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第336話 番外編 アリスのクリスマス2022 パート5

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 アリス・ノアとキリ・ミア夫妻。
 
「さ、寒い……」
「ノエル、こっちおいで。アミナス、お願いだから上着脱ごうとしないで」

 ノアは震えるノエルを自分のコートにくるんでしっかりと保護しながら、さっきから上着を脱ごうとするアミナスを止める。

「あちゅい! あっちゅい!」
「……こんな上空でこの時期に暑いなどとよくも言えますね。体感温度を察知するセンサーが死んでいるのでは?」
「お嬢様はあらゆる感覚が死んでいます。ああアニー、真似をしないでください。凡人の俺たちがあれの真似をしたら死んでしまいます」

 何でもアミナスの真似をしたいアニーが上着を脱ごうとするのをレオとカイが必死になって止める。そんな子どもたちをニコニコしながらココアを飲んで見守るのはミアだ。

「楽しいですね、キリさん」
「……そうですか?」
「はひ! 寒いんれすけど、フワフワします」
「ミアさん? 何だか先程から揺れているような……お嬢様! このココア何が混ぜてあるんですか!?」

 フワフワすると言いながら横揺れしているミアが飲んでいるココアを取り上げたキリは、すぐさまアリスに向かって叫んだ。するとすぐさまアリスから返事が返ってくる。

「え~? ブランデーだよ~! ちょびっとだけどね~」
「ブ、ブランデー……ミアさん、大丈夫ですか? 気分は――良さそうですね」

 内容物を聞いたキリは急いでミアの顔を覗き込んだが、ミアは頬を真っ赤に染めて横揺れしながらニコニコしている。どうやらほろ酔いで良い気分らしい。

「キリ、ミアさん大丈夫? こっちのをあげるよ。こっちは子ども達用だからホットミルクだけど」
「ありがとうございます。ですがミルクはアミナスが……なに飲んでるんですか、あなたの娘」

 ホットミルクと聞いてアミナスの飲み物だと察知したキリはアミナスを見て固まった。何やら水筒とは程遠い、家でもよく見る瓶を哺乳瓶のように抱えてガブガブ飲んでいる。

「え? ああ、炭酸水だね。キンキンに冷えた奴」
「……何故?」
「お腹すいたんだって。あと暑いって。興奮してるんじゃないかな。我が娘の事ながら僕にもよく分かんないよね」
「……どうして……」

 それを聞いてキリは悲しげに視線を伏せた。そんなキリを心配そうに双子が覗き込む。

「どうしてそんなどこもかしこもお嬢様なのですか……」
「それは僕に聞かれても。ノエル、美味しい?」

 ノアのコートの中にすっぽりと収まったノエルはアミナスがいらないと言ったあつあつの粉ミルクを溶かしたホットミルクを飲んで白い息を吐きながら笑う。はっきり言って可愛すぎる。

「不思議な味! 父さまも飲む?」
「ううん、僕はいいよ。でもあんまり飲むとお手洗いに行きたくなると困るからほどほどにね」
「分かった。レオとカイも飲む?」

 そう言ってノエルがレオとカイに水筒を渡すと、レオとカイは素直にそれを受け取って順番に一口ずつ飲んで安堵の息を漏らしている。

「旦那様、このホットミルクに添加物は?」
「内容物はミルクだけですか?」
「え? 粉ミルクと少しだけメープルシロップが入ってるよ」
「そうですか。ではアニーは飲めませんね。残念です」
「あ、ですがレオ。この間読んだ本にメープルシロップは少量ならいいと書いてありました」
「本当ですか? 何という本です?」
「確か、ソール・レブラント著『赤ん坊に食べさせてはいけないあれやこれ』だったと思います」
「俺も読みましたが、そんな事書いてありましたか?」
「はい。はちみつの項目です。小さく注釈の所に書いてありました」
「そうですか。ではカイを信じましょう。さぁアニー、俺がフーフーしてあげます」
「疲れたら代わります」

 双子たちはそう言って代わる代わるコップに出したミルクを冷ましている。

「ねぇ、誰に似たの?」

 そんな双子をじっと見ていたノアがチラリとキリを見て言うと、キリはミアを見て首を傾げる。

「分かりません。この二人はありとあらゆる育児書を気づけば丸暗記していました。俺とミアさんはここまで過保護ではないと思うのですが」

 むしろミアなど割と大雑把な部類だ。流石兄妹が沢山いるだけある。

「溺愛っぷりが凄いね。まぁアニー可愛いもんね。ノエルは幸せだね、近くにこんなにも可愛いお嫁さんが居てくれて」
「うん!」

 双子がアニーを異常に可愛がるので、それを幼い時からずっと側で見てきたノエルもまたアニーの事は可愛くて仕方ない。それがたとえ刷り込みというマジックだったとしても。

「待ってくださいノア様。正気ですか?」
「え? アニーが生まれた時から正気だよ。それによその誰かの所にアニーを嫁がせるなんて事出来るの?」
「……無理ですが。だとしても! ノエルはいいんです。あなたも。俺がネックなのはコレとアレですよ」

 キリは半裸で炭酸水を握りしめているアミナスと、同じようにペラペラの服を着た肩丸出しの格好でドンを操るアリスを指さした。

「それはもう今更どうしようもないよ、キリ。僕たちは嫌というほど見てきたでしょう? アリスの幼少期を」
「だからこそ嫌なんです。アミナスは絶対にどこへも嫁げないでしょう? ということは、ずーっとバセット家に居る訳ですよね? アニーの小姑になる訳ですよね? おまけに義母がアレですよ? そこはもう地獄では?」
「こらキリ! めっ! そりゃ確かにアリスもアミナスも居るけど、僕もノエルも居るから。おまけにキリはうちで勤めてる訳だから正直今と変わらないと思うけど」

 それに言いたかないがアニーは既にアミナスを心酔している。既に今アニーも立派なアリス予備軍である。とは内心思っていてもノアは口に出すのは止めておいた。何故ならキリの冷たすぎる視線が痛かったからだ。

「こらこら~聞こえてるぞ~! 言っとくけどアミナスはちゃんと結婚できるからね! 誰かは分かんないけど、そんな気がする! ところで兄さま~これからどこ行けばいいの~? 順番は兄さまが決めるって言ったよね~?」

 ドンを操りながらアリスが振り向くと、ノアは何かを思い出したかのようにポケットから手帳を取り出した。

「まずはリー君のとこに行ってあげて! さっきメッセージが届いたんだ。何かすんならうちを一番にして、って」
「バレバレですね」
「アリスとリー君とライラちゃんは心で繋がってるらしいから、何かピンと来たんじゃない?」
「なるほど」

 苦笑いを浮かべたノアの言葉にキリも納得したように頷いた。全然羨ましくない関係である。

「で、その次はルイスのとこね! 後はお好きに!」
「ルイス様もピンと来ましたか?」
「いや、こっちはキャロラインだよ」
「ああ、そっちはお嬢様が無駄に念を送っていそうですね」

 キャロラインがアリスの過剰な念をきっとキャッチしたのだろう。可哀想な事だ。

「ははは、まぁそう言わないであげて。でもあんまり遅くならないようにしないとね」
「何故です? 既に遅いですよ」
「だってさ、皆絶対イチャつきたいでしょ? クリスマスだし」
「俺はクリスマスに関係なくイチャつきたいですが、それもそうですね。さっさと行ってさっさと終わらせましょう」
「お~!」
「ミアさん、寒いのでこちらへ」

 お酒を飲んで既にへべれけのミアがニコニコしながら手を上げるのを見てキリは困ったように笑ってミアを抱きかかえる。そんなキリをノアが半眼で睨んできた。

「キリは時間とか関係なく時と場所考えずにどこでもイチャイチャするよね。今初めてリー君の気持ちが分かったよ」
「ノア様も行けば良いのでは? どうぞ、お嬢様はあちらですよ」
「鞍も安全ベルトも無しにドラゴンの頭に乗れるのなんてアリスだけだよ! はぁ、いいよ、僕にはノエルとアミナスが居るから。アミナスもおいで」

 ノアはそう言ってアミナスを抱き寄せようとしたが、アミナスの持っていた瓶が氷のように冷たい上にアミナスに暑いと言って拒絶されてしまった。

「……いいよ、ノエルがいるから」
「うん、僕がいるよ、父さま」

 何だかノアが可哀想になったノエルがノアに抱きつくと、ノアはそんなノエルをしっかりと抱き返してくれた。

「ノエル! 可愛い!」
「く、苦しいよ、父さま」
「旦那様、ノエル様を潰さないでください。ところで奥様に皆にプレゼントを用意しろと言われたのでとりあえず家にあった適当な物を持ってきたのですが良かったのでしょうか?」

 ノアに抱き潰されそうになっているノエルをそっと救出しながらレオが言うと、それが聞こえていたのか前方からアリスが叫ぶ。

「良い良い! プレゼントは心がこもっていれば良いのだ! 後ろに子ども達用の白い袋積んであるからそこに皆へのプレゼント入れてね!」
「いくら心がこもっていても、俺は毎年雑巾が欲しいとは思いませんけどね」
「雑巾じゃないって言ってんでしょ!? 枕カバーだよ! あんたのは今年も来年もその先もこれから一生ずーっとプレゼントは枕カバーだからね!」
「……どんな地獄ですか」

 ポツリとキリが言うとアリスがすぐに怒鳴り返してくるが、どうして今の声が聞こえるのだ。謎である。

「まぁまぁキリ。今年は僕からもちゃんと用意したから安心して。やっぱりクリスマスだからね、一緒に楽しまないと」
「はあ。そんなものですか?」
「そんなものだよ。こういう時は楽しんだもの勝ちだよ」
「まぁ、ノア様からの物ならハズレは無いと思うので安心ですが」

 そう言ってキリは実はこっそりアリスとノアにもプレゼントを用意している事は黙っておくことにした。年に一度のクリスマスだ。たまにはこういうのもいいだろう。
 

 アリスはドンの上から地上を見下ろして鼻歌を歌い始めた。その声に釣られたのかどうかは分らないが、そこらかしこから夜だと言うのに鳥たちが飛び立ち一斉に鳴きだした。

「ドンちゃん見て! 皆も楽しんでるよ!」
「……ぎゅぎゅぅ……」

 ドンは鳥たちが何を言っているのかが分かる。はっきりとアリスの歌声に迷惑をしている。だからあれは驚いて飛びたち怒っているのだ。

 それでもアリスは良い方にしか解釈しない。機嫌よくドンの頭の上で立ち上がり歌姫よろしく歌いだした。

 ドンは耳が良い。いっそ振り落としてやりたい気持ちに駆られるが、今回はドンの子どもたちもついてきているからあまり変な事は出来ないし、こんなアリスにはもう慣れっこだ。

「あ! リー君ち発見! お! すっかり電気も消えて真っ暗だゾ!」

 アリスは眼下に見えてきたリアンの家を指差して言うと、その指示に従ってドンが降下し始めた。

 ゆっくりと出来るだけ迷惑にならないように地上に着地したドンは皆を下ろして後ろから着いてきていた子どもたちの頭を一人ひとり撫でてやる。そのさらに後ろから心配そうに飛んでくるのはスキピオだ。

「ぎゅ!」
「きゅ!」

 二人は手を取り合って首と鼻をこすり合わせた。スキピオはいつも優しい。どんな時でもドンがする事を止めずに優しく見守ってくれるし子育てもしっかり一緒にやってくれる。何よりも相当にイケメンドラゴンなので、これがアリスのよく言うスパダリというやつなのだろう。
 
 アリスはイチャつくドンとスキピオを横目にそーっとリアン達の部屋の窓に忍び寄った。

「母さまはこれから泥棒でもするの?」

 ソロリソロリと屋敷に近づくアリスを不審に思ったノエルが心配そうに言うと、ノアが苦笑いを浮かべる。

「泥棒ではないけど、まぁ迷惑ではあるだろうね」
「全くです。むしろ迷惑以外の何者でもありません。いいですか、子ども達。去年まであなた達の所へやってきていたサンタの正体はアレです。そして今年からはあなた達はサンタとしての役割を強いられると思います。今から覚悟をしておいてください」
「ちょ、キリ。何でそんな夢ぶち壊すような事言うの!」

 ノアとしては自分たちで気づくまで内緒にしておいてやりたかったのに、キリはあっさりとネタバレしてしまう。

 けれどそれを聞いて驚愕したのはアミナスだけだ。

「僕知ってたよ。サンタさんは母さまと父さまだよね?」
「え」
「だって、いっつも枕元で言い合いしてるから……」

 どこにどちらのプレゼントを置くかで毎年散々揉めるので嫌でもその声で起きてしまっていたノエルは、割と早い段階でサンタの正体はアリスとノアだと知っていた。

「ごめん! うるさかった?」
「うるさくは無いと思う。アミナスは全然起きなかったし、何か寝た振りしてないと駄目なのかなって」
「ノア様、ノエルに気を使わせてどうするのですか」
「ご、ごめん」

 ノアが頭を下げたその時だ。リアンの部屋に忍び寄っていたアリスが奇声を上げた。何事かと思って急いでそちらを見ると、リアンの部屋の窓が開いていてリアンがしたり顔で窓の外に出来た雪山を見て笑っている。

「引っかかった! ライラ、成功したよ!」
「やったわね、リー君。アリス、ごめんね。たまには私達からも直接プレゼントを渡したくて! こうでもしないとアリスは寝てない私達を襲うでしょう?」

 ライラが雪に完全に埋もれたアリスに声をかけると、雪玉の中からアリスがひょっこりと顔を出した。

「なんですと!? いや~すっかり引っかかってしまいましたな! ははは!」
「うふふ。アリスってばまたそんな寒々しい格好をして。子どもたちが真似したらどうするの?」

 アリスの頭に積もった雪を払い落としながら言うと、アリスはさらに笑い声をあげてクルリと振り返る。

「我が愛娘は既に私の真似をしているのだ! 見よ! あのキンキンに冷えた炭酸水を抱っこして上半身はほぼ裸! 私よりも酷い!」
「自慢になんないし見てるこっちが寒いんだよ! せめて上着は着て! 着せて! で、今回は何、一家総出なの? 暇なの?」

 アリスの視線の先を見てリアンが呆れたように言うと、そこにはにこやかに手を振るノアと疲れ果てた顔をしたキリがこちらに向かってお辞儀をしている。

「息子の方はあんなにも礼儀正しくてきちんとしてるのにね。ったく、で、今年は何くれんの?」

 キリと同じようにこちらに向かってお辞儀をするノエルと双子にリアンは手招きしながら言うと、アリスはニカッと笑って言う。

「リー君はせっかちさんなんだから! 兄さま~! 例のブツ持ってきて~!」

 アリスが雪山から這い出ながら言うと、ノアがカゴに積んであった白い袋を担いでやってくる。

「はいはい。リー君こんばんは。寒いのにごめんね」
「全くだよ。なんであんた達まで一緒になって参加してんのさ」
「いや~アリスが止める間もなく子どもたち誘っちゃってさ。流石にノエルと双子にアリスとアミナスのお世話はキツイでしょ?」
「それは確かに。どっちかがはしゃいで誰かが止めようとしてドンから落ちる所しか想像出来ないね」

 そんな光景がかなりリアルに想像出来るので多分、いや間違いなくそうなる。

「でしょ? だから仕方なくね。はい、これがリー君、こっちがライラちゃんね。で、これがチビ二人に」

 ノアがプレゼントを渡していると、そこへ子どもたちもやってきた。

「夜分遅くに失礼します。これは俺達からジャスミンとローズに」
「あれ、君たちもくれるの?」
「はい、まぁ……」
「すみません。突然の事で何も用意出来なくてありあわせの物になってしまいました」
「ごめんなさい。来年はもっとちゃんとしたの用意するね」

 申し訳無さそうに双子とノエルが言うと、そんな三人の頭をリアンとライラが撫でてくれる。

「いいよいいよ、そんなの。ありがと。じゃあはい、これ僕とライラから君たちに。いつもうちの子達と仲良くしてくれてありがとね」
「! ありがとうございます」
「まさか俺たちももらえるとは思ってもいませんでした」
「ありがとう、リー君! こっちはアミナスとアニーの?」
「そう。とりあえずアミナスにはそれ着せてやってよ。見てると寒いから」

 アミナスとアニーへのプレゼントは全身がすっぽりくるまれるモコモコの服だ。目と鼻だけ開いているので相当に怪しいが、一応アリス工房の新商品である。

「分かった! ありがとうリー君! アミナスー! リー君がプレゼントくれたよ~! これ着よ!」
「きるー! ぷえでんときるー」
「……ほんと、よく出来た息子たちだねぇ」

 喜び勇んでアミナスとアニーの元へ戻っていく子どもたちを見ながらリアンが言うと、いつの間にかやってきていたキリがこくりと頷いた。

「全くです。どちらもお嬢様だったらバセット家の混沌と闇はさらに深い物になるところでした。あ、これうちから子どもたちに」
「あ、キリもくれるんだ。あんがと。さて、まだまだあるんでしょ? 風邪引く前に早く行きなよ。で、これがあんたのね。僕とライラから」
「アリスこの間方位磁石が壊れたって言ってたでしょ? 可愛いの見つけたから」
「お……おぉぉ……心友からのプレゼント……ふぉぉぉ……」

 ライラとリアンからプレゼントをアリスは震える手で受け取った。今まで渡すばかりだったからまさか自分が貰うとは全く思っていなかったアリスだ。感動で思わず全身が震えてしまう。

「いや、気味の悪い喜び方しないでよ。ほら、もう行った行った! 寒いから閉めるよ!」
「うん……ありがとう、ライラ、リー君。大切に使う」
「ええ、そうしてくれたら嬉しいわ。それじゃあアリス、皆さんもお気をつけて」

 ライラはそう言って窓から身を乗り出してアリスに抱きつくと、アリスは珍しく照れくさそうに抱きしめ返してくれた。

「それじゃあ二人共、おやすみ! ありがとう!」

 アリスはそれだけ貰ったプレゼントを大事にポシェットに仕舞うとドンの元へ戻った。そこでは既に皆が待ってくれている。

「おまたせ! それじゃあ次はおが屑の王様の所へゴー!」
「おが屑の王様って母さま……」

 流石にそれはどうかと思ったノエルだったが、それについては特に誰も否定しないのでそれ以上追求するのは止めておいた。
 

 ライラとリアンはアリス達から受け取ったプレゼントを開けもせずにそのまま寝室に戻り、着替えてベッドに並んで座った。

「そう言えばリー君、さっきノア様になんてメッセージ送ったの?」
「え? ああ、あれ。うちを一番にしてねって。何となく今年から再開しそうだな~って思って」
「そうだったの! でも丁度良かったわ。今年はその日にプレゼントを渡せたんだもの。そう言えばリー君は何を送った――」
「もうあいつらの事はいいよ。僕には何かプレゼントは無いの?」

 ライラのセリフを遮ってリアンがライラを抱き寄せながら言うと、ライラは恥ずかしそうに俯いた。

「えっと……わ・た・し?」

 上目遣いでそう言った途端、リアンが耳まで真っ赤にして口元を手で覆ってそっぽを向いてしまう。これは相当に照れている。

 アリスが言っていた。前の世界での女性達は皆、クリスマスには自分にリボンをかけて意中の人に「プレゼントはわ・た・し♡」と言うのだと! そんなバカな世界があるのかと思ったが、意外なことにリアンの反応はすこぶる良さそうだ。

 しばらく感心していたライラだったが、ようやく我に返ったリアンにあっという間に押し倒された。

「じゃ、もう遠慮はいらないよね?」
「え、えっと……うん」

 意地悪に微笑むリアンを見て、ライラは何だか嬉しくなって頬を染めて頷いた。やっぱりアリスの言うことは大概正しい。
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