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第144話 カギを握るジグソーパズル

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『そんでイライラしたリー君がうちに来て荒ぶって八つ当たりしに来るまでがセットなんで、マジでお願いするっす』
『そんな訳だからオスカーさん。結婚しても家は買わないで借家にしておいてね。いつでもライト家に戻れるように』
『あー……分かりました。そうします』

 こんなやりとりがあっただなんて事、オスカーは死んでもカインには言えない。

 心情を打ち明けない割に皆に迷惑をかけまくっている主を上手くコントロールするのも従者の大事な役割である。

 ちなみにフィルマメントもカインと全く一緒で、まずはライラの所へ行き、その後アリスの所へ押しかけて一しきりバセット領で暴れ倒して温泉に入ってスッキリして戻ってくるのである。ライラとアリスは決してフィルマメントが来るのを嫌がりはしないが、マーガレットは常にビクビクしていたようだ。

「そんな訳だからカイン、またよろしく」
「ああ。それじゃあそろそろノア達んとこに戻るか」
「そうだね。きっと待ってるよ」

 オスカーは空になった食器を片付けながら笑った。ルイスも素直だが、カインも十分に素直だなぁ、などと思いながら。
 

 一方その頃ノアとシャルは今までの流れを追うために一連の出来事をノートにまとめていた。ついさっきリアンからダニエルから得た情報が送られてきたのだ。机の上にはノートと動物を象ったパズルのピースが置いてある。

「教会の本当の目的は、やっぱりディノを起こす事、もしくは世界の統一とかだったのかな」
「だとしか思えません。本当はもっと早くにこの島を手中に入れる予定が思わぬ邪魔が入っている事に気づいて途中で作戦を変更したという事でしょう」
「時間稼ぎをしたって事? じゃああの戦争に負けるのもオズワルドを追放するのも作戦通りだったって事かな。教会を何らかの形で一度崩壊させる必要があったって事か」
「でしょうね。その理由が何なのかは分かりませんが、ただ言えるのはカール・ダビッドソンはほぼ確実に生きているということでしょう。もう死んでいると思わせることでこちらを油断させたかったのか、それとも別の目的があったのか」

 シャルの言葉にノアは大きく伸びをした。

「話をまとめるとあちらの作戦は数年で作り上げたものじゃない事が分かる。恐らくもうかなり長い時間をかけて作り上げた作戦なんだろうね。そして僕たちはその分を巻き返さなきゃいけないわけだ」
「そういう事になりますね」
「無理すぎない? それこそスーパーコンピューターでも無いとさ」
「全くです。せめて最終目的が何なのかさえ分かればもう少し作戦の立てようもありますが」

 二人は机に散らばった紙を見つめながら大きなため息を落とす。そこへカインとオスカーが戻ってきた。

「お待たせ。どう? 何か進んだ?」
「な~んにも。ただリー君達が聞いた話の最後の少年っていうのはやっぱりレックスの事なんだろうね」
「だろうな。俺も思った。レックスって何かちょっと人間離れした感じするもんな」

 不思議な少年レックスは、何だか浮世離れしている。

 カインの言葉にノアは頷くと、自分のスマホを見せてきた。

「ノエルからなんだけど、そのレックスは今はアミナスに興味津々なんだってさ。ノエルが直接聞いて驚いたらしいよ」
「……よりにもよってアミナスかよ」
「という事はノアと気が合うんじゃありませんか? 猿が好きな者同士」
「あとアミナスの相手見つかって良かったじゃん。レックスならアミナス制御出来るんじゃないの?」
「二人共めっ! アミナスはどこにもお嫁さんにやらないよ! と言いたい所だけど、それだとノエルが可哀相すぎるか。ノエルには僕みたいな思いしてほしくないしなぁ」

 難しい所だ。そう言って腕を組んだノアを見てカインとシャルは苦笑いを浮かべた。それ以前にレックスがどういう意味合いでアミナスに興味を持っているのか、そちらの方が重要である。

 そこにようやくリアンとオリバーも戻ってきた。

「ただいま~。あ、お茶はいらないよ。ダニエルんとこでしこたま飲んで来たから」
「戻ったっす。何か進んだっすか?」
「な~んにも。二人が聞いてきた昔話、詳しく教えてよ」

 ノアがソファの端っこに寄ると、隣にリアンが座る。その隣はライラ。オリバーは仕方無くカインの隣に座ると机の上のノートと、途中まで組み立てられたパズルを覗き込む。

「あ、こんな感じになるんすね」
「うん。兄さんたちに送ってもらったんだ。あと3つなんだけど、レスター王子が無事にキャスパーの鍵を取り返してきてくれる事を願ってるよ」
「これ丸になるのかな、出来上がり。へ~面白いね」
「多分ね。で、何聞いてきたの?」
「ああ、そうだった。とりあえずレックスの話は送ったけど実は――」

 リアンが最後まで話し終えると、ノアとシャル、そしてカインは腕を組んで考え込む。

「なぁ、これさ、もしかしてアーバンの父親ってさ」

 カインが口を開くと、ノアもシャルも無言で頷く。

「多分、子孫だね。その身投げ男の」
「いや、身投げ男ってあんたね」
「本当の事です。だとしたらアーバン君の父親はキャスパーから箱を取り返そうとしたって事でしょうか?」
「そうなんじゃないかな。なるほど、逆だったって事か。アーバンの父親はこの箱を取り返そうとしてキャスパーの屋敷に庭師として潜り込んだ訳だ」
「で、失敗して掴まったってオチかよ?」
「多分ね。恐らく庭師をメイリングに引き渡してからキャスパーは姿を消した。ていうか、木の養分になった。アーバンの母親はその庭師から箱の話を聞いていたんだと思う。だからこそ身重なのにこんなにも遠く離れたルーデリアのシュタまでわざわざやってきたんだよ」
「それっていつの話なんだろね? だってさ、あの戦争が終わるまではこの島には来れなかった訳じゃん」
「そっすよね。少なくとも結界が解かれてからの話って事になるんすけど、それだとちょっとおかしくないっすか?」

 ノア達から聞いたアーバンは15歳ぐらいだったという。あの戦争が終わって大陸との行き来が誰でも自由に出来るようになったのはここ10年ほどだ。

「あの道を通ったんだよ、アーバンのお母さんは。アーバンの家にはメイリングについての本が山程あった。あの坑道の秘密を調べてたのかもね」
「そっか。庭師があの坑道の秘密を母親に話してたって事か。その道を使って戦争の真っ只中に母親はこちらにやってきたって事だな。だとしたら計算も合うか」
「まぁアーバンの正確な年齢を聞いた訳じゃないけどあの道を使ったのは間違いないんじゃない? 大きなお腹を抱えて来たって言ってたから、そんな身体で船に乗って何日もかけてこっちに来るのは辛いし、何よりも目立ちすぎる」
「ですね。戦争中なら多少人が居なくなっても誰も気にも留めません。その混乱に乗じて屋敷からこっそり箱を持ち出してあの坑道に入ったというのが一番現実的です」
「で、ここでオズが言ってた話だよ。庭師はまだ死んではいない。もちろん母親も。てことは、この二人はまだ殺すわけにはいかない訳だ。他に何か情報を隠しているか、何かに使う為かは分からないけど」

 何せ妖精の羽根をいとも容易く自分たちの目的の為に奪った奴らだ。今度は人間を何かに使うつもりだと言われても何も不思議ではない。

「出来るなら今すぐにでもカールをしょっぴきたい所だけど、アンソニー王と手を組んでそうなのが厄介なんだよな。おまけに既に死んだって事にされてるしな」

 何か起こる前にどんな小さな罪でもいいからでっち上げて囚えられないものだろうか。そんな事を考えているカインとは裏腹に、ノアが何かを思いついたかのようにポンと手を打った。
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