役立たずと捨て石にされたコミュ障皇女は、死地に送られ愛される

なかの豹吏

文字の大きさ
23 / 26

23,

しおりを挟む
 

 国中の貴族が集められた決起集会で、欲まみれの王と、人攫いの嘘つき令息が熱弁を振るう。
 お姉様の手引きで軟禁から脱出した私は、物陰に隠れて復讐の時を待っていた。

「陛下の想いを踏みにじり、畜生にも劣る非礼で返したドミトリノ王国を私は許さない! 必ずやご期待に応え、穢れたドミトリノ王家の血でヴァレリア様の屈辱を洗い流して見せようッ!」

 猛々しい歓声と熱気の中、度を越したフェリクスの恥知らずに血の気が引く。

「よくぞ申した、若きテオリカンの騎士よ。 見事仇敵を討ち滅ぼした暁には望む褒美をとらせよう」

 父がそう言うと、フェリクスは待っていたとばかりに醜悪な笑みを浮かべる。

「私の望みは、今傷心に心痛め部屋から出られずにいる我らが姫、ヴァレリア様を全力の誠意で癒して差し上げることです」

 ―――人攫いが、どこまでも白々しい……!

「フェリクス、お主はなんという……。 あいわかった! ならば褒美には我が娘、ヴァレリアをそなたにくれてやろう!」

 ……吐き気がする、もう限界。

 今すぐ飛び出して、あなた達をその汚らしい我欲と共にこの世から消し去ってやる。 この、私の声と引き換え――、


「ああ、じゃあ逆にフェリクス殿を倒せばヴァレリアは俺のもの、ってことだよね?」


 に……? 

 ……ぁ……れ?

 踏み出そうとした足が止まり、耳に届いた声を何度も、何度も高速で精査する。 すると、その声はやっぱりその人で、でもここに居るはずがない、それもこんな場所に。

「マ、マリウス……な、何故……」

 亡霊でも見るようにフェリクスが呟く。 

「何故こんなところに居るかって? それはこの持って生まれた美貌を使って口八丁手八丁――」

 私は走り出していた。 もう懐かしくさえ感じるあのお喋りに目掛けて。

「神出鬼没の美男、ドミトリノ王国からただいま参――おわぁ!?」

 初恋の王子様。 その胸に飛び込み顔を埋める。 これが戦争の為の集会だとか、誰の目がなんて気にもならなかった。 そんなことよりも、会えたのが嬉しくて。

「きっ、―――貴様こんなところで何をしている! ヴァレリア様から離れろッ!」

 再会に水を差すフェリクスの汚い怒声、あまりに耳障りなそれを、

「黙れ」

「――ッ……!」


 消してやった。


「フェリクス、あれがジョルディの倅とは真か?」

 父が聞くも、

「――! ―――!」

「……どうした。 何故答えぬ」

 フェリクスは私の力で声を失っている。 そして私も、悪意の言葉で口が重くなるのを感じる。 でもまだ、やるべきことは終わってない。

「まさか、これがヴァレリアの力……だと言うのか?」

 フェリクスのおかしな様子に眉を寄せた父は、次第に顔を綻ばせて大笑いし出した。

「――何だこれは! 何でも思いのままだというのか!? この力でドミトリノは無傷で勝利したと? ならば、―――世界はテオリカンの、いやこのワシの思いのままというこよッ!」

 まるで世界を手に入れたようにはしゃぐ父、なんて醜い愚王だろう。 そんな都合の良いことなんて出来ない、それどころか父よ、あなたの運命は……今日終わるの。

 どうせこの状況では、王の首を取るでもしないとマリウス様と逃げられない。
 力を見せつけ、誰にも邪魔させずにこの地を去りドミトリノへ二人で戻る。

「父よ、あなたのような人間はこの世……」

「――ああ、ダメダメ! ダメだよヴァレリア!」


 ………マリウス、様?


 私の決死の声を遮り、マリウス様は悲しそうな瞳で両の手を私の頬に添える。

「せっかく可愛いんだから、そんな顔してほしくない。 いいかいヴァレリア」

 マリウス様は父、フェリクス、そして集まった諸侯達に身を向ける。

「俺は、君が望みを言わなくてもいいほど叶えたいんだ。 だから、何も言わなくていいよ」

 私の力を把握しているみたいに、それをさせないと言う。

 それから私に向き直って、

「ただ、笑ってて」

 君もそうして、と言うように、私の闇を振り払う笑顔が暗闇を照らした。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

【完結】『偽り婚約の終わりの日、王太子は私を手放さなかった』~薄氷の契約から始まる溺愛プロポーズ~

桜葉るか
恋愛
偽装婚約から始まる、薄氷の恋。 貴族令嬢ミレイユは、王太子レオンハルトから突然告げられた。 「俺と“偽装婚約”をしてほしい」 政治のためだけ。 感情のない契約。 ……そう思っていたのに。 冷静な瞳の奥ににじむ優しさ。 嫉妬の一瞬に宿る、野性の熱。 夜、膝枕を求めてきた時の、微かな震え。 偽りで始まった関係は、いつしか—— 二人の心を“本物”へ変えてゆく。 契約期限の夜。 最初に指輪を交わした、あの“月夜の中庭”で。 レオンハルトは膝をつき、彼女の手を包み込む。 「君を手放す未来は、存在しない。  これは契約ではない。これは“永遠”だ」 ミレイユは、涙で頬を濡らしながら頷いた。 偽りの婚約は、その瞬間—— 誰も疑えない、本当の未来へ変わる。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

顔がタイプじゃないからと、結婚を引き延ばされた本当の理由

翠月るるな
恋愛
「顔が……好みじゃないんだ!!」  婚約して早一年が経とうとしている。いい加減、周りからの期待もあって結婚式はいつにするのかと聞いたら、この回答。  セシリアは唖然としてしまう。  トドメのように彼は続けた。 「結婚はもう少し考えさせてくれないかな? ほら、まだ他の選択肢が出てくるかもしれないし」  この上なく失礼なその言葉に彼女はその場から身を翻し、駆け出した。  そのまま婚約解消になるものと覚悟し、新しい相手を探すために舞踏会に行くことに。  しかし、そこでの出会いから思いもよらない方向へ進み────。  顔が気に入らないのに、無為に結婚を引き延ばした本当の理由を知ることになる。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...