役立たずと捨て石にされたコミュ障皇女は、死地に送られ愛される

なかの豹吏

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 まだ剣も抜いていないマリウス様に斬り掛かるフェリクス。 私は咄嗟にマリウス様を逃そうと、

「――!?」

 押そうとして伸ばした手は何にも触れず、勢いあまって前につんのめってしまった。

「ああ、もう始まってるのかな? 決闘」

 マリウス様はフェリクスの動きに気づいていたのか、私より先に動いて振り下ろされる剣の手元を掴んで止めていた。

「………」


 何か違和感がある。 かなりの身長差、体格も大分不利なのに、振り下ろすフェリクスの剣を片手で受け止めている。 あの日見たマリウス様からは考えられ――、

「あんまり見ないでよヴァレリア、――今不細工だからッ!!」

 ちらと横目で私を見たマリウス様の目は、いつも穏やかな笑わかしのそれではなく、ギラついた獣のようで、

「は……」

 私が息を呑み背筋を凍らせた直後、もう一方の腕の拳がフェリクスの鼻面にめり込み、

「……なんと」

 父が驚愕の表情で言葉を零し、床に痙攣し鼻を曲げたフェリクスが転がっていた。

「俺はジョルディ・ドミトリノの息子だからね、弱いわけないんだよ」

 振り返った笑顔のマリウス様はいつも通りで、でも、少し怖かった私はすぐに微笑み返してあげられなかった。

「ああ、ほら、だから嫌だったんだよなぁ」

「あっ、す、すみま……」

「――ヴァレリア貴様! マリウスに力を与えたのだろう!」

「そ、そんなこと……」

 往生際の悪い父が難癖を付けてきて、次の指示を感じ取った貴族達が剣を抜く。

「マリウス王を取り抑えろ! ヴァレリアは渡さん、母国に返した後に決戦を始めるッ!」

「「「はっ!」」」

 どうしよう、マリウス様が捕まってしまう。 せっかく会えたのに、また離れ離れなんて……。
 ―――力を使う? でも、自分を傷つけるようなことは言わないでと言われたし。

「ええ!? 話が違うよね……まあ、じゃあ仕方ない」

 マリウス様が私の手を取る。 二人で逃げ……られるわけがない。 どうするつもりなの?

「ヴァレリア」

「は、はい」

 こんな状況なのに、何故かマリウス様は落ち着いている。 そして、笑いながら私に言った。

「ここは一つ、国中に見送ってもらおう」

「………」

「だって皇女様が嫁ぐんだ、当たり前だろ?」

 ……そうか。 誰も傷つけずに、―――そう、傷つけない願いを言えばいい。 国を出る前、私は誰に見送られることもなく嫁いだ。

 だから、今度は―――。




 ◇◆◇◆




「我が娘、ヴァレリアがドミトリノ王国の王、マリウス・ドミトリノの妃となる運びと相成った!」

 集まった大勢の国民へ向け、頬をひくつかせた父が演説を行う。

「必ずやこの若き王、マリウスがヴァレリアを守り幸せにするだろう!」

「いやぁお義父さん、俺は世界一の幸せ者ですよ」

「ぐっ……ぐぐ……!」

 私の力になんとか抗おうとする父と並ぶマリウス様は、満面の笑みで国民達に手を振る。
 私の隣には、少し機嫌の悪そうな顔のパオラお姉様。

「ちょっと話が違うんじゃないの。 ちゃんとフェリクス様は治るんでしょうね!」

「はい、大丈夫……だと思います」

「はぁ!?」

 口がきけなくなり、鼻の曲がったフェリクスを見たお姉様は最初激怒してたが、事情を説明してどうにか折り合いをつけた。

 私はフェリクスに『早く良くなってくださいね』、と言って、その後、『パオラお姉様を大事にしなければ、その鼻は生涯そのままですよ』、と言い含めた。 
 それで二人が結ばれるわけではないけれど、それなりにお姉様の望みは叶えたと思う。

「さあヴァレリア、帰ろう俺達のドミトリノ王国へ」

「はい」

 あの時私が言った望みは、『国を挙げて私達を祝福し、盛大に送り出してください』、というもの。
 自分で言うのは何とも厚かましいけれど、父に最初で最後の我儘を言ったと思えば……。

 それにしても、

「マリウス様は、私の力をいつ理解されたのですか?」

「――ん? ああ」

 マリウス様は悪戯っぽく笑って、

「俺はね、実は顔だけじゃないんだよ」

「……はい」

 政略結婚、それも生贄として差し出された私は、

「来年ヴァレリアが十五になったら、改めてドミトリノで結婚式だ!」

「はいっ」

 私達は、―――恋愛結婚をしました。

 ドミトリノ王国に帰れば、アリーヤ様やガイタ様、大好きな人達と再会できる。 きっと、ジョルディ陛下お義父様とも。

 ―――あ、そうだ。

「あの、どうやって城に入り込んだのですか?」

「ああ、それがどうやら俺この国ではモテるみたいでさ、令嬢様方からメイドまでみんな協力的だったんだよね」

「……そうですか」

 なるほど。 フェリクスがドミトリノでは女性に不人気だったのと逆で、マリウス様はテオリカンでは人気だということ、ですね。

 ―――私は決めた。

「もう、二度とテオリカンには来ません」

「何で? え、なんか怒ってる?」

「少なくとも、マリウス様と一緒には」

「――何でかなぁ!?」

 とりあえず、戻ったらアリーヤ様と湯泉にでも浸かって、この嫉妬を洗い流そう。


 本当に、私も大分、――お喋りになったものだ。

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感想 1

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みんなの感想(1件)

dragon.9
2023.05.12 dragon.9

フェリクス、、、不細工!中身が!
さっさと帰って毒姉に引き取って貰おう☠️

国は弱小でも
器がデカイ!
頑張れ\(*⌒0⌒)♪王子\(*⌒0⌒)♪

2023.05.12 なかの豹吏

感想ありがとうございます(^ ^)

読んで頂いて嬉しいです!

解除

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