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第284話 悪役令嬢再び
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一連の話を聞いていたミアは手を組んでドロシーを褒め、オリバーに怒りをつのらせた。
「ミアさん……ヒロインってなに?」
「え? あ、いや! う、運がすこぶるいい人達の事です! ほら! アリスさんとか!」
うっかり口走ってしまったミアにドロシーは不思議そうに首を傾げたが、咄嗟の言い訳にドロシーは苦笑いを浮かべて曖昧に頷いた。
「アリスは確かに強運だよね。でも私もヒロインなの?」
「間違いなくヒロインだろう! お前がこのタイミングでここにやってきてその情報を知らせてくれなかったら、いつまでも私たちは動けずにいたのだから。よし! オリバーと離婚する時は必ず手を貸してやる! 大船に乗ったつもりでいてくれ!」
ドンと胸を叩いたティナを見てドロシーはようやく笑う事が出来た。役に立たないからオリバーはドロシーに何も教えてくれなかったのかもしれないが、そんなドロシーでも何か役に立てたかもしれない。そう思うと少しだけ心が軽くなった。
ノアとカインはバセット領の森まで戻ってくると、スマホを取り出してそれぞれに連絡を取った。
「そっち、どうだった?」
「どうもこうもないよ。やっぱ僕たちどっちか地上に戻った方がいいかな?」
「んー……かもなぁ」
地上組はそれぞれに頑張ってくれていたようだが、いかんせん情報をまとめる者が居ない。とっちらかってしまっている情報を結局いつもノアとカインがまとめるのだ。
「何にしてもバラっていうのはやっぱり奴隷の刻印の事だね。チビアリスも同じ症状みたいだよ」
「ああ。それからリリーの祖父母にシャルルとセイさんが確認取ってくれたみたいだ。やっぱあっちに行ったのはユアンとアンソニーみたいだな。でもちょっと気になる事言ってた」
「気になること?」
「エリスさんがさ、アンソニーに歯が立たなかったんだって」
「? アンソニーは強いって事?」
「そう。それもめちゃくちゃ手練だって。十数年でついた技術では絶対に無いってさ」
「それって……」
ノアが言葉を濁すと、カインも無言で頷いた。
「恐らくそうだろ。アンソニーも若返ってる。問題は、どれだけ若返ってるかって話」
腕を組んで言ったカインをじっと見つめたままノアは口を開いた。
「……じゃあ、あの漢文と古文の登場人物は本人か……」
「ノア?」
「あ、ごめん。なんでもない。ところでアンソニー王ってさ、子供居たっけ?」
「いや、居ないはず」
「そうだよね。でも不思議とどこからも子供をせっつくような話は聞かないよね?」
「……言われてみりゃそうだな……王がいつまでも子供を作らないってのは……変だな」
言われて初めてカインはその事に気付いた。いくら普段交流がない国だとは言え、臣下からそういう話は舞い込んでくるものだが、それすら一切無い。
「調べてみたいけど、それどころじゃないんだよねぇ」
「それな」
「とりあえずこの情報は全員に一斉送信しておくよ。ああ、あとドロシーがオリバーと離縁するらしいよ」
なんてこと無い顔をして言ったノアに、それまでメッセージを作っていたカインがポロリとスマホを落とした。
「はぁ!? なんでまた? てか、なんでこのクソ忙しい時にそんな事になってんだよ!?」
「忙しい時だからこそでしょ。ほんと、これだから釣った魚に餌やらない人たちは駄目だね。いや、オリバーの場合は餌やりすぎたのかな?」
「あんまよく意味分かんねーけど、褒めてないよな?」
「褒めてないよ。むしろ呆れてる。ドロシーはヒロイン枠だから色々役立つと思うんだけど、オリバーがそれを活かしきれてないんだよね」
残念だ。ノアはそう言ってメッセージの続きを作って皆に一斉送信した。
そんなノアの隣でカインはまだ意味がわからないとでも言いたげだ。
「まぁカインも明日は我が身だよ。ちゃんと僕が忠告してあげたのに。後でドロシーに離縁届け送っておいてあげよう」
ノアはそう言って忘れないように手帳に書き込もうとすると、カインがそれを慌てて止めた。
「待て待て! それは最後だろ! まずはモブにもちゃんとその事伝えてやんないと!」
「仲直りの手を貸すの? 止めといた方がいいと思うけどなぁ」
「いや、手は貸さない。でもモブにも知る権利はあるだろ」
「ふぅん。まぁ何でもいいけど全部終わってからにしてね? 今こじれるとややこしいから。これは僕たちの秘密って事で」
「ああ、それには俺も賛成だ。それじゃ戻ろうか」
「うん。はぁ~ディノの地下でスマホが使えないのは痛いね」
「だな。でも王の地下では使える訳だから」
「そうだけど。メイリング王の子供の件は王様達に頼んでおこう。何か有益な情報を拾ってきてくれるかもしれないし」
「ああ。ルイスも待ってるだけじゃつまんないだろうしな」
今頃ヤキモキしながら城で待っているであろうルイスを思い浮かべてカインが苦笑いを浮かべる。
その後、全てのメッセージを送り終えた二人は、また湖の底のウォータースライダーを通って地下に潜ったのだった。
ノアから貰ったメッセージを見てルイスはすぐさまラルフとシャルルと話し合い、キャロラインとアーシャとシエラに頼んでレヴェナと会談の場を設けてもらうことになった。
丁度よいタイミングでレヴェナがレヴィウスに視察に来た時に忘れて行った帽子がある。返さなくてはと思いながら、ズルズルと忘れていたのだ。これを返しに行くと言う体でレヴェナから話を聞いてきて欲しいと王妃達に伝えると、キャロラインは率先して名乗りを上げた。
「また戦うのね! 任せてちょうだい!」
ルイスからの要請を聞いてオーグ家から戻ったキャロラインは鼻息を荒くして拳を握りしめた。王妃としては完全にアウトである。
「キャロライン様の雄姿がまた見られるなんて!」
「どうしよう……上手くいくかしら……不安だわ……」
元庶民のアーシャはどうにもレヴェナが苦手だ。階級至上主義のレヴェナにとっては、アーシャなどみじんこぐらいに思われているに違いないのだから。
「アーシャ王妃、大丈夫。私の後ろに居なさいな」
不安そうに震えるアーシャを見てキャロラインはアーシャの肩をそっと撫でながら言うと、その言葉を聞いてアーシャは瞳をうるませて感激したように何度も頷く。
「元悪役令嬢の血が滾るわね!」
腰に手を当てて無意味に窓の外を指さしたキャロラインを見て王妃達は喜んでいるが、王達は不安そうだ。
「ルイス、キャロラインのキャラ変が酷いのですが、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。多分、恐らく大丈夫……だろう」
「ルイス王、王妃はあんなだったか? 聖女とは程遠いほど目がギラついているが」
「キャロの心の中には小さな悪役令嬢が住んでいると以前言っていたからそれかと……」
心配そうなラルフにルイスも言葉を濁しながら説明すると、一連の話を聞いていたセイがポツリと言った。
「水清無魚を地で行く人なのかも」
多少の毒がある方が世の中は生きやすいし、とっつきやすい。世間では聖女と言われていても、たまに見え隠れするこういう所がキャロラインの良いところなのだろうとセイは一人納得して三人に魔石で出来た通信装置を渡した。
「これ、持ってて。アラン様ほどのではないけど、そこそこ使える」
「ありがとう、セイさん。それじゃあ行くわよ!」
「はい!」
「は、はい!」
意気揚々と立ち上がったキャロラインの手をシエラとアーシャが掴んだ。
「ま、待て! まだレヴェナ王妃に連絡が……」
「ルイス、駄目よ。連絡なんてしてから行ったら逃げられるわ! 私たちは視察という名目でメイリングに向かい、ついでに城に寄りましょう。私達が行けばレヴェナは出て来ない訳には行かない。そうでしょう?」
「ミアさん……ヒロインってなに?」
「え? あ、いや! う、運がすこぶるいい人達の事です! ほら! アリスさんとか!」
うっかり口走ってしまったミアにドロシーは不思議そうに首を傾げたが、咄嗟の言い訳にドロシーは苦笑いを浮かべて曖昧に頷いた。
「アリスは確かに強運だよね。でも私もヒロインなの?」
「間違いなくヒロインだろう! お前がこのタイミングでここにやってきてその情報を知らせてくれなかったら、いつまでも私たちは動けずにいたのだから。よし! オリバーと離婚する時は必ず手を貸してやる! 大船に乗ったつもりでいてくれ!」
ドンと胸を叩いたティナを見てドロシーはようやく笑う事が出来た。役に立たないからオリバーはドロシーに何も教えてくれなかったのかもしれないが、そんなドロシーでも何か役に立てたかもしれない。そう思うと少しだけ心が軽くなった。
ノアとカインはバセット領の森まで戻ってくると、スマホを取り出してそれぞれに連絡を取った。
「そっち、どうだった?」
「どうもこうもないよ。やっぱ僕たちどっちか地上に戻った方がいいかな?」
「んー……かもなぁ」
地上組はそれぞれに頑張ってくれていたようだが、いかんせん情報をまとめる者が居ない。とっちらかってしまっている情報を結局いつもノアとカインがまとめるのだ。
「何にしてもバラっていうのはやっぱり奴隷の刻印の事だね。チビアリスも同じ症状みたいだよ」
「ああ。それからリリーの祖父母にシャルルとセイさんが確認取ってくれたみたいだ。やっぱあっちに行ったのはユアンとアンソニーみたいだな。でもちょっと気になる事言ってた」
「気になること?」
「エリスさんがさ、アンソニーに歯が立たなかったんだって」
「? アンソニーは強いって事?」
「そう。それもめちゃくちゃ手練だって。十数年でついた技術では絶対に無いってさ」
「それって……」
ノアが言葉を濁すと、カインも無言で頷いた。
「恐らくそうだろ。アンソニーも若返ってる。問題は、どれだけ若返ってるかって話」
腕を組んで言ったカインをじっと見つめたままノアは口を開いた。
「……じゃあ、あの漢文と古文の登場人物は本人か……」
「ノア?」
「あ、ごめん。なんでもない。ところでアンソニー王ってさ、子供居たっけ?」
「いや、居ないはず」
「そうだよね。でも不思議とどこからも子供をせっつくような話は聞かないよね?」
「……言われてみりゃそうだな……王がいつまでも子供を作らないってのは……変だな」
言われて初めてカインはその事に気付いた。いくら普段交流がない国だとは言え、臣下からそういう話は舞い込んでくるものだが、それすら一切無い。
「調べてみたいけど、それどころじゃないんだよねぇ」
「それな」
「とりあえずこの情報は全員に一斉送信しておくよ。ああ、あとドロシーがオリバーと離縁するらしいよ」
なんてこと無い顔をして言ったノアに、それまでメッセージを作っていたカインがポロリとスマホを落とした。
「はぁ!? なんでまた? てか、なんでこのクソ忙しい時にそんな事になってんだよ!?」
「忙しい時だからこそでしょ。ほんと、これだから釣った魚に餌やらない人たちは駄目だね。いや、オリバーの場合は餌やりすぎたのかな?」
「あんまよく意味分かんねーけど、褒めてないよな?」
「褒めてないよ。むしろ呆れてる。ドロシーはヒロイン枠だから色々役立つと思うんだけど、オリバーがそれを活かしきれてないんだよね」
残念だ。ノアはそう言ってメッセージの続きを作って皆に一斉送信した。
そんなノアの隣でカインはまだ意味がわからないとでも言いたげだ。
「まぁカインも明日は我が身だよ。ちゃんと僕が忠告してあげたのに。後でドロシーに離縁届け送っておいてあげよう」
ノアはそう言って忘れないように手帳に書き込もうとすると、カインがそれを慌てて止めた。
「待て待て! それは最後だろ! まずはモブにもちゃんとその事伝えてやんないと!」
「仲直りの手を貸すの? 止めといた方がいいと思うけどなぁ」
「いや、手は貸さない。でもモブにも知る権利はあるだろ」
「ふぅん。まぁ何でもいいけど全部終わってからにしてね? 今こじれるとややこしいから。これは僕たちの秘密って事で」
「ああ、それには俺も賛成だ。それじゃ戻ろうか」
「うん。はぁ~ディノの地下でスマホが使えないのは痛いね」
「だな。でも王の地下では使える訳だから」
「そうだけど。メイリング王の子供の件は王様達に頼んでおこう。何か有益な情報を拾ってきてくれるかもしれないし」
「ああ。ルイスも待ってるだけじゃつまんないだろうしな」
今頃ヤキモキしながら城で待っているであろうルイスを思い浮かべてカインが苦笑いを浮かべる。
その後、全てのメッセージを送り終えた二人は、また湖の底のウォータースライダーを通って地下に潜ったのだった。
ノアから貰ったメッセージを見てルイスはすぐさまラルフとシャルルと話し合い、キャロラインとアーシャとシエラに頼んでレヴェナと会談の場を設けてもらうことになった。
丁度よいタイミングでレヴェナがレヴィウスに視察に来た時に忘れて行った帽子がある。返さなくてはと思いながら、ズルズルと忘れていたのだ。これを返しに行くと言う体でレヴェナから話を聞いてきて欲しいと王妃達に伝えると、キャロラインは率先して名乗りを上げた。
「また戦うのね! 任せてちょうだい!」
ルイスからの要請を聞いてオーグ家から戻ったキャロラインは鼻息を荒くして拳を握りしめた。王妃としては完全にアウトである。
「キャロライン様の雄姿がまた見られるなんて!」
「どうしよう……上手くいくかしら……不安だわ……」
元庶民のアーシャはどうにもレヴェナが苦手だ。階級至上主義のレヴェナにとっては、アーシャなどみじんこぐらいに思われているに違いないのだから。
「アーシャ王妃、大丈夫。私の後ろに居なさいな」
不安そうに震えるアーシャを見てキャロラインはアーシャの肩をそっと撫でながら言うと、その言葉を聞いてアーシャは瞳をうるませて感激したように何度も頷く。
「元悪役令嬢の血が滾るわね!」
腰に手を当てて無意味に窓の外を指さしたキャロラインを見て王妃達は喜んでいるが、王達は不安そうだ。
「ルイス、キャロラインのキャラ変が酷いのですが、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。多分、恐らく大丈夫……だろう」
「ルイス王、王妃はあんなだったか? 聖女とは程遠いほど目がギラついているが」
「キャロの心の中には小さな悪役令嬢が住んでいると以前言っていたからそれかと……」
心配そうなラルフにルイスも言葉を濁しながら説明すると、一連の話を聞いていたセイがポツリと言った。
「水清無魚を地で行く人なのかも」
多少の毒がある方が世の中は生きやすいし、とっつきやすい。世間では聖女と言われていても、たまに見え隠れするこういう所がキャロラインの良いところなのだろうとセイは一人納得して三人に魔石で出来た通信装置を渡した。
「これ、持ってて。アラン様ほどのではないけど、そこそこ使える」
「ありがとう、セイさん。それじゃあ行くわよ!」
「はい!」
「は、はい!」
意気揚々と立ち上がったキャロラインの手をシエラとアーシャが掴んだ。
「ま、待て! まだレヴェナ王妃に連絡が……」
「ルイス、駄目よ。連絡なんてしてから行ったら逃げられるわ! 私たちは視察という名目でメイリングに向かい、ついでに城に寄りましょう。私達が行けばレヴェナは出て来ない訳には行かない。そうでしょう?」
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