役立たずと捨て石にされたコミュ障皇女は、死地に送られ愛される

なかの豹吏

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「奴らが矢を放てば逆風が吹き我らに届かず、我らが矢を放てば追い風が吹き敵に突き刺さる!」

「は、はぁ」

「斬り合っても奴らは沼地で戦っているように動きが鈍く、我らは鎧が麻のように軽く感じた!」

「そう……ですか」

 か、―――囲まれてしまった……。

「こらこらお前ら、気持ちはわかるが今日はヴァレリアの誕生祝いだ。 戦の話ばかりじゃつまらんだろう?」

 マリウス……様?

「ど、どうなさいました? 顔色が……」

 げっそりとやつれている。 やはり戦の疲れがあるのだろうか。

「ああ、これは昨日アリーヤに……ちょっとね……」

 書類仕事を残して押し付けたから、ですね。

「ヴァレリア様っ!」

「――はっ……は、い?」

 力強い声で呼ばれ向きを変えると、私とさほど歳の変わらなそうな男の子が、目を輝かせて私を見つめていた。

「私は初陣で緊張していて、思うように身体が動かなかったのです! 気づけば敵兵が目の前で剣を振りかぶり、自分はやられる、もう駄目だと思ったその時……」

「――っ」

 興奮した様子の男の子がぐいっと顔を近づけてきて、私は思わず後ずさってしまう。

「聞こえたんです! ヴァレリア様の声が!」

「わ、私の?」

「はい! あの出陣前頭に響いた声、『誰も死なないで』、というあの声が! そうしたら自然と活路が見えてきて……!」

 ……そんなこと、本当にあるんだろうか。
 でも、それで助かったなら良かったけれど。

「ヴァレリア様のおかげです! こうして生きて帰ってこれたのも!」

「そ、そんな、私は何も……」

「あなたは勝利の女神、この国の救世――」

「はいはいそこまでっ!」

 私と男の子の間を割って入ってきたマリウス様は、引きつった笑顔で囲む人達に向き合う。

「キミ達ね、まずはおめでとうと祝うのが先なんじゃないかな? 自分の話ばかりしないでさ、そうだろ? ん? 違うかね?」

「まあ、それもそうだな……」
「いや、皇子は嫉妬してるんじゃないか?」
「なんと不細工な!」

「――ちっ、違うぞ! 俺は純粋にヴァレリアの誕生日を祝おうと……」

 賑やかにしていると、私の隣に華やかなドレスを着たアリーヤ様が立ち並ぶ。

「まったく騒がしいこと」

「………」

 今日はいつにも増して綺麗。 女の私でも見とれてため息が出てしまう。

「すごい人気、まるで兵士達全員の恋人のようですね」

「そっ、そんなこと……」

「いや本当に、驚きましたな」

「――!?」

 フェリクス様……いらしていたのですね……。

「奇跡の勝利! それも皆口を揃えてヴァレリア様の激励のおかげだと言う! テオリカンの祝福だと!」

 真っ赤な顔、目もトロンとしていて……。

「大分飲まれているようですね、フェリクス様は」

「アリーヤ様、私は素直に感動しているのですよ? ヴァレリア様は皇子を想い、皇子はそれに見事応えて見せた。 ……私の出る幕は無しです」

 大袈裟な身振り手振りで話すフェリクス様は、いっそ晴れ晴れとした表情をして、

「ここに来てからの私はあまりに無様でした。 これ以上ヴァレリア様に嫌われたくありません。 お二人を祝福し、少ししたら私はテオリカンに戻ります」

 これまでを自省し、国に帰ると言う。

「鍵も皇子に返しました。 それではヴァレリア様、お誕生日おめでとうございます。 そして、お幸せに」

 そう言って背を向け、少しふらつきながらフェリクス様は宴から姿を消した。

 宴は続き、何人かが酔い潰れて寝だした頃―――、

「ヴァレリア、疲れたろうし少し外の空気を吸いに行こう」

 マリウス様に誘われ、夜の庭園を二人で歩く。

 寒期が去ったばかりの夜風はまだ冷たく、察したマリウス様が私に上着を羽織らせる。

「出発前に色々言おうと思ったんだけど、そういうのってなんか言い切ったら戦死しそうだからやめといたんだ、ははっ」

 おどけた口調で話す私の王子様は、相変わらず喋らなければ理想の王子様。

「でも、こんな形で戻ってこれるとは思わなかったよ。 君は魔法使い? それとも聖女様?」

 私にもわからないことを聞いてくるマリウス様に、

「私は……何だと思いますか?」

 聞き返してみると、「う~~ん」と唸り、腕組みをして考え込む。

 片目を瞑り難しい顔をして、「わからないけど、ただ……」おしゃべりが言葉に詰まり、答えが出たのか、珍しく真剣な顔をして私に言った。

「俺は、君の願いを言わせずに叶えたい」

「………」

「それが理想だけど何しろほら、俺って顔だけだから」

「………」

「そのくせ暴君で、道連れにしてでも君を失いたくない」

 だから、なに? ちゃんと言って。
 私の願いを、言わせずに叶えてくれるのでしょう?

「そのくらい、その……」

 私の唇が震えているのは、言いたいことがあるからだとわかっているでしょう。 言ってしまいますよ?

「あーー…………君が好きだ」

 あまり胸に響く言い方ではなかったけれど、私は『よくできました』、という顔をして、この国の男性への一番のご褒美、『笑顔』をマリウス様に差し上げました。

「……よし、そろそろ戻ろうか」

「はい」

 色んなことが上手くいき出して、滅亡までの残された時間を幸せにではなく、未来を見れるようになった。 これからもマリウス様と、この国の人達と一緒に過ごす未来を。

 この時、私だけじゃなく皆が浮かれていた。

 フェリクス様が、テオリカンに居るお父様に手紙を出していたなんて知らずに。

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