98 / 376
第五章 葉月(八月)
94.八月十日 午後 初めてのプール
しおりを挟む
夏休みなのは学校へ通っている生徒や学生のみなのだから、金曜日は行楽地でも空いている、と言う理論の元、土日になる前にやって来たのがここ久野高校である。
「スゴイ混んでるね……
いくら海なしの民とは言えちょっと混みすぎなのでは?」
「しかも久野小中の生徒はいないんでしょ?
どこからこんなに集まって来てるんだろ、ってあそこクラスの子だ。
あっちは金井小だった子じゃない?」
「久野小も中学もプールがあるからね。
中学も一般解放したらいいと思うんだけど、夏休みの補習授業で使ってるの。
小学校のプールは入学前の子たちと親向けだし」
「これでは泳ぐ練習どころではないわね。
誰にもぶつからずに水に浸かれたら満足しないといけないくらいだわ」
「はあ、海もプールも無い地区ってのは大変だなぁ。
もし白波に来ることがあったら空いてるとこ案内するからさ。
車ならまあまあ近いんだっけ?」
「あの校外学習の時はバスで四時間くらいだったわね。
あまり近いとも言えないけどどうなのかしら。
運転手の板倉さん次第だけどあまり無理は言えないわ」
「そうだよね、最近何度もお世話になっていて悪い気がするし。
でもすごく運転が上手だよね、パパの運転で遠出だとすぐ酔っちゃうもん」
「車のレースやってた方だから上手なのかもしれないわね。
それがどういうものなのかは知らないのだけど、きっと簡単ではないでしょ?
休みの日にはオートバイにも乗っているわね。
お母さまの弟とは若い頃のバイク仲間だったって言っていたわ」
「へえオートバイか、ウチはちょっと憧れてるんだよなぁ。
実はもう免許取れる年齢になったしさ。
まあでも取る金もおバイク買う金も無くてしばらくは無理っぽいけどー」
こうして女子五人と言う大所帯ではるばるやって来た久野高校のプール解放だったが、おしゃべりに夢中になれる程度には混雑していて、とても泳ぐ練習どころではなかった。
「これでは何しに来たのかわからないわね。
でも水の中に入るのがどういうものなのかはわかった気がするわ。
泳ぎもそれほど難しくない気がするのだけど簡単に考え過ぎかしら」
「八早月ちゃんは運動神経いいからすぐ泳げそうだよ。
あんな重い木刀軽々振っちゃうんだもんなぁ」
「えっ? 綾ちゃんってばまさか朝の鍛錬に参加したの!?
すっごー、アタシなんて見てるだけで疲れちゃうかと思ったのに」
「参加なんてとんでもない、木刀振らせてもらっただけだよ。
何回か振っただけでもうバテバテだったなぁ、八早月ちゃん凄すぎ」
「ウチもさ、普段バット振ってるからって甘く見たらめちゃキツイんだこれが。
腕がパンパンになって、朝飯の後すぐに二度寝しちゃったよ。
八早月の体力はヤバすぎ、マジで一人だけ息が上がって無かったもんなぁ」
「相変わらず四宮先輩もしごかれてるんだね、かわいそー
そこがまたカッコいいんだけどさ」
「でた、夢の瞳がまたハートマークになってるー
そんなに気になるなら告白してみればいいのに」
「いいのいいの、私にとって四宮先輩は眺めて楽しむ対象だから。
はあ、誰かきれいな人と付き合って並んで歩いていたら尊いのに」
「わからん、ぜんぜんわからん。
今時の中学生はそういうのが好きなのか?」
「やだなー、こんなの夢だけですよ。
そう言えば高校生だとやっぱり彼氏とかいるんですか?
好きな人でもいいですよ?」
「それがさ、うちの高校って田舎クサい男子ばっかなんだよね。
うちの弟が一番カッコいいってのが終わってるよねぇ」
そんな話をしながら一息入れると言うか、混雑から逃げてひと息入れようとすると丁度休憩時間となった。体を拭いてからプールサイドへ座り込むと、久野高の水泳部だろうか、競泳水着を着た競技者らしき生徒が数人現れた。綾乃が言うにはどうやら休憩時間には水泳部が練習するらしい。
こうして三十分の休憩となり水泳部の練習を眺めることになったのだが、さすが本職、その泳ぎは華麗で美しく、八早月はまるでイルカのようだと、見たことも無い海の生物に例えていた。
初めて見る本格的な水泳は八早月の目にはとても優雅で美しく、そして力強く感じられとても刺激的だった。思わず目を奪われるしなやかな肢体、空中で浅い弧を描いてから水しぶきを上げ水中へ。そこから力強く泳ぎだす姿を見とれてしまうほどだ。
それに、泳いでいる速度はイメージと全然異なっていて、これが競泳と言うものかと肌で感じるには十分だった。さすがにこれほど泳げるようになるには相当の鍛錬が必要だろう。
その時――
『真宵さん! 警戒をお願いします。
まさか水の中ですか!?』
『水の中に一、二、三体でしょうか。
それに向こうの小さな建物からも怪しげな気配が発せられております』
真宵が水泳部の更衣室を指さした。その小部屋は来客用の更衣室とは別に設けられている専用棟と言うには小ぶりすぎる物置のような小さな建物である。そんなことよりまずは早く練習をやめさせなければ、そう考えたのは八早月だけではなかった。
「スゴイ混んでるね……
いくら海なしの民とは言えちょっと混みすぎなのでは?」
「しかも久野小中の生徒はいないんでしょ?
どこからこんなに集まって来てるんだろ、ってあそこクラスの子だ。
あっちは金井小だった子じゃない?」
「久野小も中学もプールがあるからね。
中学も一般解放したらいいと思うんだけど、夏休みの補習授業で使ってるの。
小学校のプールは入学前の子たちと親向けだし」
「これでは泳ぐ練習どころではないわね。
誰にもぶつからずに水に浸かれたら満足しないといけないくらいだわ」
「はあ、海もプールも無い地区ってのは大変だなぁ。
もし白波に来ることがあったら空いてるとこ案内するからさ。
車ならまあまあ近いんだっけ?」
「あの校外学習の時はバスで四時間くらいだったわね。
あまり近いとも言えないけどどうなのかしら。
運転手の板倉さん次第だけどあまり無理は言えないわ」
「そうだよね、最近何度もお世話になっていて悪い気がするし。
でもすごく運転が上手だよね、パパの運転で遠出だとすぐ酔っちゃうもん」
「車のレースやってた方だから上手なのかもしれないわね。
それがどういうものなのかは知らないのだけど、きっと簡単ではないでしょ?
休みの日にはオートバイにも乗っているわね。
お母さまの弟とは若い頃のバイク仲間だったって言っていたわ」
「へえオートバイか、ウチはちょっと憧れてるんだよなぁ。
実はもう免許取れる年齢になったしさ。
まあでも取る金もおバイク買う金も無くてしばらくは無理っぽいけどー」
こうして女子五人と言う大所帯ではるばるやって来た久野高校のプール解放だったが、おしゃべりに夢中になれる程度には混雑していて、とても泳ぐ練習どころではなかった。
「これでは何しに来たのかわからないわね。
でも水の中に入るのがどういうものなのかはわかった気がするわ。
泳ぎもそれほど難しくない気がするのだけど簡単に考え過ぎかしら」
「八早月ちゃんは運動神経いいからすぐ泳げそうだよ。
あんな重い木刀軽々振っちゃうんだもんなぁ」
「えっ? 綾ちゃんってばまさか朝の鍛錬に参加したの!?
すっごー、アタシなんて見てるだけで疲れちゃうかと思ったのに」
「参加なんてとんでもない、木刀振らせてもらっただけだよ。
何回か振っただけでもうバテバテだったなぁ、八早月ちゃん凄すぎ」
「ウチもさ、普段バット振ってるからって甘く見たらめちゃキツイんだこれが。
腕がパンパンになって、朝飯の後すぐに二度寝しちゃったよ。
八早月の体力はヤバすぎ、マジで一人だけ息が上がって無かったもんなぁ」
「相変わらず四宮先輩もしごかれてるんだね、かわいそー
そこがまたカッコいいんだけどさ」
「でた、夢の瞳がまたハートマークになってるー
そんなに気になるなら告白してみればいいのに」
「いいのいいの、私にとって四宮先輩は眺めて楽しむ対象だから。
はあ、誰かきれいな人と付き合って並んで歩いていたら尊いのに」
「わからん、ぜんぜんわからん。
今時の中学生はそういうのが好きなのか?」
「やだなー、こんなの夢だけですよ。
そう言えば高校生だとやっぱり彼氏とかいるんですか?
好きな人でもいいですよ?」
「それがさ、うちの高校って田舎クサい男子ばっかなんだよね。
うちの弟が一番カッコいいってのが終わってるよねぇ」
そんな話をしながら一息入れると言うか、混雑から逃げてひと息入れようとすると丁度休憩時間となった。体を拭いてからプールサイドへ座り込むと、久野高の水泳部だろうか、競泳水着を着た競技者らしき生徒が数人現れた。綾乃が言うにはどうやら休憩時間には水泳部が練習するらしい。
こうして三十分の休憩となり水泳部の練習を眺めることになったのだが、さすが本職、その泳ぎは華麗で美しく、八早月はまるでイルカのようだと、見たことも無い海の生物に例えていた。
初めて見る本格的な水泳は八早月の目にはとても優雅で美しく、そして力強く感じられとても刺激的だった。思わず目を奪われるしなやかな肢体、空中で浅い弧を描いてから水しぶきを上げ水中へ。そこから力強く泳ぎだす姿を見とれてしまうほどだ。
それに、泳いでいる速度はイメージと全然異なっていて、これが競泳と言うものかと肌で感じるには十分だった。さすがにこれほど泳げるようになるには相当の鍛錬が必要だろう。
その時――
『真宵さん! 警戒をお願いします。
まさか水の中ですか!?』
『水の中に一、二、三体でしょうか。
それに向こうの小さな建物からも怪しげな気配が発せられております』
真宵が水泳部の更衣室を指さした。その小部屋は来客用の更衣室とは別に設けられている専用棟と言うには小ぶりすぎる物置のような小さな建物である。そんなことよりまずは早く練習をやめさせなければ、そう考えたのは八早月だけではなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。
亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った―――
高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。
従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。
彼女は言った。
「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」
亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。
赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。
「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」
彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
負けヒロインに花束を!
遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。
葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。
その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる