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第461話 シャル、初めての米

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「時に観測者さん」
「こ、今度は何?」
「スマホ持ってますか? あ、ここのではなくてあちらの」
「あ、あるけど……今度は何する気!?」
「シャルがアバターを作っている間に僕はAMINASに指示を出しておこうと思いまして」
「誰よそれ!? アミナスとは違う子!?」
「まぁ似て非なる物です。で、持ってます?」

 ニコッと笑ったノアを見て観測者は渋々スマホをノアに渡す。

「壊さないでよ!? あと絶対に履歴は見ないでね!」
「見ませんし壊しません」

 ノアはそれだけ言って観測者から受け取ったスマホを見て驚いた。

「これは凄い……スマホは未来の物なんですね」
「そうなの。有人ドローンとセットで買ったら安くなるって言うから買い替えたのよ。ここをね、こうしたらほら! ホログラムが出てきてこの状態で操作できるの!」
「へぇ、便利。ああ、大きくもなるんだ。じゃあちょうどいいかな」

 そう言ってノアはもう一度、槇から送られてきたリンク先に行くと、自分のパソコンと観測者のスマホを繋いだ。てっきり動作が重くなるかと思ったが、そこはやはり最先端の技術なのだろう。負荷をほとんどかけずに繋がる事が出来るらしい。

「ね、ねぇ何するの?」

 二人が何をしているのか、普段ネットサーフィンしかしない観測者にはさっぱり分らない。そんな観測者の質問にノアは画面を操作しながら答えてくれる。

 初めて触るはずの未来のスマホを既に観測者よりも使いこなしているのが何とも憎らしい。

「えっと、シャルが今レックスの体をモデリングしてくれてるからそれをゲームに挿入しないといけないんだ。えーっと、今回はレックスはモブとして登録するから細かい設定はいらない、と。発生場所はバセット領でいっか。発生日時は……とりあえず一週間は見といた方がいいかな。で、性別は男で、名前はレックス。これをまずは反映してそれから――」
「……もう大丈夫よ。聞いてもさっぱり分らないから集中してちょうだい」
「うん、ごめんなさい」
「……こちらこそごめんなさい」

 自分の古めかしいパソコンと最先端のスマホの中で一体何が行われているのかさっぱり分からないが、ソラが未だに全く介入してこないということは、レックスの存在はこれからの未来に必要だと考えているのだろう。


「あら~可愛い。もうレックスと瓜二つ!」

 ノア達がやって来たのは昼を少し回った頃だった。観測者はお煎餅を齧りながらシャルの後ろに張り付いて、どんどん出来上がっていく画面の中のレックスを見て言った。

 最初は見ていてもつまらないしどこかへ買い物にでも行こうかと思っていたけれど、何気にシャルが操作していたパソコン画面を覗いて感嘆の声を上げた。画面上ではレックスによく似た少年が出来上がっていたのだ。それからずっと張り付いて見ているのだが、これがなかなか面白い。

「ねぇねぇ、これどんな物でも作れるの?」
「ええ。大抵の物は作れますよ」
「面白いのねぇ! あ、でも絵心が無いと無理かしら?」
「絵心よりはどちらかと言うと造形ですね。絵も描けるに越した事はありませんが」
「へぇ、そうなの。あ! 動いた!」
「ええ。こうやって動かしながらおかしな所が無いか見て行くんです。ほら、今皮膚を骨が突き抜けたでしょう? これは骨格に問題があるんですよ」
「はぁ……人体の基礎が必要なのねぇ」

 そんな事を言いながらふと時計を見るともうすっかり夕方になっていた。

「嫌だ! もうこんな時間! あんた達晩ごはんは親子丼でいい?」

 何気なく観測者が言うと、それまでずっと無言で作業していたノアがハッとして顔を上げた。

「親子丼! 米!」
「そうよ~。久しぶりでしょ?」
「そりゃもう! うわ、凄い嬉しいな」

 珍しく本気で喜ぶノアを見てシャルは小さく笑う。

「私は食べるのが初めてなので楽しみです。すみません、観測者さん」
「いいわよ~。……多分これ邪魔したらソラに叱られるだろうしな……」

 もしかしたらノア達がこういう壁にぶち当たる事をソラは予め予測していたのではないだろうか。でなければそもそも観測者の自分の元に妖精王の手帳で飛んでこられるはずなどないのだ。

 観測者の小声は二人には聞こえなかったようで、観測者はいそいそと夕食の準備をし始めた。
 

「これが……米……」

 シャルは感動のあまり思わず持っていたスプーンを落とした。

「分かりやすく感動してるわね、シャルちゃん」
「ええ、ずっと気にはなっていたんです。ノアがよく最後の晩餐には米と漬物と味噌汁がいいだなんて言ってましたから」
「ちょっとあなた、そんな事考えながら日々生きてたの? 暗いわねぇ」

 観測者が呆れたようにノアに言うと、ノアはそんな観測者を無視して一心不乱に親子丼を貪っている。やはり流石元地球人だ。箸の使い方が超上手い。

「駄目ですね。多分何も聞こえてませんよ」

 シャルは苦笑いをしながら落としたスプーンを拾って親子丼を食べ進めた。
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