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第477話 不本意な決定
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「これを見てくれ。両親からの手紙だ。酷いんだぞ! 俺にはレプリカに移れというんだ! ここまで来て最後だけ関わらせてもらえないなんて、酷いと思わないか!?」
「あー……うん、まぁ……酷い……ね」
視線を泳がせて言うノエルを見て、ライアンはあからさまに傷ついた顔をする。そこへルークとテオがやってきた。
「うちもだよ! 一体なんなんだよ!」
「僕は自ら向こうに行くって決めた。構わない?」
怒り狂うルークを慰めながらテオが淡々というと、思いの外ノエルはあっさりと頷く。
「もちろん。あのね、集まってもらったのはその話をしようと思ったからなんだ。ジャスミンとローズが来たら話すね」
それからしばらくしてジャスミンとローズがやってきた。二人はいつも通りニコニコしているが、このニコニコが怖い事をもう皆知っている。
「これから何が始まるの?」
「何か良くないお話だよぉ~。でも……そうとも言い切れないかも~」
未来が視えるジャスミンとローズにノエルとレックスは困ったような顔をしてため息を落とす。
「えっとね、考えたんだ。こちらに残るのは、僕とアミナスとレオとカイだけにしておこうって」
「……は?」
「……何でだよ?」
ライアンとルークは思い切りノエルを睨みつけた。そんな二人を見てもノエルはひるまない。
「それは……君たちが超重要人物だからだよ。次の王様と宰相が揃ってここに残るのは、危なすぎる」
「……父さんと同じことを言うんだな」
「うちも同じ。だったら! 何で最初から仲間外れにしなかったんだよ! 何で中途半端に関わらせんだよ! 俺は! 好きで宰相になる訳じゃないのに!」
思わずルークが叫ぶと、それを聞いて今度はライアンがギョッとしたような顔をする。
「お、お前それは言ってはいけないだろう。俺だって王の荷は重いが、それを言ったら両親を否定する事になってしまう」
「家族は好きだよ。当然だろ。でも……宰相にはなりたくない。俺は自分のしたい事も出来ないのかよ!」
声を荒らげたルークにライアンが傷ついたような顔をしてポツリと言った。
「それは次の王が俺だからか?」
「違う。何でそんな話になるんだよ。誰が王でも俺は別に宰相なんてやりたくない。俺は出来ればアリス工房に入って世界中見て回りたい。そう思うのがそんなにいけないのかよ?」
夢があって何が悪いんだ。自分で描けないレールの上を歩いて何が楽しいんだ。それを願う事はそんなにもいけない事なのか。
感情が高ぶって思わず涙を滲ませたルークに冷たく言い放ったのはテオだ。
「ほんと、お前らはまだまだ子どもだな。夢見るのは悪いことじゃない。でも、それは今持ち出す話じゃないよ」
「……」
「今はお前たちの夢の話をしてるんじゃない。世界の未来の話をしてるんだよ。どうなるか分からない。だから王族や貴族の血筋を残すという選択肢は当然の事。この世界は王政なんだから」
「そ、それはわかっているが……」
テオの言葉に思わずライアンが怯むと、それでもルークは噛みつこうとする。
「夢の話じゃなくても、いずれ夢の話に繋がる事だろ!? もし戦争が終わって世界が残っても、英雄たちが居なくなったらその時点で俺たちの夢は終える。結局俺たちは王や宰相になるしかなくなる!」
「そんなに宰相になるのは嫌? だったら家を出れば? 家族と縁を切れば? ルークが宰相にならないといけないと思ってるのは、ライト家に居るからだよ。アーロやユアンみたいに、自分の道を選ぶと決めた人達はその決意をした人達だ。今はそういう時代なんだよ。あれも欲しいこれも欲しいは通じない」
冷たいテオの言葉に部屋はシンと静まり返った。
そんな中、ノエルが静かに話し出す。
「母さまはね、そういうのを辞めたいんだって。なりたい人がなるべき。生物は皆、あるがまま自由に生きるべきだって。家を継がなきゃけいないだなんてナンセンスだって言ってた。僕もそう思う。でもそれは、この戦争が無事に終わったらの話だよ。考えてみて? もしも僕たちが全員ここに残って、さっきルークが言ったみたいに僕たちや英雄達は死んで星は残ったら? その後ってどうなると思う?」
「そ、それは誰かが王になるだろう?」
「そうだね。じゃあそれは誰? もしもアメリアみたいな人が王になったら? 自由な世界どころか奴隷社会になるよ」
「……」
「王になれるような人は生まれた時からその教育を受けてる。宰相になれるような人もだよ。英雄たちはたとえ自分達の子どもでもその見極めはちゃんとしてると思う。ルイス王もキャロライン王妃もライアンは王になれるって思ってるし、カイン宰相だってルークは宰相になれるって思ってる。子どもが他に居ないからじゃない。君たちは出来るって思ってるんだよ。だから今回の戦争ではレプリカに行けって言ったんだと思う。僕だってそう。ディノを目覚めさせる事が出来るって思ったから父さまはここに残る事を許してくれた。もしそうじゃなかったら父さまは絶対に僕たちをここに残らせたりなんてしない」
「ノアは特にそうだろうね。君たちにさえとてもシビアだよ」
「うん。最終的には僕たちの意見を聞いてくれるけど、しっかりとした決意と根拠が無いと父さまは許してくれない。それは母さまもだよ。いっつもただの勘だよって言うけど、あれは僕たちの本心を完全に見透かしてる」
それはもうちょっと怖いぐらいに。ノエルはそんな事を考えながらライアンとルークをじっと見た。
二人はそんなノエルの視線から逃れるようにそっと目をそらす。
「今度世界を変えるのは僕たちだ。だからこそこの戦争で全員が死ぬわけにはいかない。仲間だけど、別れなきゃいけない時もある。違う?」
「……死ぬつもりなのか?」
震えながらライアンが言うと、ノエルはニコッと笑う。
「分からない。そんなつもりはなくても、星が砕けたらもう逃げられないから」
「……逃げようとは……するよな?」
泣きそうな顔でそんな事を言うルークにノエルはコクリと頷く。
「それはもちろん。最後まで僕だって戦うよ。生きるために」
「……ならいいけど」
ノエルやテオの言う事は正しい。カインだってきっとそうしただろう。それは分かっている。分かっているけれど、夢の話まで持ち出したのだって子どもっぽい言い訳だと思っているけれど、それでも最後まで関わりたかった。
「あー……うん、まぁ……酷い……ね」
視線を泳がせて言うノエルを見て、ライアンはあからさまに傷ついた顔をする。そこへルークとテオがやってきた。
「うちもだよ! 一体なんなんだよ!」
「僕は自ら向こうに行くって決めた。構わない?」
怒り狂うルークを慰めながらテオが淡々というと、思いの外ノエルはあっさりと頷く。
「もちろん。あのね、集まってもらったのはその話をしようと思ったからなんだ。ジャスミンとローズが来たら話すね」
それからしばらくしてジャスミンとローズがやってきた。二人はいつも通りニコニコしているが、このニコニコが怖い事をもう皆知っている。
「これから何が始まるの?」
「何か良くないお話だよぉ~。でも……そうとも言い切れないかも~」
未来が視えるジャスミンとローズにノエルとレックスは困ったような顔をしてため息を落とす。
「えっとね、考えたんだ。こちらに残るのは、僕とアミナスとレオとカイだけにしておこうって」
「……は?」
「……何でだよ?」
ライアンとルークは思い切りノエルを睨みつけた。そんな二人を見てもノエルはひるまない。
「それは……君たちが超重要人物だからだよ。次の王様と宰相が揃ってここに残るのは、危なすぎる」
「……父さんと同じことを言うんだな」
「うちも同じ。だったら! 何で最初から仲間外れにしなかったんだよ! 何で中途半端に関わらせんだよ! 俺は! 好きで宰相になる訳じゃないのに!」
思わずルークが叫ぶと、それを聞いて今度はライアンがギョッとしたような顔をする。
「お、お前それは言ってはいけないだろう。俺だって王の荷は重いが、それを言ったら両親を否定する事になってしまう」
「家族は好きだよ。当然だろ。でも……宰相にはなりたくない。俺は自分のしたい事も出来ないのかよ!」
声を荒らげたルークにライアンが傷ついたような顔をしてポツリと言った。
「それは次の王が俺だからか?」
「違う。何でそんな話になるんだよ。誰が王でも俺は別に宰相なんてやりたくない。俺は出来ればアリス工房に入って世界中見て回りたい。そう思うのがそんなにいけないのかよ?」
夢があって何が悪いんだ。自分で描けないレールの上を歩いて何が楽しいんだ。それを願う事はそんなにもいけない事なのか。
感情が高ぶって思わず涙を滲ませたルークに冷たく言い放ったのはテオだ。
「ほんと、お前らはまだまだ子どもだな。夢見るのは悪いことじゃない。でも、それは今持ち出す話じゃないよ」
「……」
「今はお前たちの夢の話をしてるんじゃない。世界の未来の話をしてるんだよ。どうなるか分からない。だから王族や貴族の血筋を残すという選択肢は当然の事。この世界は王政なんだから」
「そ、それはわかっているが……」
テオの言葉に思わずライアンが怯むと、それでもルークは噛みつこうとする。
「夢の話じゃなくても、いずれ夢の話に繋がる事だろ!? もし戦争が終わって世界が残っても、英雄たちが居なくなったらその時点で俺たちの夢は終える。結局俺たちは王や宰相になるしかなくなる!」
「そんなに宰相になるのは嫌? だったら家を出れば? 家族と縁を切れば? ルークが宰相にならないといけないと思ってるのは、ライト家に居るからだよ。アーロやユアンみたいに、自分の道を選ぶと決めた人達はその決意をした人達だ。今はそういう時代なんだよ。あれも欲しいこれも欲しいは通じない」
冷たいテオの言葉に部屋はシンと静まり返った。
そんな中、ノエルが静かに話し出す。
「母さまはね、そういうのを辞めたいんだって。なりたい人がなるべき。生物は皆、あるがまま自由に生きるべきだって。家を継がなきゃけいないだなんてナンセンスだって言ってた。僕もそう思う。でもそれは、この戦争が無事に終わったらの話だよ。考えてみて? もしも僕たちが全員ここに残って、さっきルークが言ったみたいに僕たちや英雄達は死んで星は残ったら? その後ってどうなると思う?」
「そ、それは誰かが王になるだろう?」
「そうだね。じゃあそれは誰? もしもアメリアみたいな人が王になったら? 自由な世界どころか奴隷社会になるよ」
「……」
「王になれるような人は生まれた時からその教育を受けてる。宰相になれるような人もだよ。英雄たちはたとえ自分達の子どもでもその見極めはちゃんとしてると思う。ルイス王もキャロライン王妃もライアンは王になれるって思ってるし、カイン宰相だってルークは宰相になれるって思ってる。子どもが他に居ないからじゃない。君たちは出来るって思ってるんだよ。だから今回の戦争ではレプリカに行けって言ったんだと思う。僕だってそう。ディノを目覚めさせる事が出来るって思ったから父さまはここに残る事を許してくれた。もしそうじゃなかったら父さまは絶対に僕たちをここに残らせたりなんてしない」
「ノアは特にそうだろうね。君たちにさえとてもシビアだよ」
「うん。最終的には僕たちの意見を聞いてくれるけど、しっかりとした決意と根拠が無いと父さまは許してくれない。それは母さまもだよ。いっつもただの勘だよって言うけど、あれは僕たちの本心を完全に見透かしてる」
それはもうちょっと怖いぐらいに。ノエルはそんな事を考えながらライアンとルークをじっと見た。
二人はそんなノエルの視線から逃れるようにそっと目をそらす。
「今度世界を変えるのは僕たちだ。だからこそこの戦争で全員が死ぬわけにはいかない。仲間だけど、別れなきゃいけない時もある。違う?」
「……死ぬつもりなのか?」
震えながらライアンが言うと、ノエルはニコッと笑う。
「分からない。そんなつもりはなくても、星が砕けたらもう逃げられないから」
「……逃げようとは……するよな?」
泣きそうな顔でそんな事を言うルークにノエルはコクリと頷く。
「それはもちろん。最後まで僕だって戦うよ。生きるために」
「……ならいいけど」
ノエルやテオの言う事は正しい。カインだってきっとそうしただろう。それは分かっている。分かっているけれど、夢の話まで持ち出したのだって子どもっぽい言い訳だと思っているけれど、それでも最後まで関わりたかった。
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