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第三章 学校生活始めました

37.他力本願

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 僕が受けた両手の大けがは真琴の呪文ですぐに治ったが、無意識のままに僕を傷つけてしまったことで真琴の心は深い傷を負ってしまった。そんなことも有りマハルタを何とか言いくるめて学校へ向かわせた。

「真琴、そんなに気にしちゃだめだよ。
 いくら怪我しようとすぐ治るんだし、死んだって平気なんだぞ?」

「でもそれとマコがお兄ちゃんを傷つけていいのとは違うよ。
 あんなことするつもりなんて全然なかったのになんで……
 マコはもう自分のことが怖くて仕方ないの!」

「なにか理由があるに決まってるじゃないか。
 爺ちゃんの手記にも魔術による物質の具現化は普通のことだって書いてあったしね。
 だから剣が出てきたこと自体は悪くないさ。
 問題は自分でコントロールできてなかったってことだろ?」

「うん、もし誰かと手を繋いでいるときに同じことが起こったら?
 誰かを傷つけてしまったらマコはどうすればいいの?」

「誰かと手を繋ぐ予定は?
 僕か、マイさんか、ロミくらいかな。
 もう一度試してみないか?」

 僕はそう言って両手を差し出した。僕には思い当たることがあったのだ。手を繋いだときに流れてきた真琴の意識、そこに鍵があると考えていた。だからそれを解き明かし真琴を安心させてあげなければならないのだ、兄として!

「お兄ちゃん本当に平気なの?
 もう一回やっちゃったらごめんねだよ?」

「大丈夫、僕以外に傷つけることなんてないって証明して見せるからさ。
 だからもしものことがあっても気にしちゃだめだからね」

「そんなの無理だよ……」

 恐る恐る手を出そうか迷っている真琴の手を僕はしっかりと握りしめた。真琴の手からは魔力の流れは感じられない。おそらく放出しないように制御しているに違いない。僕は自分に備わっている逆の特性、つまり魔力を吸い上げるイメージを強く持ち、真琴の魔力を引き出そうとした。

 小刻みに震える小さな手は魔力を出さないように抵抗している。しかし僕はさらに強く念じ真琴の力を引き出すために流れを促していく。すると安心したのか諦めたのか、どちらなのかはわからないが、真琴の手のひらから魔力が流れ込んできた。

「お兄ちゃん平気? なんともない?
 マコの手は普通の手のまま?」

「うん大丈夫、なんの問題もないよ。
 それじゃ片手を離すよ?
 こうやって向い合せにしてさ、そうそう、そのまま広げて――」

 僕と真琴は片手を繋いだまま、もう片方の手のひらは向い合せにして距離を取るように腕を横へと広げた。真琴の魔力は僕の手のひらへと宙を渡り吸い込まれていく。そして反対側でも同じことを行うと、お互い両手を広げたまま向かい合ったおかしな格好になった。

「イイ感じ、真琴の魔力が僕の手に飛んできているのがよくわかるよ。
 真琴はどんな感じなんだ?」

「うーん、普通に放出してるって感じかな。
 手のひらから出た後はどうなってるかわからないからね」

「よし、それじゃここからが本番だぞ?
 出来るだけ放出する魔力を少なくしてくれよ。
 じゃないと僕が吹き飛んじゃうからさ」

 真琴はしっかりと頷いてくれたが、恐らくこの間僕の方が外れてしまった時のことを思い出したのだろう。だが今回失敗したらそれどころではない可能性がある。慎重にやらなければと考えながら真琴との距離を広げていった。大体これで2mくらいだろうか。うっすらと魔力を感じるくらいになってちょうど良さそうである。

「それじゃ行くよ、思ってもない事が起きてもそのままでいてくれよ?
 大丈夫、危ないことはしないつもりだからさ」

「う、うん……
 なんだかわかんないけどお兄ちゃんがそう言うならマコがんばる!」

 真琴の力強い言葉に頷き返した僕は、魔力で真琴と繋がっている手のひらにイメージを集中させた。さっき自分の手に突き刺さった剣山、あれはおそらく僕が生み出したものだ。直前までマハルタのことで真琴と軽い言い合いになっていた。

 その時僕が考えてしまっていたのは、今日の真琴はやけに刺々しいなと言うものだった。不安なのか嫉妬なのかはっきりとはわからないが、僕が真琴から離れていくように感じてしまったのかもしれない。それで僕のことを責めるような口調で食い下がってきたのだろう。

 あの時僕は、真琴の手を取ってなだめよう。この刺々しさを何とかしようと考えた。それが具現化してしまったのがあの剣山の正体だろう。針の向きがこっち向きで本当に良かった。

 それはともかく、恐らく僕は真琴の魔力を吸い取りながら具現化出来てしまうのだろう。それを今から試してみるつもりだった。とは言え何を作ろうか考えていなかった。手のひらから放出されているのだから長い棒状の物が良さそうか?

 こちらへ向いた真琴の手のひらからは魔力が飛び出している。それを自分の手で感じながら握るようにしてイメージを強くした。よし、せっかくだから魔力から刀を産み出して、それを武器に出来たらカッコいいかもしれない。

 考えはまとまり頭の中で刀をイメージしながら伸びている魔力を掴んだ。そして鞘から引き抜くように腕を振り上げると、手の中にはハッキリと柄を握った感触がある。やっぱりだ、一発でうまくできると思っていなかったのに驚いた。

「お兄ちゃん!? それって?」

「真琴の魔力から魔道具を産み出したんだよ。
 それがこの魔力の剣、なんだけど……」

 どうやら想像力が貧困なせいだろうか、僕の手には縁日の屋台で見かけるようなビニールでできたおもちゃの刀が握られていた。これには色々な意味でガッカリだ。

 だがそんなおもちゃの刀には魔力が宿っているようで、握った手には真琴の力が感じられる。もしかしてこんな見た目なのにすごく強い武器になってたらどうしよう。まあそんなわけないけど一応試してみるかと地面へ突き刺して見ると、刀は刺さらずにどんどん消えて行ってしまった。

 結局柄だけになってしまったので庭へ投げ捨てると、落ちた瞬間に水滴が弾けるようにバラバラになって消えていった。手から離すだけで消えてしまうのだろうか。

「ねえお兄ちゃん、もう一回やってみてよ。
 なんかすごいよね、マコびっくりしちゃった!」

「でも使い道は無さそうだよなぁ。
 出来たのはおもちゃの刀だし、地面にすら刺さらないんだよ?」

「きっとイメージの仕方が悪かったんだよ。
 もうちょっとはっきりわかるものにした方がいいんだと思うなー」

「それもそうか、僕は刀なんて興味ないし実物を見たこともないもんな。
 でもイメージできそうなものって何があるだろうか……」

 考えがまとまらないうちに試してしまった僕が、次に手にしたものは麺茹で用の振りザルだった。あまりの情けなさに涙が出そうである。

「ちょっとさ、書庫かどこかでイメージを膨らませそうな絵を探すよ……
 このままじゃ真琴の魔力を消費するだけで自己嫌悪に陥りそうだ」

「ふふっ、でもなんだか一歩前進って感じでマコはうれしいよ。
 もしかしてお兄ちゃんってすごい天才的な魔導具師なのかもしれないじゃん!」

「そうだな、なにか取り柄が出来たらうれしいもんな。
 と言っても真琴の力を借りないと何もできないんだけどね……
 でもまあ頑張ってみるからまた協力してくれよな」

「もちろんだよー! お兄ちゃん大好き!」

 成果はほんの少しだったけど、僕にとって大きな一歩を踏み出せた日となった。今日の出だしは微妙だったけど、これぞ怪我の功名ってやつか。そんなことを考えながら僕は書庫へと向かった。
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