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第六章 画策する令嬢
24.心境の変化
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苦しさなのか快感なのかわからないままにクラウディアが顔を上げると、そこには国王直属の親衛隊を引き連れた医師の姿があった。つまり助けがやってきたと考えていいだろう。
「間に合った、とは言い難いですね……
でもまだ平常を保ったままのようで良かった」
「あ、あぎがとおございまず……
いったい…… あにが……」
「あの後すぐに国王陛下へご報告したのですが、ただいま来客中で離れられず……
私が王子をお止するよう申し付かったのです」
王がなぜクラウディアへ肩入れするのか彼女にはわからなかったが、それでもこの医師を含めて王城内に味方がいるとはっきり認識できたことは心強さに繋がった。
「あの、でも王子にあんなことをして平気なのですか?
まさか死んではませんよね?」
「もちろん眠らせているだけでございます。
これでも私は医師ですから、人を殺すことはあまり好きではありません」
クラウディアへ微笑みかける医師の『人殺しはあまり好きではない』との言葉をどう取ればいいのか悩んだが、とにかく今は味方なのだろうと深くは考えないことにした。その証拠に、囚われたままで明らかに様子のおかしいモタラには全く興味を示さず、愛奴達へ戯れは程々にと声をかけた程度で済ませてしまったのだ。
自力で己の中の異物を取り出したクラウディアは足元がふらついたせいも有り、医師と共にやってきた親衛隊に抱えられて病室へと戻ることになった。眠らされているタクローシュ王子は自分の部屋へと送られるらしい。
「せっかく身体が癒えてきたと言うのに王子殿下の所業を止められず申し訳ございません。
国王陛下からは二度とこのようなことが起きないよう厳重な監視を命じられました。
それに陛下から殿下へも命じておいて下さるそうです」
「ありがとうございます。
それにしてもなぜ私ごときにそうまで情けをおかけ下さるのでしょう。
王子の子を孕むことが出来なければ奴隷落ちの女に過ぎませんのに」
「国王陛下には下々では計り知れないお考えがあるのでしょう。
それこそ私ごときが理解できる範疇は超えていることに違いありません。
ただクラウディア様にはなにかの可能性を見出しているのかもしれませんね」
「可能性、ですか……」
「ええ、詳しくはわかりませんがなにかの可能性です。
そうでなくては子作りを諦めていた国王陛下が奥御殿へ招き入れるはずございません。
先日お亡くなりになられた王妃様とはもう数年は床を共にしていませんでした」
「それなのですが、私が国王陛下の奥御殿へ入ると言うのは真(まこと)でしょうか。
タクローシュ王子がそうおっしゃっていましたが寝耳に水なもので……
本当であれば光栄ですが、何もできない私でいいのでしょうか」
「意味があるのかないのか、それは国王陛下が決めることです。
私たちにはその権利もありませんし、深いお考えもわかりません。
ただ言われたことに従っていれば良いのですよ」
いくら独裁国の国王とは言えそんなものなのだろうか。全ての決定において一人で考え一人で決めると言うのはどういう気分だろう。今まで自分のことを何一つ決めたことの無いクラウディアには想像もつかない世界がそこにあるのだろうと考え、国王がこれからの自分をどのように扱うのかが少し気がかりだった。
医務室へ運び込まれたクラウディアは再びベッドへと寝かされた。王子に連れて痛れた時にはどうなることかと思ったが、ひとまずは最悪の事態には至らず戻ってくることが出来て安堵する。出来ればモタラも助けてあげたいが、彼女は元から脱走奴隷で罪人の身である。下手に口を出して自分の立場を悪くするのは悪手だろう。
それにあの様子…… 先ほどクラウディアが受けていた恥辱を長く繰り返し受けることで平常心を失ってしまったのだろう。それはまるで、アルベルトの玩具として凌辱され続けた自分を重ね見るようだった。しかもあのモタラでさえあんなことになってしまうのだから、もしクラウディアが同じことをされたなら気が狂って死んでしまっただろう。
こちらに背を向けて座っている医師が助けに来てくれて本当に良かった。そしてそれを命じてくれた国王にも感謝している。本来王城にいる者たちは忌むべき存在であるはずだった。だが今は自分の中に心変わりが産まれていることを認識している。
それは、いざきちんと話して見ると、王子はともかく国王はきちんと会話の通じる方でクラウディアの言い分を聞いて下さる。それに想像していたよりもずっと柔らかで人当たりがよく、過去の反乱も我欲が元で起こしたのではなく国が揺らぐことを危惧してのものだと言う。それが全て本当かはわからないが、アーゲンハイム男爵と同じようなもので、どちらも正しく、どちらも身勝手な言い分なのだろう。
どちらにせよクラウディアにとって都合が良ければそれでいい。こんな自分にも望みの一つが出来たのだから。
「間に合った、とは言い難いですね……
でもまだ平常を保ったままのようで良かった」
「あ、あぎがとおございまず……
いったい…… あにが……」
「あの後すぐに国王陛下へご報告したのですが、ただいま来客中で離れられず……
私が王子をお止するよう申し付かったのです」
王がなぜクラウディアへ肩入れするのか彼女にはわからなかったが、それでもこの医師を含めて王城内に味方がいるとはっきり認識できたことは心強さに繋がった。
「あの、でも王子にあんなことをして平気なのですか?
まさか死んではませんよね?」
「もちろん眠らせているだけでございます。
これでも私は医師ですから、人を殺すことはあまり好きではありません」
クラウディアへ微笑みかける医師の『人殺しはあまり好きではない』との言葉をどう取ればいいのか悩んだが、とにかく今は味方なのだろうと深くは考えないことにした。その証拠に、囚われたままで明らかに様子のおかしいモタラには全く興味を示さず、愛奴達へ戯れは程々にと声をかけた程度で済ませてしまったのだ。
自力で己の中の異物を取り出したクラウディアは足元がふらついたせいも有り、医師と共にやってきた親衛隊に抱えられて病室へと戻ることになった。眠らされているタクローシュ王子は自分の部屋へと送られるらしい。
「せっかく身体が癒えてきたと言うのに王子殿下の所業を止められず申し訳ございません。
国王陛下からは二度とこのようなことが起きないよう厳重な監視を命じられました。
それに陛下から殿下へも命じておいて下さるそうです」
「ありがとうございます。
それにしてもなぜ私ごときにそうまで情けをおかけ下さるのでしょう。
王子の子を孕むことが出来なければ奴隷落ちの女に過ぎませんのに」
「国王陛下には下々では計り知れないお考えがあるのでしょう。
それこそ私ごときが理解できる範疇は超えていることに違いありません。
ただクラウディア様にはなにかの可能性を見出しているのかもしれませんね」
「可能性、ですか……」
「ええ、詳しくはわかりませんがなにかの可能性です。
そうでなくては子作りを諦めていた国王陛下が奥御殿へ招き入れるはずございません。
先日お亡くなりになられた王妃様とはもう数年は床を共にしていませんでした」
「それなのですが、私が国王陛下の奥御殿へ入ると言うのは真(まこと)でしょうか。
タクローシュ王子がそうおっしゃっていましたが寝耳に水なもので……
本当であれば光栄ですが、何もできない私でいいのでしょうか」
「意味があるのかないのか、それは国王陛下が決めることです。
私たちにはその権利もありませんし、深いお考えもわかりません。
ただ言われたことに従っていれば良いのですよ」
いくら独裁国の国王とは言えそんなものなのだろうか。全ての決定において一人で考え一人で決めると言うのはどういう気分だろう。今まで自分のことを何一つ決めたことの無いクラウディアには想像もつかない世界がそこにあるのだろうと考え、国王がこれからの自分をどのように扱うのかが少し気がかりだった。
医務室へ運び込まれたクラウディアは再びベッドへと寝かされた。王子に連れて痛れた時にはどうなることかと思ったが、ひとまずは最悪の事態には至らず戻ってくることが出来て安堵する。出来ればモタラも助けてあげたいが、彼女は元から脱走奴隷で罪人の身である。下手に口を出して自分の立場を悪くするのは悪手だろう。
それにあの様子…… 先ほどクラウディアが受けていた恥辱を長く繰り返し受けることで平常心を失ってしまったのだろう。それはまるで、アルベルトの玩具として凌辱され続けた自分を重ね見るようだった。しかもあのモタラでさえあんなことになってしまうのだから、もしクラウディアが同じことをされたなら気が狂って死んでしまっただろう。
こちらに背を向けて座っている医師が助けに来てくれて本当に良かった。そしてそれを命じてくれた国王にも感謝している。本来王城にいる者たちは忌むべき存在であるはずだった。だが今は自分の中に心変わりが産まれていることを認識している。
それは、いざきちんと話して見ると、王子はともかく国王はきちんと会話の通じる方でクラウディアの言い分を聞いて下さる。それに想像していたよりもずっと柔らかで人当たりがよく、過去の反乱も我欲が元で起こしたのではなく国が揺らぐことを危惧してのものだと言う。それが全て本当かはわからないが、アーゲンハイム男爵と同じようなもので、どちらも正しく、どちらも身勝手な言い分なのだろう。
どちらにせよクラウディアにとって都合が良ければそれでいい。こんな自分にも望みの一つが出来たのだから。
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