限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
94 / 376
第五章 葉月(八月)

91.八月七日 午後 祭事前夜

しおりを挟む
 年に一度の大祭である大蛇舞祭おろちまいまつりが明日に迫り、村内は朝から大分慌ただしい雰囲気だった。櫛田家もそれは同様で、せっかく来てもらった高岳零愛こうだけ れあの相手もそこそこに、八早月は神社と八畑村の家々を飛び回っていた。

 役割は分担しているものの、それでも筆頭当主の役割と言うものもある。一つは儀式に使う蛇を選別することである。今年八岐贄やまたにえの儀を受ける者は一人、すなわち生きた青大将が八匹必要なのだが、村人が集めてくれている蛇の中からなるべく大きくて体長のそろっている蛇を八匹選ぶのだ。

 八早月には年頃の少女が感じるであろう蛇が苦手とかそういう気持ちは全くないが、なんでこんなことをするのだろうと毎年疑問を感じている。別に多少大きさが異なっていても必要な数だけ揃っていればいいはずではないか。

 しかもこの儀式が本当に必要なのかどうかもわからない。百歩譲って当主を継ぐ者であれば必要かもしれないが、その他の兄弟姉妹や村の人にとってはただ怪しいだけの儀式に過ぎないだろう。とは言え、おかしかろうが受け継がれてきたからこその伝統である。八早月は蛇を選別してから神社へと戻って行った。

 こう言う村内行事では時間を節約しなければならないため、移動は真宵に手伝ってもらっている。当然空中を歩いているところは村人に丸見えなのだが、みなはそれをありがたがって眺めているし、年寄りになると膝をついて拝む者まで出る始末だ。これも毎年恒例だなと思いつつ八早月は先を急いだ。

 蛇を神社へ置いたらまた村へと戻っていく。行ったり来たりと忙しいが、今度は祭不参加者のために巡回訪問をするのだ。八畑村の全ての家からは、村で産まれ八歳で儀式を受けたもの全てが祭りの場へとやってくる。これは義務ではないが、高齢で足が不自由等の理由がない限り参加しない者はほぼいない。

 この八畑村自体が八岐大蛇に捧げられた贄であり、喰われるために存在するのではなく、この地で生きることで神を支えると言う意味では、贄よりも下僕のほうが言葉も意味合いも近いだろう。

 そして大蛇舞祭では新たに八歳まで成長した子を献上するとともに、今までこれだけの贄が無事に暮らしていると報告するための祭りでもあるのだ。贄たちは明日の祭りの前に行列を組んで八岐神社までやってくる。その数は各世帯の婿嫁年寄りを除くとおよそ六十名と言ったところだ。

 それほど重要視される祭に参加できない年寄りの落胆ぶりと言ったら、それはもう見ているだけで悲しくなる。そのため、対象の家庭には今日中に八早月が回って祈りを捧げ元気を出してもらうのだ。これにとにかく時間を取られてしまう。

 こうして慌ただしくしているうちに夕方になり、寒鳴綾乃さむなき あやのがやって来たのだが、その頃八早月は居間でひっくり返っていた。

「八早月ちゃんどうしたの? 祭事は明日だよね?
 そんな格好して明らかに疲れてるよ?」

「ああ、綾乃さんいらっしゃいませ。
 実は明日の祭り当日以外にも祭事があるのですよ。
 でも大体終わりましたからもう大丈夫、少し休んだら明日の相談をしましょう」

 そう言って八早月は胸に手を当てた。どうやらみくずが勝手に動き出したり出てきたりと言うことは無さそうだ。封印はきちんと効いている。

『真宵さん、藻はどうしていますか?
 大人しくしていますか? なにか不穏な動きは見せていませんか?』

『八早月様、今のところ問題はございません。
 ですがその…… 周囲に狐が寄ってくるようで何十と言う子狐がまとわりつきまして……』 

『何やら楽しそうで何よりです。
 真宵さんと仲良くできるのなら私はこのままで構いませんよ。
 おそらく棄てられた社か祠があるのでしょうが、ご神体が見つかればきちんと祀って差し上げたいものです』

『主様、主様、私めには神体はございませぬよ?
 なんせ長きの祀りと祈りによって神格化したものですから。
 そのうち形代でもお作り下されば幸いでございます』

『考えておきましょう。
 八岐大蛇様の許可があれば合祀できるかもしれませんがどうかしらね。
 無理なら金井町か久野町へ祠を作っていただきましょうか』

『ご思考巡らせ下さりかたじけのうございます。
 八早月様のため誠心誠意尽くして参りますからご安心ください。
 決して封印・・されて恨んだりなぞ致しておりませぬ』

『引っかかる言い方ですね……
 まあ憑代よりしろとなるフリをしつつ、黙って封印したのは申し訳ありません。
 ですが私の身に何かあったら一族の危機ですから慎重にもなります』

『わかっております、本当に不満はございませぬよ。
 何なら今この場でこの娘へ力を授けても良いくらいです』

『いいえ、彼女の気持ちの切り替えのためにも儀式のていは取りましょう。
 それにきちんと授かった物と考えていた方がきっと大切にしてくれますよ?』

 念話を終えた八早月は、あたかも休憩が済んだとばかりに立ちあがってお茶を一気に飲み干した。目の前には隣に腰かけていた綾乃の笑顔が見える。

「綾乃さん、後ほど紹介したい方がいるのです。
 今は出かけているのですが、なんと八畑村以外からやって来た巫なのですよ?
 その方は綾乃さんと同じように守護獣を従えていますからいわば先輩。
 きっと今後の助けとなることでしょう」

「そう……、なのかしら?
 あの狐ちゃんはあれっきり現れてくれないから力は消えてしまったんじゃない?
 明日の儀式で何か変わるのかなぁ」

「はい、それは間違いありません。
 今は綾乃さんの中へ封印させてもらってます。
 そうしないと――」

「熊がやってきちゃうもんね、あはは。
 あの時は怖かったなー」

「ええ、怖い想いをさせるのはもう勘弁、でも明日の儀式を終えるまでの辛抱です。
 儀式が済めばあの子狐は綾乃さんの言うことを聞くようになりますからね」

 いつもより少しだけ緊迫した雰囲気の二人だったが、儀式はきっとうまく行くに違いない。そう確信している八早月は、ようやく今日の仕事を終えたと安堵しながら湯あみへと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。

亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った――― 高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。 従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。 彼女は言った。 「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」 亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。 赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。 「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」 彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...