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 ドミトリノ王国に来た目的、それは私の命を救う為だと切り出したフェリクス様は、マリウス様に誰にも聞かれない場所で、三人だけで話がしたいと願い出た。

「ここは何の変哲もない武器庫の一つなんだけど、――よっ、と」

 話しながら、マリウス様は床に隠された地下への階段を出現させる。

「さっ、行こうか」

 暗い階段を降りて行くと扉があり、中に入ると簡素な家具が僅かに置かれた部屋があった。 
 私とマリウス様が並んで座り、テーブル越しの対面にフェリクス様が座る。

「ここなら誰かに聞かれることはない、緊急時の脱出通路で鍵は俺と父上しか持ってないから」

「なるほど、つまりこの奥に外へと通じる通路がある訳ですか」

「ああ、そういうこと」

「……この話をするに相応しい場所ですな。 ――それでは」

 意味深な言葉を小さく零し、フェリクス様は本題に入る。

「現状、テオリカンでは他国への牽制、更にお恥ずかしながら内紛もあり兵力を裂けない状況にあります」

 内紛……。 そんな話は聞いたことがない。

「故に、ドミトリノ王国への援軍を出す余裕が――」

「まあまあまあ! フェリクス殿、そんなに遠回りすることはない」

「……と、言いますと?」

「ああ、つまりね、気を遣うことないから早く話の中核を聞かせてくれってことだ」

 マリウス様が話を急かし、フェリクス様は目を閉じて一つ息を吐いてから、

「わかりました。 では率直に申しますと、―――この国が滅ぶ時、私はヴァレリア様を連れて逃がす、というお話です」

 次期国王の前で、ドミトリノ王国が滅亡することを前提にした話を突きつけた。

 私は、今ひと時の幸せに甘えて、無理矢理頭の片隅に追いやっていた問題を引き出されたようで、一瞬呼吸が止まってしまった。

「ああ、なるほどね。 だからこの場所が話すにはおあつらえ向きだって訳か」

「状況を見て、もっと余裕を持って動くつもりではありますが」

「逃げる話を脱出経路で話すなんて、何とも奇遇なものだね」

 自分の国が滅ぶなんて、そんな失礼な話をされたのにマリウス様は怒らない。 それはこの国の風習ではあるけれど、それにしても……。

「その為に私は来ました、ヴァレリア様」

「………」

 そう言われても、私は返事に困る。
 何故なら、私がここでこの国と共に散り、それを大義名分にこの土地を手に入れるのがお父様の考えだから。

「その時が来たら、私と一緒に来てくれますね?」

 それをフェリクス様はわかってない。
 そんなことをしたら、フェリクス様がお父様にどうされるか。

「ヴァレリア様?」

「………」

 返事を求められても困る。
 私は生贄としてここに来たから、逃げ道なんて初めから無い。 そう言えば、フェリクス様は諦めて帰ってくれるかも知れない。

 でもそれを言ってしまうと、マリウス様の希望が消えてしまう。 私がここに来て、テオリカンからの援軍を期待していたから。

 そんなの来ないのだから、言ってあげた方がいいの? それとも、少しでも希望を持っていた方がマリウス様にとって――、

「ヴァレリア」

「っ……」

「ここにアリーヤが居なくて良かった、そんな顔をさせたら何を言われるか」

 マリウス様は私の顔を覗き込んで、笑わせようと悪戯な顔をする。 

 でも、どうしても……笑ってあげられなくて。

「……ごめんな……さい……」

 ―――泣きながら、謝ってしまった。

 アリーヤ様に言われたのに。
 どんなに辛い時でも、笑ってあげるのがドミトリノ王国の女性だって。

「どう……言ったらいいか……」

 私は、全然ダメだ。 この国の女性に、強く優しい女性になれてない。

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