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第285話 負けず嫌いなレヴェナ
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「あ、ああ。しかしもうじき戦争を開始する国に視察などという言い訳が通じるか?」
「通じるわ。こう言えばいいのよ。うちと戦争になればどうせメイリングは負けるわ。その時にどれだけの被害が国民に出るか被害状況の予想をたてに来たの、とでも言えば間違いなくレヴェナ王妃は食いついてくるわ」
何せ負けず嫌いなレヴェナだ。完全に馬鹿にされていると感じたら絶対に表に出てくるに違いない。
それを聞いたラルフは青ざめてキャロラインとルイスを交互に見た。
「お、恐ろしい嫁だな、ルイス王」
「はは、頼もしいだろう?」
ラルフは特に褒めてはいないが、ルイスにとってキャロラインほど頼もしい王妃は居ない。お花畑のルイスにはぴったりの聖女なのだ。
「それじゃあ準備しましょう! ルイス、騎士団に護衛を頼めるかしら?」
「当然だろう! 残っている蒼の騎士団を連れて行くといい」
「ありがとう。それからセイさんも護衛をお願い出来るかしら? 出来るだけ派手に行きたいの」
「もちろん。レヴィウスの騎士団を全員連れてくる。シャルル大公、フォルスの騎士団も貸してほしい」
「分かりました。すぐに手配しましょう」
何だか物凄く大掛かりな作戦になりそうだが、アリス達は敵たちの内側から破壊しようとしている。だったら、地上に残った自分たちは外側を少しでも削りたい。
「オルト兄さんはまだ内通者を尾行中?」
「ああ、そうだが……何故だ?」
「この情報、内通者にバラして引っ掻き回したい。兄さんの所に行ってくる」
ラルフの問にセイは淡々と言ってラルフの返事も待たずに部屋を出て行ってしまう。
「あなたの弟さんも大概だと思うんだ……」
「……すまん」
こうして各国の王妃達が敵情視察をしにメイリングに向かおうとしているという話は、ルーデリアに居る内通者によってすぐさまメイリングに伝わったのだった。
「まだかなまだかな~?」
アリスは椅子に座って投げ出した足をブラブラさせながら、ノアとカインが戻るのを待っていた。
ほんの数分前、アリスはキリとシャルによって椅子に無理やり縛り付けられてしまった。本当はこんな縄など一瞬で千切ることが出来るけれど、ノアに言いつけると言われてしまっては動けないアリスだ。
「はぁ~あ、ちょっとはしゃいだだけなのにな~! アンソニーとカールなんてボカッて殴ったら終わりじゃない? あ~でもヴァニタスが厄介なのか。ていうかスルガさんとお話ししてたヴァニタスは可愛かったな~! どこに目があんのかも分かんなかったけど、うちに連れて帰っちゃ駄目かなぁ!?」
興奮して椅子ごと立ち上がったアリスだったが、すぐにそれは否定されてしまった。
「駄目だよ、アリス。ヴァニタスは連れて帰っちゃ駄目」
「相変わらずおっきい独り言だな~」
「兄さま! カイン様! やっと来た~! これ解いて~」
アリスはようやくやってきた二人に椅子ごと駆け寄ると、くるりと振り返る。そんなアリスを見てカインは苦笑いだ。
「いや、それ縛ってる意味なくね? 普通に動いてんじゃん」
「むしろお尻に椅子がくっついてる方が危ないまであるよね」
椅子もアリスにかかれば立派な武器だ。どこぞのカンフー映画のように椅子を振り回しかねない。
ノアはアリスの手を縛っている紐を切ると、すっかり汚れているアリスのドレスの裾をはたいた。
「で、皆は?」
「えっとね、キリとシャルと騎士たちは春の庭探しで、リー君とモブとアーロは赤ちゃんの部屋探しに行ったよ! 地上はどうだった?」
「チビアリスがリゼちゃんと同じ状態になってたよ。やっぱりバラっていうのは元奴隷達の事みたい」
「……そう」
ノアの言葉にアリスは視線を伏せて拳を握りしめた。
「それから、リリーさんとアーバンが連れて行かれた」
「えっ!?」
「もう本当に猶予は無いよ。こうしてる間にもヴァニタスは成長し続けてるかもしれない」
神妙な顔をしてノアが言うと、珍しくアリスも真顔で頷く。
「ノア、とりあえず皆を集めよう。移動しながら地上の事を話す」
「そうだね。それじゃアリス、ゴーしようか」
「うん!」
アリスは勢いよく頷いて廊下に飛び出して走り出そうとした所でノアに手を掴まれた。
「アリスはすぐ迷子になるから僕と手を繋いで移動しようね?」
「え、別に手は繋がなくてもいいんじゃ……」
「ねっ?」
「……う、うん」
ノアの笑顔の圧が強すぎてとうとうアリスは頷いてしょんぼりと歩き出す。そんな後ろ姿を見て、カインは苦笑いを浮かべた。
「アーロ! モブ! ここに穴があるよ!」
リアンが叫ぶと、同じように壁を隅々まで観察していたアーロとオリバーがやってきた。
「ほんとっすね。こんなちっちゃいのよく見つけたっすね!」
「赤ん坊の部屋の向かい側に子供部屋があると地図上ではなっていたが、本当だったな」
アーロは言いながらユアンから受け取った金のピンを取り出そうとして先程ノアに貸し出した事を思い出した。
「あんた今、ためらいなくピン刺そうとした?」
「ああ」
シレっと答えたアーロにリアンは眉を吊り上げる。
「僕たちだけで行ってもしそこに敵が居たらどうすんの!」
「そっすよ。それに俺たちだけ行ったら後の人たちどうやって入ってくんすか」
「そうだったな。すまん」
二人に責められたアーロは素直に頭を下げて壁を眺める。壁には一面絵が描かれていて、まるで美術館か何かにやってきたようでここが地下であることはうっかり忘れそうになってしまいそうだ。
「絵心のある者が居たんだな」
「ほんとにね。どんだけの時間かけて描いたんだろ」
「いや、あんた達呑気に絵を鑑賞してる場合じゃないんっすよ!? ちょっと俺キリ達呼んでくるっす」
そう言ってオリバーが踵を返して春の庭を調査しているキリ達を呼びに行こうとした道中で、ばったりノア達に会った。
「あれ? オリバー」
「ノア! カイン! 戻ってきたんすね。ん? 何でアリスが居るんすか? あんたキリ達と一緒だったんじゃ?」
「なんかね、椅子に縛り付けられてた。どうせまた余計な事しようとしたんだと思うよ。それよりそっちは? オリバー一人?」
「ああ、いえ。リー君が子供部屋に通じるっぽい穴見つけたんで、皆を呼びに来たんすよ」
「なるほど。赤ちゃんの部屋も無事に見つかったんだ?」
「っす。そこ曲がった所なんで先行っといてください。俺はキリ達呼んでくるっす」
「はいは~い」
適当な返事をしたノアに苦笑いを浮かべながらオリバーはキリ達の元へ向かう。そんな後ろ姿を見ながらノアはポツリと言った。
「可哀想になぁ。全部終わったら離縁かぁ~」
「……可哀想にって言いながら何でお前は笑ってんの?」
「えー? だってあんな良い人なのにさ~、人生ってままならないよねぇ~」
クスクス笑いながらそんな事を言うノアをカインは白い目で見て脇腹をつねる。
「ねぇねぇ兄さま、何の話? 誰が離縁すんの?」
「ん? オリバーとドロシーだよ。何かドロシーがオリバーに離縁を申し込むらしいよ」
「えぇ!? な、なんで!?」
「さあ? 僕は知らないよ。夫婦間の事だしね~」
そんな事を言いつつ何となく予想がついているノアだ。それを聞いてアリスは青ざめた。
「ダメダメ! 絶対に阻止するんだから! ていうか、今そんな事してる場合じゃないよ!?」
「僕もそう思う。だけど本人たちにとっては星が砕けることより大事なんじゃない?」
「だとしても! 絶対に駄目! よし、さっさと終わらせてドロシー阻止しないと! 待っててねドロシー! 殴ってでもモブに頭下げさせるからね! そうと決まればさっさと終わらそ!」
「通じるわ。こう言えばいいのよ。うちと戦争になればどうせメイリングは負けるわ。その時にどれだけの被害が国民に出るか被害状況の予想をたてに来たの、とでも言えば間違いなくレヴェナ王妃は食いついてくるわ」
何せ負けず嫌いなレヴェナだ。完全に馬鹿にされていると感じたら絶対に表に出てくるに違いない。
それを聞いたラルフは青ざめてキャロラインとルイスを交互に見た。
「お、恐ろしい嫁だな、ルイス王」
「はは、頼もしいだろう?」
ラルフは特に褒めてはいないが、ルイスにとってキャロラインほど頼もしい王妃は居ない。お花畑のルイスにはぴったりの聖女なのだ。
「それじゃあ準備しましょう! ルイス、騎士団に護衛を頼めるかしら?」
「当然だろう! 残っている蒼の騎士団を連れて行くといい」
「ありがとう。それからセイさんも護衛をお願い出来るかしら? 出来るだけ派手に行きたいの」
「もちろん。レヴィウスの騎士団を全員連れてくる。シャルル大公、フォルスの騎士団も貸してほしい」
「分かりました。すぐに手配しましょう」
何だか物凄く大掛かりな作戦になりそうだが、アリス達は敵たちの内側から破壊しようとしている。だったら、地上に残った自分たちは外側を少しでも削りたい。
「オルト兄さんはまだ内通者を尾行中?」
「ああ、そうだが……何故だ?」
「この情報、内通者にバラして引っ掻き回したい。兄さんの所に行ってくる」
ラルフの問にセイは淡々と言ってラルフの返事も待たずに部屋を出て行ってしまう。
「あなたの弟さんも大概だと思うんだ……」
「……すまん」
こうして各国の王妃達が敵情視察をしにメイリングに向かおうとしているという話は、ルーデリアに居る内通者によってすぐさまメイリングに伝わったのだった。
「まだかなまだかな~?」
アリスは椅子に座って投げ出した足をブラブラさせながら、ノアとカインが戻るのを待っていた。
ほんの数分前、アリスはキリとシャルによって椅子に無理やり縛り付けられてしまった。本当はこんな縄など一瞬で千切ることが出来るけれど、ノアに言いつけると言われてしまっては動けないアリスだ。
「はぁ~あ、ちょっとはしゃいだだけなのにな~! アンソニーとカールなんてボカッて殴ったら終わりじゃない? あ~でもヴァニタスが厄介なのか。ていうかスルガさんとお話ししてたヴァニタスは可愛かったな~! どこに目があんのかも分かんなかったけど、うちに連れて帰っちゃ駄目かなぁ!?」
興奮して椅子ごと立ち上がったアリスだったが、すぐにそれは否定されてしまった。
「駄目だよ、アリス。ヴァニタスは連れて帰っちゃ駄目」
「相変わらずおっきい独り言だな~」
「兄さま! カイン様! やっと来た~! これ解いて~」
アリスはようやくやってきた二人に椅子ごと駆け寄ると、くるりと振り返る。そんなアリスを見てカインは苦笑いだ。
「いや、それ縛ってる意味なくね? 普通に動いてんじゃん」
「むしろお尻に椅子がくっついてる方が危ないまであるよね」
椅子もアリスにかかれば立派な武器だ。どこぞのカンフー映画のように椅子を振り回しかねない。
ノアはアリスの手を縛っている紐を切ると、すっかり汚れているアリスのドレスの裾をはたいた。
「で、皆は?」
「えっとね、キリとシャルと騎士たちは春の庭探しで、リー君とモブとアーロは赤ちゃんの部屋探しに行ったよ! 地上はどうだった?」
「チビアリスがリゼちゃんと同じ状態になってたよ。やっぱりバラっていうのは元奴隷達の事みたい」
「……そう」
ノアの言葉にアリスは視線を伏せて拳を握りしめた。
「それから、リリーさんとアーバンが連れて行かれた」
「えっ!?」
「もう本当に猶予は無いよ。こうしてる間にもヴァニタスは成長し続けてるかもしれない」
神妙な顔をしてノアが言うと、珍しくアリスも真顔で頷く。
「ノア、とりあえず皆を集めよう。移動しながら地上の事を話す」
「そうだね。それじゃアリス、ゴーしようか」
「うん!」
アリスは勢いよく頷いて廊下に飛び出して走り出そうとした所でノアに手を掴まれた。
「アリスはすぐ迷子になるから僕と手を繋いで移動しようね?」
「え、別に手は繋がなくてもいいんじゃ……」
「ねっ?」
「……う、うん」
ノアの笑顔の圧が強すぎてとうとうアリスは頷いてしょんぼりと歩き出す。そんな後ろ姿を見て、カインは苦笑いを浮かべた。
「アーロ! モブ! ここに穴があるよ!」
リアンが叫ぶと、同じように壁を隅々まで観察していたアーロとオリバーがやってきた。
「ほんとっすね。こんなちっちゃいのよく見つけたっすね!」
「赤ん坊の部屋の向かい側に子供部屋があると地図上ではなっていたが、本当だったな」
アーロは言いながらユアンから受け取った金のピンを取り出そうとして先程ノアに貸し出した事を思い出した。
「あんた今、ためらいなくピン刺そうとした?」
「ああ」
シレっと答えたアーロにリアンは眉を吊り上げる。
「僕たちだけで行ってもしそこに敵が居たらどうすんの!」
「そっすよ。それに俺たちだけ行ったら後の人たちどうやって入ってくんすか」
「そうだったな。すまん」
二人に責められたアーロは素直に頭を下げて壁を眺める。壁には一面絵が描かれていて、まるで美術館か何かにやってきたようでここが地下であることはうっかり忘れそうになってしまいそうだ。
「絵心のある者が居たんだな」
「ほんとにね。どんだけの時間かけて描いたんだろ」
「いや、あんた達呑気に絵を鑑賞してる場合じゃないんっすよ!? ちょっと俺キリ達呼んでくるっす」
そう言ってオリバーが踵を返して春の庭を調査しているキリ達を呼びに行こうとした道中で、ばったりノア達に会った。
「あれ? オリバー」
「ノア! カイン! 戻ってきたんすね。ん? 何でアリスが居るんすか? あんたキリ達と一緒だったんじゃ?」
「なんかね、椅子に縛り付けられてた。どうせまた余計な事しようとしたんだと思うよ。それよりそっちは? オリバー一人?」
「ああ、いえ。リー君が子供部屋に通じるっぽい穴見つけたんで、皆を呼びに来たんすよ」
「なるほど。赤ちゃんの部屋も無事に見つかったんだ?」
「っす。そこ曲がった所なんで先行っといてください。俺はキリ達呼んでくるっす」
「はいは~い」
適当な返事をしたノアに苦笑いを浮かべながらオリバーはキリ達の元へ向かう。そんな後ろ姿を見ながらノアはポツリと言った。
「可哀想になぁ。全部終わったら離縁かぁ~」
「……可哀想にって言いながら何でお前は笑ってんの?」
「えー? だってあんな良い人なのにさ~、人生ってままならないよねぇ~」
クスクス笑いながらそんな事を言うノアをカインは白い目で見て脇腹をつねる。
「ねぇねぇ兄さま、何の話? 誰が離縁すんの?」
「ん? オリバーとドロシーだよ。何かドロシーがオリバーに離縁を申し込むらしいよ」
「えぇ!? な、なんで!?」
「さあ? 僕は知らないよ。夫婦間の事だしね~」
そんな事を言いつつ何となく予想がついているノアだ。それを聞いてアリスは青ざめた。
「ダメダメ! 絶対に阻止するんだから! ていうか、今そんな事してる場合じゃないよ!?」
「僕もそう思う。だけど本人たちにとっては星が砕けることより大事なんじゃない?」
「だとしても! 絶対に駄目! よし、さっさと終わらせてドロシー阻止しないと! 待っててねドロシー! 殴ってでもモブに頭下げさせるからね! そうと決まればさっさと終わらそ!」
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