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第636話

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 アリス達が核に辿り着くと、次元はさらに収縮して小さくなっていた。

「核はやっぱり大丈夫そうだね。ところで地上は今どうなってるの?」
「そうだった! リゼはどうなったんだ!? 無事なのか!?」

 ルイスがモニターを持っていたエリスに詰め寄ると、エリスは急いでモニターをつけて皆に見せるように核のど真ん中にモニターを設置した。

 それを覗き込んだ仲間たちはモニターに映し出されている光景を見て一様に息を呑む。

 そこにはリーゼロッテを抱きかかえた妖精王から、何故か影アリスがリーゼロッテを引ったくっている所が映し出されていたのだ。

「あ、間に合ったんだ。良かった」

 ノアの一言に今度はカインが顔を般若のようにして近寄ってきた。

「お前何したんだよ? ていうか、なんで影のアリスちゃんとかキリとお前がいんの?」

 また皆に黙って何かしたのかとカインがノアに詰め寄ったが、ノアはそんな事などもちろん気にもしない。相変わらず悪びれずに笑うだけだ。

「だって、こうなるだろうなって予測できたでしょ? わざわざテオがジャスミンのお告げを伝えてきたって時点で誰かが犠牲になるだろうって。タイミング的にはリゼが犠牲になるだろうって事も予測出来た。かと言って僕たちはここから下手に動けないし、だったら影使うしかないじゃない」
「そりゃそうなんだけどさぁ、なんだろうな? 相変わらずお前は誰にも相談せずに物事をい進めるよね?」
「相談してる暇が無かっただけだよ。妖精王の粉だって万能じゃない。時間が経てば経つほどその効果は薄れる。ドロシーの白魔法みたいにね」
「な、なんで知ってんすか!?」
「そりゃ、皆の禁忌魔法について僕が勝手に勉強したからだよ」
「勝手に、という所がノア様らしいですね。皆さん、ノア様はこういう人です。いい加減学習してください。それで、ひとまずリゼは安心ですね」

 キリの言葉に相変わらずなノアとカインの喧嘩を見ていた仲間たちはコクリと頷く。

 皆が深刻な顔をしているそんな中、アリスはリーゼロッテが無事だと分かった瞬間、アミナスとノエルを連れて何やら結界の外から次元を食い入るように見つめている。

「まるでブラックホールのようですな!」

 アリスはアミナスとノエルを抱きかかえて小さくなった次元にギリギリまで近づいて言う。

「ぶらっくほーる?」
「そう! ブラックホール! 何でも吸い込む怖い奴だぞ! たまに家の中にも出来たりするよ! 特に私の部屋にね!」
「えっ!?」

 アリスの一言にアミナスとノエルどころか、仲間たちもギョッとしたような顔をするが、ノアとキリだけはそんなアリスを白い目で見ている。

「アリス、それはブラックホールじゃなくてただ単にアリスの管理が悪いんだよ」
「そうです。部屋の中で色々な物が無くなるのは偏にあなたの大雑把な性格が原因です」

 呆れたノアと淡々としたキリの言葉に仲間たちはホッと胸を撫で下ろす。

「なんだ、ビックリした。いつか母さまも吸い込まれちゃったらどうしようかと思っちゃった」

 そんな事を言いながら浮かんだ涙を拭うノエルを見てアリスはすぐさまノエルを抱きしめて頬にキスをする。

「わが息子の何と可愛い事か! よし、来月からお小遣いアップだぞ!」

 そんなアリスの言葉にノエルはパッと顔を輝かせて、隣に居たアミナスを抱き上げて言う。

「ありがとう、母さま! アミナス、来月からお菓子もうちょっと買ってあげられるよ」
「やったぁ!」
「……ノアさま、いいんですか?」
「……アリスと違ってノエルはお芝居も上手いなぁ」
「そんな所に感心している場合ではなのでは?」
「うん、そうなんだけど、アリスのお願いを僕が断れないのをよく理解した良い作戦だよね。ただ心配なのは、それが全部アミナスのおやつに消えそうって事だよ」

 諸々を理解したノアが困ったように笑っていると、後ろからルイスとカインの声が聞こえてくる。

「おい! どうするんだ、ノエルがどんどんノアに似てくるぞ!」
「どうするも何も、どうしようもないでしょ。ていうか小芝居までうつんだから下手したらノア以上に危険だろ、あれは」
「おまけにアリスの魔法を受け継いでいるんだぞ!」
「それこそ今更どうしようもないって。はぁ……魔王にアリスちゃんの魔力がくっついたハイブリッドか……これもう、天下取れるんじゃね?」

 何かに諦めたようなカインに、リアンがポツリと言う。

「もっと怖いのはね、その原動力があのアミナスだって事だよ。変態もだけど、あの子も好きな子で人生棒に振るタイプなんじゃないの?」
「リー君、辛辣すぎっすよ」

 その言い草ではまるでノアがアリスによって人生を棒に振ったと言ってるようなものだ。思わず突っ込んだオリバーの目の端に、ニコッと笑ったノアが見えて青ざめる。

 そんなオリバーの心配をまるで見透かしたかのようにノアがニコニコしながらこちらにやってきた。

「嫌だなぁ、皆。そんな事にはならないよ。だってノエルのお嫁さんはアニーだからね」
「え!? その話はもう流れた話では?」

 それに引きつったのはキリだ。そんなキリにノアはさらに笑う。

「全然流れてないよ。それに、ここらへんでいい加減本当に身内になるのも悪くないと思うんだよ、キリ」
「それは建前ですよね? ノアさま。本心はノエルのストッパーをアニーにやらせようとしているのですよね? ですが、アニーは見ての通りこのままではアミナスにそっくりになると思います。残念ですが」

 だからノエルの相手は無理だぞ、と言いたかったのだが、そんなキリの言葉を真っ向から双子が反論してきた。

「父さん、そんな事には絶対にさせません」
「そうです。アニーには母さんのような女性になってもらいます。絶対です」
 それを聞いてノアは悪魔のような顔をして笑う。
「だ、そうだよ、キリ。バセット領はこれからも安泰だね」
「……二人共……」
「……」
「……」

 完全にノアの策にハマったのだと気付いた時にはもう遅い。今のノアの発言でアニーはアミナスにそっくりになるか、ミアに似てノエルの嫁になるかが決定してしまったと言っても過言ではない。

 青ざめる三人を見てノアは声を出して笑った。

「冗談だよ、三人とも。僕たちにそんな権限は無いよ。いくら僕たちがそう望んでも、いつまでも子どもたちは僕たちの言う事なんて聞いちゃくれない。僕たちがそうだったようにね」
「……ですが、あなたはそう仕向ける。そういう人です」
「それもまた、僕たちの自由だからね。成るように成る、だよ。ありがとね、アリス」
「へ?」
「いつも君のおかげで事態を深刻に考えずに済むんだよ、僕も皆も」

 ノアはそう言ってアリスを撫でると、アリスはよく分からないが褒められた! と喜んでいる。

 リーゼロッテが犠牲になるかもしれないと先手を打ったノアだが、本当はあんな子供を犠牲にするのは嫌だ。

 それでもノアがリーゼロッテを止めなかったのは、やはりどこかでオズワルドを覚醒させるのはリーゼロッテしか居ないという打算があったからだ。

 けれど、もしも影アリス達が間に合わなければきっと自分か間違いなくアリスが飛び出していただろう。そこで二次災害が起こっていたかも知れない。

 そんな事を鬱々と考えそうになっていた所にいつもと変わらないアリスを見ると、本当に大丈夫だったのだなと思える。ようやく自分の判断は正しかったのだと認識出来るのだ。

「あんたはほんと、アリスアリスだね」

 呆れたようなリアンにノアは笑った。

「まぁね。アリスは僕の憧れで指標みたいなものだから」

 アリスのおかげでノアはここに居る。笑っていられる。生きる意味を見いだせる。

「さて、それではこちらからもそろそろ反撃を開始しましょうか」

 シャルはノアがようやく安心したように笑ったのを確認して、パンと手を打って皆の意識を自分に向けさせる。

 ここでただお話をしている場合ではないのだ。モニターの中では決意を固めたリーゼロッテを連れて、とうとう妖精王達が動き出したところだった。
 
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