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第117話 オズワルドって……

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 リアンとキリの言葉にアリスはすぐさま視線を泳がせた。

「い、いやまぁ料理の幅が広がるなってだけなんだけど……」
「そんだけ? 今でも十分広がったと思うけど?」
「そうです。他に何か画期的な事が起こるのですか?」
「う……いや、と、特には……起こりません」

 地球でも米が主食だったのは一部の国だけだ。だからこれははっきり言ってアリスのワガママなのだ!

「じゃ、却下ね。いつかディノが目覚めたら直接聞きな。大事に育てて大切に食べるから持ってっていいか? って」

 口元をハンカチで拭きながら言ったリアンにオリバーもキリも頷くと、アリスはシュンと項垂れて椅子に座り直した。

「……分かった、そうする。早く全部終わらせてディノ叩き起こさなくちゃ」
「あんたほんとに分かってんすか? 結局ディノ起こす気満々じゃないっすか」
「当然だよ! ディノだってこの星に住む一人なんだから、寝てばっかじゃなくて楽しく生きる権利ある!」
「そこの部分は本人の意思が大事なのでは?」
「それ聞く前に寝ちゃってんじゃん! こうって思い込んで勝手に愛想つかして寝ちゃったんでしょ⁉ 全部見てないくせに見た気になっただけじゃん! オズだって元々ここの人じゃないのに自分の足で歩いて色々見て回ってんのに! そうでしょ⁉ オズ!」

 やろうと思えばこの星など一瞬で吹き飛ばせるオズワルドでさえ自分で確かめているのだ。それをディノときたら!

「まぁ、そうだけど。ここに来た時力貸す方間違えたな。先代妖精王騙してまであのデカイ魔法陣作らせたのに、結局俺たちの力なんてあってないようなものだ」

 そう言ってオズワルドはキリが入れたお茶をすする。ディノの事をこんな風に言うやつなど見たことない。

「ちょ、あんた今なんて言った⁉」
「ん? 力を貸す方間違えたって言った」
「そこじゃなくて! あんた……先代妖精王じゃ……ないの?」

 さらりと今、オズワルドは物凄い事を言わなかったか? 思わずリアンが腰を浮かせると、オズワルドはキョトンとして首を傾げた。

「違う。俺は元妖精王だ。先代妖精王は今はもう隠居してあちこちの星を飛び回ってる。あいつに聞いてないの?」
「あいつって現妖精王っすか?」
「そう。言ったろ? 俺はこの星に引っ張られてきただけだよ。その時にはもう既に妖精王の名は剥奪されて星を管理する事は出来なかったし、来たばっかで星に馴染まなくてあんなバカでかい魔法陣は描けなかった。だから前妖精王を騙してあの魔法陣を作らせたんだよ。あいつらに手を貸してこの星を滅ぼしてやろうと思ったんだ」
「な、なんて事考えてんすか」
「このクソみたいな世界なんて守る価値あるのか? って思ったんだ。俺が引き寄せられたのはメイリングで、最初に出会ったのがあいつらだったら誰でもそう思う」
「あいつらとは誰です?」
「あいつだよ。メイリングの王、アンソニーとカールだ。大方あいつらが特殊な魔法で俺を呼んだんだろ。今の妖精王がお前らの所についたから対抗しようとしたんじゃないのか?」

 お茶のおかわりをしながらそんな事を言うオズワルドにリアンとキリが考え込む。

「待って、という事は僕たちは今まで物凄い勘違いをしてたって事だね。この星の管理者とやらは今も現妖精王一人で、オズワルドはそれに対抗する為だけにここに呼ばれたって事?」
「どうやらそのようです。ですが、あちらはAMINASの力を知らなかった」
「っすね。あのゲームがあったからこそアリスは今の力を持ち、シャルが過去からやってきた……そう考えるとどっかミスってたらすぐにでもこの星は終わってたかもっす……」
「え、こわっ! で、オズは結局どのタイミングであっちから追放されたのさ?」
「あの魔法陣が壊されてすぐかな。だから勇者にあいつらの秘密を暴露してやったんだ」
「なるほど。それで分かった。どうして急に風向きが変わったのかずっと不思議だったんだよね。変態が突然持ってきたアメリアの出生の秘密なんて、あの時は教会がアメリアを売る為だと思ってたけど、カールが生きてるんだとしたらそれはありえないもん」
「そうですね。その時あなたはどこで何をしていたんです?」
「俺? 俺は追放された後、最後の戦争に紛れ込んでお前達を確認してたんだ。いつか絶対仕返ししてやろうと思って」
「あー……なるほどっす。で、それを最近になって実行に移した、と」
「そう。失敗したけど。でもいい。仕返しするより面白い事が沢山あった。かったいな、これ! ほんとに食べ物か?」
「……これで謎は一つ解けましたね。おかしいと思ってたんです、ずっと」
「何が?」
「オズワルドが前妖精王であれば、人間の営みが分からないだなんて事がありえるのか? と思っていました」
「……確かに。だって、それまでずっとこの星管理してんだもんね。知らないわけないよね」
「っすね……」

 笑いながらアリスの殺人クッキーを齧るオズワルドを見てキリが言うと、リアンもオリバーも頷いた。

「これはね、元々赤ちゃん用のお菓子なんだよ」

 殺人クッキーをさっきから四苦八苦しながら齧っているオズワルドにアリスがおかしそうに言う。

「いやこれ無理だろ。リゼ、お茶につけてふやかしてから食べるといい。でないと口の中の水分全部持ってかれるし、歯が折れそう」
「わ、わかった!」

 それまでガジガジとクッキーを齧っていたリーゼロッテはオズワルドの言うようにお茶にクッキーを浸してふやかしている。

「こうやって見てると、あんたが悪気があって僕たちを襲った訳じゃないってよく分かるよ。本気で遊んでるつもりだったんだね。で、いつになったら影返してくれんの?」
「返せない。影はもう自分の意思で動いてる。意思を断ち切った時点で帰るも帰らないも影の自由だ」
「そうなの⁉ じゃあ僕の影ちょっと呼んでくれる?」
「いいよ」
「なにする気なんすか?」
「え? 説得すんの。早く帰っといでって」

 リアンの言葉にオズワルドは指をパチンと鳴らした。すると、目の前にリアンの影が現れる。その影に向かってリアンが言った。

「ライラが寂しがってるよ。そろそろ戻っといで」

 リアンが言うと、影は少しだけ考える素振りをした。そこに追い打ちをかけるようにリアンが言う。

「ライラの影がずっと一人ぼっちなんだよ。君が居ないと」

 それを聞いて影はハッとしたようにリアンの足元に戻るとそこに落ち着いた。リアンが試しに右手を上げると影は左手を上げる。

「戻った! いい子だなぁ、僕の影は!」
「凄いっすね! え、オズワルド、俺たちの影も呼んでもらっていいっすか?」
「いいよ」

 目の前に現れた自分たちの影を見てオリバーもキリも一瞬たじろいだが、すぐに気を取り直してそれぞれに影を説得しだした。

「サシャがおっきくなるまでに帰ってきてほしいんすよ。親子3人、手を繋いで歩きたいっしょ?」

 コクリ。話せない影は親子3人で歩く所を想像したのかすぐさま頷いてオリバーの足元に戻る。

「素直すぎやしない? モブの影」
「慎ましい幸せが嬉しいんすよ、俺達は」
「あっそ。で、キリの方は?」
「別に戻らなくても構いませんよ? ただ、今戻らないのなら俺はもう一生あなたが戻る事を許しません。ミアさんとの夜もあなたはもう二度と参加出来ないんです。それでも構わないのならどこへでも行きなさい。あなたは自由です」

 キリの影はキリの脅しを聞いて焦ったように急いでキリの足元に戻っていく。

「……影脅すとかどうなってんの。しかもイチャイチャさせてやらないとか、どんだけ」
「でもめっちゃ迅速に戻ってったっすよ。問題は……」
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