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マルガレータ Side
婚約者とは①
しおりを挟む「魔導研究員としての勉強をしたい、とな。」
確認するようにそう言ったのは、国王陛下。
ここは王の私的な応接間、ここにいるのは国王と王妃、私の父であるエロラ公爵そして私。
「はい、それと同時に側妃の選定をお願いしたく存じます。」
続けた私の言葉に、この場にいる者たちが息を飲む、事前に話をした父エロラ公爵でさえも。
それもそうだろう私とヴァル、いやヴァルッテリ様は政略で定められた婚約者とはいえ愛を育んできた。ヴァルは側妃を娶らないと公言してはばからなかったのだ、エリナ・ハーヤネンに籠絡されるまでは。
「それは、あなたが婚姻拒否権を行使するつもりととってもいいのかしら?」
王妃のその言葉に、ざわりと空気が揺れた。
この国の王太子の婚約者は周辺諸国のそれと少々毛色が異なる。
その最たる例が今王妃が口にした、婚姻拒否権だろう。
王妃の役割は国によって多少異なりはするが、この国の周辺諸国では大差はない。
王の伴侶、時には王に代わり執務を執り行う。そして、王の子を産むこと。
必要とされるのは、王と同等の知識に教養、女性ならではの茶会の作法。国の女性達の指針となるべき立ち振る舞い。
それらを身に付けるのは一朝一夕では足りない。それゆえに王太子の婚約者は物心も付かぬうちに定められ、教育が施される。
各国で教育手段が確立されているため、知識教養などを身に付ける教育で大きな問題を起こすことはない。
問題を起こすのは、各人の性格と相性、そして恋だった。
愛が生まれるかは本人達次第であるから、一概に責められるわけではないが、恋に狂って道理からそれてしまえばそれは問題である。
別に愛を見つけたからと、婚約者を蔑ろにし、時にはその絶大な権力を用いて排除しようとする。
そんな出来事が頻繁にとまで言わずとも、たまにとは言えないくらいの頻度で起こるのは人の業というものだろうか。
ぽっと出の女を正妃につけて何が問題かというと、単純に必要なスキルが足りない。足りない者に任せ、執務が滞り問題になることがほとんどだった。
身につけさせようにも、婚約者が物心つかぬうちから十数年かけて身につけたものを何年で身につけられることだろうか。
結局は婚約者であったものが側妃として娶られもしくは形だけの王妃として娶られ、ただただ王妃の公務をこなすだけの牢獄に囚われることとなることが多かった。
このように、涙を飲み、不遇の立場を受け入れなくてはいけないのが女性側が多いのもまた女性からしたら業腹であるものだ。
かつてはこの国もそうだった。
しかしある時、例に漏れず、王太子が婚約者以外の女と恋に落ち婚約者がその地位を追われることがあった。しかし、王太子の恋人は正妃として迎えられるものの公務をこなせず、婚約者が側妃として娶られた。
結局その王太子は、王になってからは自らの執務すらその側妃に任せ享楽に耽るようになった。
これまでの女達であれば、涙を飲んで一人国のためと身を粉にして働くだけであっただろうが、この側妃は違った。
その王の執務すら代理する立場を利用し、王太子の婚約者の役割を明確に違えさせた。
王太子の婚約者は、将来的に王妃の公の部分を担う存在である。と。
そもそも、婚約者という形で公私共に支える存在として位置付けるから問題なのだ。
いっそのこと公の部分だけを支える存在としてしまえば、恋だの愛だの一方的なことで振り回されることはなくなるのではないか。
私の部分まで支えるかは、将来的に二人で決めればいい。
そんな考えのもと、王太子の婚約者には様々な権利と義務が定められた。
その権利の一つが婚姻拒否権。文字通り、王太子との婚姻を拒否できる権利だ。
もちろん、公務を行うことが義務のため様々な制約が課されはする。
この場合、補佐官という身分が与えられ王妃や王太子妃と同等の権利が与えられ公務をこなすこととなる。
ちなみに、婚姻を拒否できることもあり、王太子以外との婚姻も認められる。
公務をこなす必要がある関係上、様々な制約があり婚姻相手にも相当の覚悟が求められるものではあるが。
その婚姻拒否権だが、行使されたのは一度だけ。
制定されて日が浅いというのもあるが、結局のところ婚姻してしまう方が楽なのだ。
その一度も、このことをよく理解していない女にたぶらかされた王太子に愛想を尽かした婚約者が、やられる前にやれ、こんなヤツと結婚など形だけでも死んでも嫌だと行使したのみ。
ちなみにこの王太子は、婚約者に冤罪をかけようとしたなどの悪行がバレて廃嫡になっている。
こんな一度しか利用されたことのない権利など、認知度はあっても理解度は低い。
国内でこれでは国外は言わずもがな。
対外的なことも含め、諸々わかりにくいので、下手に利用するより事前に協定を結び形だけでも婚姻を結び、王と王妃として動く方が楽なのである。
それに公の部分のみのパートナーと決定づけたのが良かったのか、以前に比べて双方が歩み寄りや割り切りができるようになった。そう言った部分も大きい。
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