11 / 26
11,
しおりを挟むドミトリノ王国に来た目的、それは私の命を救う為だと切り出したフェリクス様は、マリウス様に誰にも聞かれない場所で、三人だけで話がしたいと願い出た。
「ここは何の変哲もない武器庫の一つなんだけど、――よっ、と」
話しながら、マリウス様は床に隠された地下への階段を出現させる。
「さっ、行こうか」
暗い階段を降りて行くと扉があり、中に入ると簡素な家具が僅かに置かれた部屋があった。
私とマリウス様が並んで座り、テーブル越しの対面にフェリクス様が座る。
「ここなら誰かに聞かれることはない、緊急時の脱出通路で鍵は俺と父上しか持ってないから」
「なるほど、つまりこの奥に外へと通じる通路がある訳ですか」
「ああ、そういうこと」
「……この話をするに相応しい場所ですな。 ――それでは」
意味深な言葉を小さく零し、フェリクス様は本題に入る。
「現状、テオリカンでは他国への牽制、更にお恥ずかしながら内紛もあり兵力を裂けない状況にあります」
内紛……。 そんな話は聞いたことがない。
「故に、ドミトリノ王国への援軍を出す余裕が――」
「まあまあまあ! フェリクス殿、そんなに遠回りすることはない」
「……と、言いますと?」
「ああ、つまりね、気を遣うことないから早く話の中核を聞かせてくれってことだ」
マリウス様が話を急かし、フェリクス様は目を閉じて一つ息を吐いてから、
「わかりました。 では率直に申しますと、―――この国が滅ぶ時、私はヴァレリア様を連れて逃がす、というお話です」
次期国王の前で、ドミトリノ王国が滅亡することを前提にした話を突きつけた。
私は、今ひと時の幸せに甘えて、無理矢理頭の片隅に追いやっていた問題を引き出されたようで、一瞬呼吸が止まってしまった。
「ああ、なるほどね。 だからこの場所が話すにはおあつらえ向きだって訳か」
「状況を見て、もっと余裕を持って動くつもりではありますが」
「逃げる話を脱出経路で話すなんて、何とも奇遇なものだね」
自分の国が滅ぶなんて、そんな失礼な話をされたのにマリウス様は怒らない。 それはこの国の風習ではあるけれど、それにしても……。
「その為に私は来ました、ヴァレリア様」
「………」
そう言われても、私は返事に困る。
何故なら、私がここでこの国と共に散り、それを大義名分にこの土地を手に入れるのがお父様の考えだから。
「その時が来たら、私と一緒に来てくれますね?」
それをフェリクス様はわかってない。
そんなことをしたら、フェリクス様がお父様にどうされるか。
「ヴァレリア様?」
「………」
返事を求められても困る。
私は生贄としてここに来たから、逃げ道なんて初めから無い。 そう言えば、フェリクス様は諦めて帰ってくれるかも知れない。
でもそれを言ってしまうと、マリウス様の希望が消えてしまう。 私がここに来て、テオリカンからの援軍を期待していたから。
そんなの来ないのだから、言ってあげた方がいいの? それとも、少しでも希望を持っていた方がマリウス様にとって――、
「ヴァレリア」
「っ……」
「ここにアリーヤが居なくて良かった、そんな顔をさせたら何を言われるか」
マリウス様は私の顔を覗き込んで、笑わせようと悪戯な顔をする。
でも、どうしても……笑ってあげられなくて。
「……ごめんな……さい……」
―――泣きながら、謝ってしまった。
アリーヤ様に言われたのに。
どんなに辛い時でも、笑ってあげるのがドミトリノ王国の女性だって。
「どう……言ったらいいか……」
私は、全然ダメだ。 この国の女性に、強く優しい女性になれてない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
204
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる