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第三章 学校生活始めました
31.引きこもりたち
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あれから真琴は家の中に閉じこもるようになってしまった。せっかく楽しく学校へ通っていたと安心していたのに。だが思い返して見れば友達が出来たわけでもなく、覚えることも無くなってしまった学校に用はないのだから心配しすぎなくてもいいはずだ。心配なのは魔術の基礎部分で行き詰っている僕の将来ではないだろうか。
「なあ真琴、学校へ行かなくても、書庫にある魔術の本を読んで覚えて行けばいいよな?
特に習うことなんてもうないんだからさ」
「だからってお兄ちゃんまで行かないのは違うと思う。
マコのせいだよ……」
「いやいや気にしなくていいって言われたじゃないか。
あの後すぐに道も直してもらったし、獣人の村でも気にしてなかったんだしさ」
「気にしてないんじゃなくてきっと怯えてただけでしょ?
湖に穴開けたなんて聞いたことないに決まってるよ。
その後には同じくらいの湖まで作っちゃってさ。
マコは一体なんなんだろうね……」
「多分爺ちゃんの素質を受け継いじゃったんだよ。
なんか凄かったらしいしさ。
凄い分には別にいいじゃん、カッコよくてさ」
「でもマコはカワイイ魔法少女になりたかったの!
お爺ちゃんのクローゼットで変身は出来るようになったけどさぁ。
魔法があんなのじゃ、いつかこの世界が無くなっちゃうよ」
「じゃあ弱く撃ってみたらいいんじゃないか?
そっとかるーく、撫でるようにやさしくさ。
というか書庫にある魔術書を読んだだけでそこまでできるようになるのも変だな?」
「やっぱりマコってばおかしいんだ……
もう恥ずかしくて村にも行かれないよ。
引っ越ししよ?」
真琴は大分参っているらしく無茶を言って困らせてくる。せめて僕の力がもう少し近ければ支えになれるかもしれないのに、兄としてなんとも情けない気持ちだ。
「その手のひらから魔力を出すってのがよくわからないんだよね。
身体の中を流れて手に集めるってイメージは湧くんだけど……」
「考えるからいけないんじゃない?
マコはなにも考えてないもん。
血が流れてるのと同じような感じで移動してるんだなって思うくらい。
こうやって、こう、ほらね?」
そう言って手から手へと魔力を移しているらしいが、目に見えないのでさっぱりわからない。試しに僕へ向かって放ってもらおうとしたが、力の加減が難しいらしく山に穴をあけた時みたいになるのが嫌だと断られてしまった。
「それならこうやって手を合わせたらどう?
触れているところに流すことならできそう?」
「そうだね、出来るかもしれないからこうやってさ――
はい、これでよしっ!」
僕は手のひらを向い合せにするつもりだったのに、ガッチリと強く握られてしまった。そう言えば真琴と手を繋ぐのは久しぶりかもしれない。学校へ通い始めた頃は良く手を繋いで歩いたもんだ、なんて言ってもほんのひと月かそこいらしか経っていない。
にこにこと機嫌よく笑いかけてくる真琴を見ながら、緊張しつつ魔力の流れを感じ取ろうと集中する。すると真琴に力入れ過ぎだと叱られてしまった。
「力を入れないで余計なことも考えないで、マコって可愛いなぁくらい。
こんなカワイイ妹が手を繋いでくれてうれしいなーって思って」
「自分でそこまで言うのはある意味魔術より凄いよ。
でもなんだか気が楽になったかな。
真琴、ありがとな」
「どういたしまして、お兄ちゃん大好き。
いっつもマコのこと心配してくれてさ。
本当に、ダ・イ・ス・キ」
「ちょっと待って!?
今さ、ダイスキに合わせて四回送ってきた?」
「やったー、マコの気持ちわかってくれたね!
多分お兄ちゃんは緊張しすぎなんだよ。
魔術出来なきゃ、魔力感じなきゃってね。
マコが一番最初になんて考えてたか教えてほしい?」
「そりゃ知りたいさ、なんて考えてたの?
なにも考えないってのも難しいからさ」
「んとね、『プリティマックスター! ミラクルハリケーン!』って」
『ズザ!ゴロゴロゴロ、バッコーン!』
僕は真琴が放った必殺技の掛け声に合わせて壁までふっとばされた。痛みはそれほどでもなかったが、予期せぬ衝撃が真琴から放たれたことに驚き、言葉を失ったまま壁にもたれて立てずにいた。
「お兄ちゃん!? 大丈夫だった? ごめんなさい……
手を握ってるから平気だと思ったんだけど……」
「い、いや、気にしなくていいって。
それよりももしできるなら怪我を治してくれないか?
肩が外れてしまったみたいなんだ……」
「キャー!? お兄ちゃんホントごめんね!
ええっと回復は、『癒しの力をかの者に与えよ、パーフェクトリカバリー!』」
真琴の呪文を聞いた直後、僕の体の周囲に魔力が集まってくる感覚を感じた。目には見えていないが周囲を取り囲んで回っているような雰囲気。まるで竜巻の中にいるみたいと言えばいいのだろうか。
すると肩はきちんとハマって痛みも無くなり、体中のすり傷や打痕も消えてしまった。しかもこちらの世界まで大事に運んで来てしまっていた虫歯までが治ったのだから驚きだ!
「真琴、ありがとね。
凄くすっきりしてさっきよりも元気で健康になったような感じだよ。
しかも虫歯まで治っちゃったんだよ? これはすごいな」
「良かったー、回復治療系で最上位の呪文らしいよ。
これ以上だと蘇生呪文くらいかな、上級は。
超級にはもっとすごいのがあるみたいだけどね?
よく読んでみたら、こんなの出来たらいいなみたいな的な夢をまとめたモノだったの」
「なるほどねぇ、爺ちゃんも想像力と魔力を組み合わせれば可能性は無限て言ってるもんね。
真琴の考えた夢の魔術がそのうち使えるようになるかもしれないな」
「今マコが使いたいのはね、お兄ちゃんが自分の才能を引き出せる呪文だよ。
でもマコってばわかっちゃったんだもん!」
「わかったって何を?
もしかして、僕にはすごい魔力とか才能が隠されてるとかそんな感じ!?」
「うーん、魔力は高いと思うよ、普通の人よりは随分ね。
でも練り込みと増幅が出来てないの。
出来てないって言うか、逆になってるみたいよ?」
「全然わからないけど、それってダメ魔人ってことじゃないのか?
なんだかがっかりだなぁ……」
「詳しいことはマコにはわからないから明日学校へ行ってみよ?
こっそり行けばきっと誰にも見つからないで行かれるよ」
真琴にはなにか考えがあるらしいし、なによりあれからずっと外出を避けていたのに、自分から出かけようと言われた僕が首を横に振るはずがない。完全な落ちこぼれの烙印を押されることも覚悟して、真琴の考察を確かめに行く、僕はそんな風に考えていた。
「なあ真琴、学校へ行かなくても、書庫にある魔術の本を読んで覚えて行けばいいよな?
特に習うことなんてもうないんだからさ」
「だからってお兄ちゃんまで行かないのは違うと思う。
マコのせいだよ……」
「いやいや気にしなくていいって言われたじゃないか。
あの後すぐに道も直してもらったし、獣人の村でも気にしてなかったんだしさ」
「気にしてないんじゃなくてきっと怯えてただけでしょ?
湖に穴開けたなんて聞いたことないに決まってるよ。
その後には同じくらいの湖まで作っちゃってさ。
マコは一体なんなんだろうね……」
「多分爺ちゃんの素質を受け継いじゃったんだよ。
なんか凄かったらしいしさ。
凄い分には別にいいじゃん、カッコよくてさ」
「でもマコはカワイイ魔法少女になりたかったの!
お爺ちゃんのクローゼットで変身は出来るようになったけどさぁ。
魔法があんなのじゃ、いつかこの世界が無くなっちゃうよ」
「じゃあ弱く撃ってみたらいいんじゃないか?
そっとかるーく、撫でるようにやさしくさ。
というか書庫にある魔術書を読んだだけでそこまでできるようになるのも変だな?」
「やっぱりマコってばおかしいんだ……
もう恥ずかしくて村にも行かれないよ。
引っ越ししよ?」
真琴は大分参っているらしく無茶を言って困らせてくる。せめて僕の力がもう少し近ければ支えになれるかもしれないのに、兄としてなんとも情けない気持ちだ。
「その手のひらから魔力を出すってのがよくわからないんだよね。
身体の中を流れて手に集めるってイメージは湧くんだけど……」
「考えるからいけないんじゃない?
マコはなにも考えてないもん。
血が流れてるのと同じような感じで移動してるんだなって思うくらい。
こうやって、こう、ほらね?」
そう言って手から手へと魔力を移しているらしいが、目に見えないのでさっぱりわからない。試しに僕へ向かって放ってもらおうとしたが、力の加減が難しいらしく山に穴をあけた時みたいになるのが嫌だと断られてしまった。
「それならこうやって手を合わせたらどう?
触れているところに流すことならできそう?」
「そうだね、出来るかもしれないからこうやってさ――
はい、これでよしっ!」
僕は手のひらを向い合せにするつもりだったのに、ガッチリと強く握られてしまった。そう言えば真琴と手を繋ぐのは久しぶりかもしれない。学校へ通い始めた頃は良く手を繋いで歩いたもんだ、なんて言ってもほんのひと月かそこいらしか経っていない。
にこにこと機嫌よく笑いかけてくる真琴を見ながら、緊張しつつ魔力の流れを感じ取ろうと集中する。すると真琴に力入れ過ぎだと叱られてしまった。
「力を入れないで余計なことも考えないで、マコって可愛いなぁくらい。
こんなカワイイ妹が手を繋いでくれてうれしいなーって思って」
「自分でそこまで言うのはある意味魔術より凄いよ。
でもなんだか気が楽になったかな。
真琴、ありがとな」
「どういたしまして、お兄ちゃん大好き。
いっつもマコのこと心配してくれてさ。
本当に、ダ・イ・ス・キ」
「ちょっと待って!?
今さ、ダイスキに合わせて四回送ってきた?」
「やったー、マコの気持ちわかってくれたね!
多分お兄ちゃんは緊張しすぎなんだよ。
魔術出来なきゃ、魔力感じなきゃってね。
マコが一番最初になんて考えてたか教えてほしい?」
「そりゃ知りたいさ、なんて考えてたの?
なにも考えないってのも難しいからさ」
「んとね、『プリティマックスター! ミラクルハリケーン!』って」
『ズザ!ゴロゴロゴロ、バッコーン!』
僕は真琴が放った必殺技の掛け声に合わせて壁までふっとばされた。痛みはそれほどでもなかったが、予期せぬ衝撃が真琴から放たれたことに驚き、言葉を失ったまま壁にもたれて立てずにいた。
「お兄ちゃん!? 大丈夫だった? ごめんなさい……
手を握ってるから平気だと思ったんだけど……」
「い、いや、気にしなくていいって。
それよりももしできるなら怪我を治してくれないか?
肩が外れてしまったみたいなんだ……」
「キャー!? お兄ちゃんホントごめんね!
ええっと回復は、『癒しの力をかの者に与えよ、パーフェクトリカバリー!』」
真琴の呪文を聞いた直後、僕の体の周囲に魔力が集まってくる感覚を感じた。目には見えていないが周囲を取り囲んで回っているような雰囲気。まるで竜巻の中にいるみたいと言えばいいのだろうか。
すると肩はきちんとハマって痛みも無くなり、体中のすり傷や打痕も消えてしまった。しかもこちらの世界まで大事に運んで来てしまっていた虫歯までが治ったのだから驚きだ!
「真琴、ありがとね。
凄くすっきりしてさっきよりも元気で健康になったような感じだよ。
しかも虫歯まで治っちゃったんだよ? これはすごいな」
「良かったー、回復治療系で最上位の呪文らしいよ。
これ以上だと蘇生呪文くらいかな、上級は。
超級にはもっとすごいのがあるみたいだけどね?
よく読んでみたら、こんなの出来たらいいなみたいな的な夢をまとめたモノだったの」
「なるほどねぇ、爺ちゃんも想像力と魔力を組み合わせれば可能性は無限て言ってるもんね。
真琴の考えた夢の魔術がそのうち使えるようになるかもしれないな」
「今マコが使いたいのはね、お兄ちゃんが自分の才能を引き出せる呪文だよ。
でもマコってばわかっちゃったんだもん!」
「わかったって何を?
もしかして、僕にはすごい魔力とか才能が隠されてるとかそんな感じ!?」
「うーん、魔力は高いと思うよ、普通の人よりは随分ね。
でも練り込みと増幅が出来てないの。
出来てないって言うか、逆になってるみたいよ?」
「全然わからないけど、それってダメ魔人ってことじゃないのか?
なんだかがっかりだなぁ……」
「詳しいことはマコにはわからないから明日学校へ行ってみよ?
こっそり行けばきっと誰にも見つからないで行かれるよ」
真琴にはなにか考えがあるらしいし、なによりあれからずっと外出を避けていたのに、自分から出かけようと言われた僕が首を横に振るはずがない。完全な落ちこぼれの烙印を押されることも覚悟して、真琴の考察を確かめに行く、僕はそんな風に考えていた。
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