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第447話 ドラゴンの谷
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アリスが正気だと分かった所でアリス達は駆け足でユーゴの元に向かった。
「ほら、ここだよぉ~。入れそうでしょ~?」
ユーゴは目の前の亀裂を指さす。
「ほんとだね。あれ? ルーイさんは?」
「先に偵察に入ったよぉ~。ほら、アリスちゃん先頭ねぇ~」
「うん!」
ユーゴに背中を押されたアリスは亀裂の中に潜り込んだ。明らかにドラゴンの為の出入り口ではないが、逆にドラゴンとは遭遇しなさそうなので安心である。
四つん這いで狭い亀裂の中をどんどん進んでいくと、奥から明かりが漏れている事に気づいた。そこにはルーイの後ろ姿もある。
「ルーイさん!」
声を潜めてルーイを呼ぶと、ルーイは振り返って人差し指を口に当て、続いて崖の下を指差す。
それを見てアリスはさらにもぞもぞと進んでルーイの隣に辿り着いて下を覗き込むと、そこには半裸で鎖に繋がれたモルガナと大きな鳥かごのような物に詰められたドラゴンの赤ん坊達がぐったりとした様子で項垂れていた。
「何ここ、凄いね」
アリスに続いてやってきたリアンは上を見上げて感嘆の息をつく。本来天井があるべき場所には切り取られたような青空が広がっている。
切り立った崖はどうやらこの場所を守るためだったようだ。まさかあの崖の内側に吹き抜けになったこんな場所があるだなんて思ってもいなかった。
「リー君! 見て、あれ」
「うわ……さいってー……」
アリス達が居た場所は丁度出っ張りになっているようで、下を覗き込めるようになっていた。そこにリアンも同じように寝そべって下を覗き込んで舌打ちをする。
「あれどうやって助けるの?」
「う~ん……相手がどれだけ居るか分らないんだよね。ルーイさんが来た時にはもう他に誰も居なかった?」
「ああ。ただこういう出っ張りがいくつかあるようで、先程から見ていると何やらあちこちで気配はしているな」
「なるほど……う~ん……困ったな。とりあえずドラゴンベビーだけは助けないと」
「モルガナは?」
「後回し。罪の無い子から助けるよ」
「ん、分かった」
相変わらずアリスはアリスだ。リアンは素早く頷いてクローを取り出す。と、そこへ後ろからキリとオリバーとユーゴもやってきた。
すると途端に出っ張りはぎゅうぎゅう詰めになる。
「ちょ、押さないでよ!」
「そんな事言ったって狭いんっすよ」
「うるさいですよ、気付かれたらどうするんですか」
言いながらキリは辺りを見渡して何かに気づいた。
「お嬢様、ゴーする準備をしてください」
「へ? いやまだ敵の数も分かんないのに何で――」
アリスが抗議しようとしたその時だ。突然上の方からドン! という大きな音がした。
「へぁ!?」
その音に驚いたアリスが間の抜けた声を出して上を見上げると、そこにはカールが銃を構えて立っている。
「カ、カールさん?」
呆然としている間にもカールは続けざまに二回銃を下に向けて撃った。その弾は全てドラゴンの赤ん坊を吊るしていた鎖に当たる。その衝撃でカゴが大きく揺れた。
「アリス! カゴは任せたよ!」
「っ! うん! とうっ!」
カールの後ろから聞こえてきたノアの声にアリスはほぼ条件反射で崖から滑り降りると、途中で壁を蹴って振り子のように揺れている鳥かごに飛び移る。
「わぁ……曲芸師みた~い……いつか言ったなぁ~この台詞」
相変わらず人間とは思えない動きをするアリスに思わずリアンが言うと、リアンの横からキリが飛び出した。流石にアリスのように崖を何もなしで駆け下りたりはしないが、物凄い速さでロープを体と柱に巻き付け、それを命綱にしてそのまま駆け下りていってしまう。
ふと見るとさらに上からノアが仰向けに落ちるのが見えた。ハッとしたのも束の間、ノアは構えていたボーガンから紐つきの矢を打ち見事壁に命中させて、それを利用して降りていく。
「……バセット家ぇ……」
一体あの家はどうなっているのだ。呆気に取られていたリアンの隣でルーイとユーゴも自分たちのリュックから太い縄を取り出す。
「俺たちも行くぞ。ユーゴ」
「あいよぉ! っと」
ユーゴとルーイは持っていた縄をすぐさま柱にくくりつけると、その端を自分の体に括り付けてスルスルと行ってしまう。
「で、俺たちはどうやって降りるんすか?」
「僕たちはこうするんだよ!」
リアンはそう言ってクルリと向きを変えてオリバーを引っ張って元来た道を戻りだした。
「ちょちょちょ、戻るんすか!?」
「そだよ。ほら、早く!」
「っす」
何が何だか分らないが、多分リアンは既に次の作戦を頭に思い描いているのだろう。こういう時のリアンの機転は大抵上手くいく。長年リアンと仕事をしてきた事で、オリバーはもうそれを疑わなくなっていた。
「鉄かぁ~……ふんぬっ!!!」
アリスは鳥かごを吊るしている鎖を切るのは無理だと早々に諦め、ドラゴンの赤ん坊が詰まった鳥かごのドアをぶち破る事にした。
アリスが力いっぱいドアを左右に引っ張ると、ドアはギシギシと嫌な音を立てて少しずつ開いていく。やがてドラゴンの赤ん坊が通れるぐらいの隙間が出来た。
「おチビ達、助けに来たよ! ほら、皆私に捕まって!」
アリスが言うと、赤ん坊ドラゴンは恐る恐る近づいてきてアリスにしがみつく。
アリスは全身にドラゴンの赤ん坊を貼り付けたまま下を見て大乱闘になっているのを確認してため息を落とした。
「下は駄目か……じゃあ上は――あ!」
頭にくっついているドラゴンを落とさないように上を見上げると、そこには一頭の赤いドラゴンがこちらに向かって旋回しながらゆっくりと降りてくるのが見えた。
「ほら、ここだよぉ~。入れそうでしょ~?」
ユーゴは目の前の亀裂を指さす。
「ほんとだね。あれ? ルーイさんは?」
「先に偵察に入ったよぉ~。ほら、アリスちゃん先頭ねぇ~」
「うん!」
ユーゴに背中を押されたアリスは亀裂の中に潜り込んだ。明らかにドラゴンの為の出入り口ではないが、逆にドラゴンとは遭遇しなさそうなので安心である。
四つん這いで狭い亀裂の中をどんどん進んでいくと、奥から明かりが漏れている事に気づいた。そこにはルーイの後ろ姿もある。
「ルーイさん!」
声を潜めてルーイを呼ぶと、ルーイは振り返って人差し指を口に当て、続いて崖の下を指差す。
それを見てアリスはさらにもぞもぞと進んでルーイの隣に辿り着いて下を覗き込むと、そこには半裸で鎖に繋がれたモルガナと大きな鳥かごのような物に詰められたドラゴンの赤ん坊達がぐったりとした様子で項垂れていた。
「何ここ、凄いね」
アリスに続いてやってきたリアンは上を見上げて感嘆の息をつく。本来天井があるべき場所には切り取られたような青空が広がっている。
切り立った崖はどうやらこの場所を守るためだったようだ。まさかあの崖の内側に吹き抜けになったこんな場所があるだなんて思ってもいなかった。
「リー君! 見て、あれ」
「うわ……さいってー……」
アリス達が居た場所は丁度出っ張りになっているようで、下を覗き込めるようになっていた。そこにリアンも同じように寝そべって下を覗き込んで舌打ちをする。
「あれどうやって助けるの?」
「う~ん……相手がどれだけ居るか分らないんだよね。ルーイさんが来た時にはもう他に誰も居なかった?」
「ああ。ただこういう出っ張りがいくつかあるようで、先程から見ていると何やらあちこちで気配はしているな」
「なるほど……う~ん……困ったな。とりあえずドラゴンベビーだけは助けないと」
「モルガナは?」
「後回し。罪の無い子から助けるよ」
「ん、分かった」
相変わらずアリスはアリスだ。リアンは素早く頷いてクローを取り出す。と、そこへ後ろからキリとオリバーとユーゴもやってきた。
すると途端に出っ張りはぎゅうぎゅう詰めになる。
「ちょ、押さないでよ!」
「そんな事言ったって狭いんっすよ」
「うるさいですよ、気付かれたらどうするんですか」
言いながらキリは辺りを見渡して何かに気づいた。
「お嬢様、ゴーする準備をしてください」
「へ? いやまだ敵の数も分かんないのに何で――」
アリスが抗議しようとしたその時だ。突然上の方からドン! という大きな音がした。
「へぁ!?」
その音に驚いたアリスが間の抜けた声を出して上を見上げると、そこにはカールが銃を構えて立っている。
「カ、カールさん?」
呆然としている間にもカールは続けざまに二回銃を下に向けて撃った。その弾は全てドラゴンの赤ん坊を吊るしていた鎖に当たる。その衝撃でカゴが大きく揺れた。
「アリス! カゴは任せたよ!」
「っ! うん! とうっ!」
カールの後ろから聞こえてきたノアの声にアリスはほぼ条件反射で崖から滑り降りると、途中で壁を蹴って振り子のように揺れている鳥かごに飛び移る。
「わぁ……曲芸師みた~い……いつか言ったなぁ~この台詞」
相変わらず人間とは思えない動きをするアリスに思わずリアンが言うと、リアンの横からキリが飛び出した。流石にアリスのように崖を何もなしで駆け下りたりはしないが、物凄い速さでロープを体と柱に巻き付け、それを命綱にしてそのまま駆け下りていってしまう。
ふと見るとさらに上からノアが仰向けに落ちるのが見えた。ハッとしたのも束の間、ノアは構えていたボーガンから紐つきの矢を打ち見事壁に命中させて、それを利用して降りていく。
「……バセット家ぇ……」
一体あの家はどうなっているのだ。呆気に取られていたリアンの隣でルーイとユーゴも自分たちのリュックから太い縄を取り出す。
「俺たちも行くぞ。ユーゴ」
「あいよぉ! っと」
ユーゴとルーイは持っていた縄をすぐさま柱にくくりつけると、その端を自分の体に括り付けてスルスルと行ってしまう。
「で、俺たちはどうやって降りるんすか?」
「僕たちはこうするんだよ!」
リアンはそう言ってクルリと向きを変えてオリバーを引っ張って元来た道を戻りだした。
「ちょちょちょ、戻るんすか!?」
「そだよ。ほら、早く!」
「っす」
何が何だか分らないが、多分リアンは既に次の作戦を頭に思い描いているのだろう。こういう時のリアンの機転は大抵上手くいく。長年リアンと仕事をしてきた事で、オリバーはもうそれを疑わなくなっていた。
「鉄かぁ~……ふんぬっ!!!」
アリスは鳥かごを吊るしている鎖を切るのは無理だと早々に諦め、ドラゴンの赤ん坊が詰まった鳥かごのドアをぶち破る事にした。
アリスが力いっぱいドアを左右に引っ張ると、ドアはギシギシと嫌な音を立てて少しずつ開いていく。やがてドラゴンの赤ん坊が通れるぐらいの隙間が出来た。
「おチビ達、助けに来たよ! ほら、皆私に捕まって!」
アリスが言うと、赤ん坊ドラゴンは恐る恐る近づいてきてアリスにしがみつく。
アリスは全身にドラゴンの赤ん坊を貼り付けたまま下を見て大乱闘になっているのを確認してため息を落とした。
「下は駄目か……じゃあ上は――あ!」
頭にくっついているドラゴンを落とさないように上を見上げると、そこには一頭の赤いドラゴンがこちらに向かって旋回しながらゆっくりと降りてくるのが見えた。
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