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第四章 魔術研究と改革

45.大きすぎる一歩

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 魔神に押し付けられたプレイヤーとやらの監視係はビックリするほどつまらなかった。十名のブルジョアたちが転生した姿であるプレイヤーは、勝手に設置された監視装置のモニターに斜め上から見下ろすような姿で一人一人映し出されている。

 大枚はたいてトラスにやってきた奴らは、十日以上経つと言うのに街の周りをうろうろしているだけだった。やっていることと言えば動物を追い回してちょっと怪我をしては大騒ぎをしているくらいだし、そんなところを見せられても面白いわけがない。

 これじゃあ世界の中心にあるダンジョンを目指すのがいつになるかわからない。まあ別に来ないなら面倒がなくていいけれど、監視できるのがわかっていると気になって見に来てしまうのだ。

「お兄ちゃんまた見てるの?
 いい加減なにか起きそうとか起きたとかないの?」

「全然代わり映えしないね。
 それでも数人はクマくらい倒せるようになったみたいだ」

「あーあ、早く調子に乗った勇者が魔王を倒しに行くとか言い出さないかなー
 そしたらマコが出てって絶望を味あわせてあげるのに」

「相変わらず物騒なことばっか言って。
 害がなければほっとけばいいんだよ、お金ももう必要ないしさ」

 そう、ようやくドーンから金を返してもらっただけでなく、色を付けてもらったおかげで一気に大金持ちになってしまった。なんと言ってもコ村での生活にはほとんどお金がかからない。それなのに数百万ルドなんて資産、いつになったら使いきれるのか。

 こんなことがあると魔術の訓練や小銭稼ぎに身が入らなくなるのは当たり前の話で、宝くじ高額当選者の気持ちとはこう言うものなのではないかとはくだらないことを考えてしまう。

 まあ身が入らないとは言っても訓練は続けており、魔力開放は相変わらず出来ていないが、武術に関しては毎日数時間ずつチャーシに稽古をつけてもらっている。その甲斐あって空手なのかカンフーなのかわからないが、素手での格闘戦はまあまあ様になってきた。

 その戦闘訓練は、チャーシに殴られる側から真琴が回復をしてくれてるため痛みを感じる暇もなく、いつも一時間以上は動きっぱなしだ。魔術で産み出されたオートマタという魔道具に分類されるチャーシたちは疲れを知らないからいいのだろうが、僕はそのくらいで疲労困憊で動けなくなってしまう。

 僕がそんな微妙に足踏みをしているのを横目に、我が優秀な妹はとうとう魔道具を産み出せるまでに成長していた。

「そんなことよりさ、お兄ちゃん見て見て、これ新作なの。
 これをパカって開くとダイヤルがついててね、えいっ!
 ミラクルチェーンジ!」

「うわっ、なんだ!? 眩しい!」

 目を開けられないくらいの眩しい光が収まると、目の前には全身ピンクで明らかに何かを|模倣し(パクっ)たような衣装に身を包んだ真琴がドヤ顔で立っていた。つまりさっきのコンパクトはいわゆる魔法少女の変身アイテムと言うやつなのだろう。

「ちょっと凄すぎないか?
 この間のなんとかスティックはただのバトンみたいなものだったけどさ。
 光って変身するなんて複雑そうなことよくできたな」

「これって実はね、お爺ちゃんのクローゼットとリンクして着替えてるだけなの。
 だから私が作ったのは光るコンパクトと衣装だけかな」

 簡単そうに言っているが大分すごいことのはずで、村に出回っている魔道具は手作りの工芸品のような物に魔術を付与して作るものだ。真琴が作っている者は魔術で直(じか)に物を作りだしているわけで、構造はともかく仕組み的にはチャーシやメンマ、それにあの動かせないオートバイ等と同じなのだ。

「それもしかしてさ、僕用の武器を作ったりできそう?
 なんと言うかセンスが良くてすぐに消えてしまわないやつ、とか……」

「うーん、試してないけどデザインが決まれば出来ると思うよ。
 このコンパクトも完成するまで何十個も作って失敗したけどね。
 最初のなんて落書きそのままって感じでひどかったよー」

「そっか、やっぱりしっかりとしたイメージが出来るくらいじゃないとダメか。
 武器庫にあるやつはどれもしっくりこなかったんだよね。
 凄そうな剣とかあったけど、斬ったら痛そうで僕には扱えない気がする」

「そしたらどういう武器がいいかな?
 マコにはわからないから絵を描いといてね」

「それが出来たらおもちゃの刀なんて作らないから苦労しないんだよなぁ。
 ドーンさんが言うには、ステータスの想像力が低いと思うようにいかないらしいしさ。
 僕にはセンスがないってわかってるんだよ」

「じゃあマコが作ったプリティバトンあげよっか?
 変身は出来ないけど叩くだけならこれでもいいんじゃない?」

 真琴の好意は嬉しかったが、魔人の戦士を気取りながら、先端がピンクのハートに象(かたど)られたファンシーカラーの武器で戦う気にはとてもなれないので、僕はその申し出をやんわりと必死に押し返した。

 そう言えば昔見たマンガで体の一部が刃物に変化したり硬質化するものがあった。ああいう感じの肉弾戦向けの武器があれば良さそうだ。目の前のモニター群では相変わらず小さな人間たちが動物相手に剣や槍を振り回していた。今後もしそいつらと戦うことになったならあの攻撃に対処しなければいけない。

 僕はイラストにする前に、と腕を組んで目を瞑った。先ずはしっかりとしたイメージだ。斬撃を受け止め槍の一突きを受け流し飛んでくる矢をかわす。つまり必要なのは鎧なのか? それとも盾のほうがいいだろうか。

『こうやって剣が振り下ろされたら腕で受け止めて――
 槍で突かれたら手で受け流して――
 攻撃はこうかな、シュッ!』

 そんなことを考えながら椅子に座ったまま腕を振り回す。なんだか調子に乗ってきたので立ち上がっていつもやってる型をなぞってみる。身体を少し斜めに構えてから左ジャブ、それから右ストレートを繰り出したところで腕にまとわりつく違和感に気付いた。

「なんだこれ!? 真琴! なにかした!?
 僕の腕がなんか変になってる!」

「えっ? マコは何もしてないよ。
 どうしたの? その…… ぷっ、カッコいいやつ、ぷぷぷ」

「笑うなよ…… 僕だって恥ずかしいんだからさ……
 これ小学生の時に夏休みの自由研究で作ったやつと似てるな……」

 ふと気がついたら、僕の腕には段ボールで出来た不格好な代物で包み込まれていたのだ。これは小学校の二年生か三年生か忘れたけど、等身大のロボットを作ろうとして腕だけで力尽きた夏休みの工作とそっくりだった。

 これは恐らく体内の魔力を身体の表面で実体化させた成果のはずで喜ぶべきことのはず。だけど嬉しさよりも恥ずかしさと情けなさが上回っている。なぜなら、これが僕が今現在発想可能な想像力の限界だと思い知らされたからだ。

「やったねお兄ちゃん!
 ちゃんと魔術使えるようになったんだよ!
 最初からちゃんとしたのなんて出来ないから練習あるのみだね」

「そうだなぁ、消すのは簡単なのに作り出すのは大変だしな。
 でもなんとなくコツがつかめた気がしないでもないよ」

 右手を覆っている段ボール工作は一瞬で消え去り生身へと戻っていた。この、魔人の体には相応しくない、長ネギやキャベツの空き箱を切った貼ったして作ったロボットの腕ではダメだ。もっとイメージを膨らませると言うよりは精度を上げる、明確に形作れるようにシンプルなほうがいいだろう。

 頭の中に思い浮かべるだけでは実体化まではたどり着けない。形状や材質、構造等々詳しければ詳しいほど近づくはずで、さっきは腕を覆うイメージとして記憶から引き出されたのがあの段ボール工作だった。

 一度できるようになってみればそれほど難しくはない。繰り返し繰り返し頭の中にイメージを浮かべる練習をするだけだ。コツコツと反復練習は何事にも通じる上達への道で、それはラーメン作りや餃子を焼くときも同じだった。

 こうして僕は夜遅くまで鍛錬を続け、自分の腕を振りザルで覆い尽くすことが出来るようになっていた。
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