもの見たくないと、そう言えば良かった。

「ヴァレリア……」

「は、はい」

 打ちのめされ、弱々しい声色で、青い瞳を半分閉じたマリウス様が私の名を呼ぶ。 私は何だか、まるで最後を看取るみたいな気分に――、

「ごめん、顔だけで」

「………」

 ―――なりませんでした。

「俺って奴は本当に顔だけだな。 ああ、でもこの汗の滲む首筋あたりが色気ない?」

 ……本当に、心配してるのに。
 そうやってふざける人には、

「笑って、あげませんよ?」

「それは困るな、この絶景を見られないなら生きる意味が無い」

「………もう」

 胸が高鳴っているのに、笑みがこぼれる。そういうこともあるみたい、です。 

 早く手当をしないといけないのに、もう少し、このままでいたいような――、

「いっ、いい加減に……ッ!」

「あ」

「――おわぁ!?」

 真っ赤な顔をしたフェリクス様が、私の膝からマリウス様を引き剥がす。

「皇子は私が室内へお連れしましょう! あとヴァレリア様!」

「はっ、はい」

「婚儀前に軽率な行動はお控えくださいッ!」

「す、すみません……」

 まるで仕留めた獲物のようにマリウス様を肩に背負って、ドシドシと力強い足取りで連れて行く。
 テオリカンに居た頃、フェリクス様が怒っているのなんて見たことがないのに、ドミトリノに来てからは別人のよう。

「ふむ、これは新たな友情が生まれましたなぁ!」

「……そう、でしょうか……」

 ガイタ様は感心した様子だったけれど、私にはそう見えなかった。

 そして、マリウス様の治療を終えて一段落した時――、


「まったく、これでは安心してヴァレリア様をお任せできませんな」

 なんて、フェリクス様があんまり失礼なことを言うものだからつい、

「あの、もう雪も降り始める時期ですし……テオリカンにお帰りにならないのですか?」

 元々苦手で、来て欲しくなかったのもあるし、こうしてマリウス様に怪我までさせたのが許せなくて……言ってしまった。

「ヴァ……レリア様が、この私に……」

 フェリクス様は愕然とした表情で、しばらく石像のように固まってしまった。

「ああ、ヴァレリアも心配してるのさ、何しろテオリカンから人が来るなんてことは無いからね」

 あまりに不憫と思ったのか、マリウス様が気遣った言葉をかける。

 けれど――、

「お気遣いは無用です……ッ」

 すごい剣幕でそれを跳ね除け、マリウス様を睨みつけて、

「皇子、もうはっきり申しますが、私はヴァレリア様の命を救うために来たのです。 故に、テオリカンには戻れません」

 どうしてこの地に来たのか、今日まで聞けなかった理由を語り始めた。

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