役立たずと捨て石にされたコミュ障皇女は、死地に送られ愛される

なかの豹吏

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 ……もどかしい。

 連れ攫われてから、もうどのくらい経ったのだろうか。 誰とも接しない環境に時間の流れが麻痺してくる。
 何の情報も入ってこない軟禁の身、今ドミトリノ王国がどうなっているのか、ジョルディ陛下の安否や知りたいことが多すぎて焦りが募る。

 頼みの綱はお姉様、私に協力することを決めてくれれば……。 

「あんなに苦手だったのに、お姉様が頼みの綱なんて……不思議な気分」

 でも今は、パオラお姉様が誘いに乗ってくれるのを祈るしかない。 


 ―――その翌日、またお父様の留守を狙ってお姉様はやってきた。


「色々調べてみたけど、あなたの言ってることも満更でたらめじゃないみたいね」

 またも衛兵を押し退け入室したお姉様は、腕組みをして目を細め、まだ信用した訳じゃないという姿勢を見せてくる。

「フェリクス様の陣頭指揮で、デオシスにドミトリノ王国から神の加護は消え去った、と噂を流してるようね。 この神の加護というのがあなたの仕業でしょう?」

「どう呼んでいるかは知りませんが、そうだと思います」

「あなたがドミトリノ王国に居る限りデオシスは攻め落とせない、そうフェリクス様がお父様に文書を送ったらしいわ」

 私には諦めたような素振りをして、水面下で悪意の手を伸ばしていたのか。

「お父様は半信半疑だったでしょうけれど、現実にデオシスが敗れたのは聞こえてきているし、その後デオシスに動きが無いのを見て念の為あなたを戻したのよ」

 生贄として放り捨てたくせに……やっと得た大事な人達から私を欲の為に引き裂く、勝手な父親だ。


 ―――やはり、この二人だけは。


「お姉様、私に協力してくれますか?」

「こうしてまた会いに来たんだから、話次第では協力するわ。 まず聞きたいのは、そんな力が使えるなら私に協力を乞うより、その力で協力させればいいわよね。 何故そうしないの?」

「それは……」

 これは、私があの男達に復讐の感情を抱いてから気づいたことだけれど。

「私の力は、意図的に相手に危害を与えようとすると負荷があるのです。 お姉様を転ばせた後長い間、私は以前より言葉を失いました」

「……そう。 じゃあ、あなたはここから出て何をするつもり?」

「私はドミトリノ王国で愛すべき人達を得ました。 私が不遇に扱われたなどと嘘です」

「つまり、あの国を救いたいってことね」

「はい」

 お姉様は少し思案して、「しかし、よく喋るようになったものだわ」と言って、変わった私に苦笑いをする。

「やるだけやって、私の願いを叶える前に力が無くなったりしないわよね」

「はい」

 ―――私は、嘘をついた。 

 恐らく、私がしようとしていることが終わった時、私の声は永遠に失われるだろう。 それでも―――。

「さっきも言ったけど、策はフェリクス様が立案してるみたい。 内容は、もう恐れることはないからドミトリノへ攻めろ、とデオシスを焚き付けてるわけ」

 いったいあの人は、あの国に何か恨みでもあるのだろうか。 私を手に入れる為だとしても、ここまで憎んでいる私を手に入れてどうするのだろう。

「そして今夜、テオリカンもドミトリノ王国へ兵を向ける決起集会が開かれるわ」

「――!? ど、どうしてテオリカンが……」

「鈍い子ね。 引き金はあなたよ」

 わ……たし?

「不遇な扱いをされたあなたを救ったフェリクス様、そのフェリクス様が王命を受け兵を率いドミトリノ王国を討つ、という流れのようね。 言っておくけど、私の望みはフェリクス様なんだから、彼をどうこうしないでよ」

「……はい」

 お姉様、その約束は守れそうにありません。
 ですが、それがお姉様の幸せだと思うのも本心です。




 ◇◆◇◆




「永き同盟国であるドミトリノ王国は、その盟約を重んじ差し出した我が娘ヴァレリアを痛めつけた! そして、そのヴァレリアを救い出した騎士がこの男、フェリクス・ゴレツカである!」

「私はこの目で見てきた! 現在のドミトリノ王国は同盟を続けるべき相手ではない!」

 父よ、そしてフェリクス。 今のうちに好きに吠えていればいい。 もうすぐ、あなた達の望みを私が、


 ―――全部、消してあげる。

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