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アーレンという*
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「ニコラ様?」
心配してミアが体を起こすと、ニコラは思い詰めた顔をしてミアの腹に手を置く。
「……中に出そうと思う」
「え、なんですって? だ、だめですよ!」
ミアは慌てて体を離そうとしたが、ニコラはミアを捕まえて離さない。
「禁止行為はないといったではないか」
完全に目が据わっている。ミアは何かニコラの急所のようなものを踏み抜いてしまったのを知り、しまったと思った。
「言いましたけど、それとこれとは別です」
「もっと何でもしていいと言った。ミアの子は可愛い。間違いない。ミアと私の子だものな」
ニコラは熱に浮かされた顔をして、ミアの頬に口付ける。
「子連れでは花街で働けません」
「ミアは花街には帰らない。それに、ミアがいなければ私の未来は終わりだ」
演技がかったしぐさで悲壮な顔をするニコラに、ミアは舌打ちしたい気持ちになった。手が自由だったら頭を抱えていただろう。
「ちょっと待ってください。どうしてもというなら、わたし、避妊薬を飲んできますから」
ミアは自分の薬箱に入っているはずの避妊薬を取りに行こうと体を起こす。
花街から持ち込んだ薬品のうち、潤滑剤すら新品のまま使っていないのに避妊薬が必要になるとは思わなかった。
「いや、必要ない。順番は逆だが、どうせ結婚するんだ、子が授かるのは嬉しい限りだ」
「何言ってるんですか、そんなの、良いわけないでしょ!」
「まどろっこしいな。何の問題があるというのだ。では、どうしたものか……とりあえず中に入れてくれ、話は身体に直接訊く」
「あっ……や、ダメですって……んっ……」
ニコラは素肌のままミアに押し入ってくる。皮膜がない分、引き攣れた抵抗もなく、雁首がつるりと一度に膣に飲み込まれて二人とも同時に喘いだ。
「ぐっ、はぅ……な、なんだ、これは……。あっ……ちょ、ミア、危ないから、動かないでくれ……」
「うあっ、ニコラ様こそ、それ以上動かないで……あっ」
互いに、さっきとまるで感触が違う。生の肉の感触がミアを襲い、たまらずミアは強くニコラを締め付けた。
「ミア、ダメだ……そんなにしたら――あ、ぐあっ……!」
ニコラがびくりと体を痙攣させ、その後、硬直させる。
急な激しい締め付けで、ほどほどに陰嚢に溜まっていた精が、亀頭だけが埋まった浅いところに吐き出された。
「あ……し、しまった……」
ニコラはミアの腹を透視するほど見つめて、わなわなと震える。
「え? え? ……何ですか? どうしたんです?」
様子のおかしいニコラに、何事かと問う。
「……すまない。中に、射精してしまった」
ニコラから身も蓋もないことが告げられ、ミアは顔を引き攣らせる。
「ひえぇ……」
「わざとじゃ……」
「し、信じられない……」
こんな暴発、本来のニコラであればあり得ない。ニコラの体は童貞のそれではない。
しかし、ニコラは自分でもわかっていないくらいにミアから与えられる快感に弱かった。
愛する者との隔たりのない交わりが、どれほど快感をもたらすのか理解が及ばなかったのだ。
気まずい沈黙が流れる。
ニコラが少し落ち着いたころ、ミアがそっと体を起こした。
「……もういいです。避妊薬を使いますから、どいてください。早い方がいいので」
「そんなの、嫌だ」
「嫌だ、じゃないんです。なんですか、ニコラ様こそ子どものようですよ!」
ニコラは起きようとしたミアをもう一度押し倒し、肩を掴んで問う。
「ミアは私との子が要らないのか?」
「……考えたことありませんね」
まぎれもない事実だった。ミアは自分一人の世話で精いっぱいで、別の生き物を生み出すことなど、今の今まで考えたこともない。
「なら、今考えてくれ」
「うっかり中に出された後にですか? 早漏にもほどがありますよ!」
「ぐぅ……これほどとは思わなかったのだ……」
ニコラは出してしまった後もミアから陰茎を引き抜く様子がない。ここが定位置だとばかりに中に居続けて存在を主張している。
「私はミアとの子が欲しい。ミアは? 自白剤はまだ効いてるはずだな――答えてくれ。ミアは私と家族を持ち、末永く一緒に暮らすことは想像できないか?」
「未来って……ん……んん……だ、だめ……言いませんよっ! そんなこと言ったら、後戻り出来なくなっちゃう」
「言って大丈夫だ。後のことは私に任せておけばいい。建前やアディアール家のことではなくて、ミアの本心を聞かせてくれ」
「だから、言いたくないんですってば!」
「ミアの真実が欲しい。ミアの気持ちだけでいい。私との未来が要るか要らないかそれだけだ」
ニコラは機嫌を取るように、ミアに口付けをして答えを待つ。
ミアは抵抗してぶるぶると頭を振る。
「い……い……」
ついに何かを言いかけ始めた口元を、ニコラは祈るように見つめた。
「いい加減にしてください! 子どもをこさえて、人をどうこうしようだなんて、最低です! そんなふうにして生まれた子が幸せになれるとは思えません。一時の感情でできた子なんか、わたしみたいに道に捨てられちゃいます!」
ミアは激怒してニコラの軽率さを責めた。しかしニコラは怯まなかった。倍の勢いでミアに反論する。
「馬鹿なことを! 一時の感情などではない! 私はミアに婚姻を申し込んでから、先々のことで予定がいっぱいなんだ。 ミアと結婚してすぐに子どもを授かって、次々と産まれる私の子は四人。一人は騎士になる。一人はギルドに、一人は燃えるような恋愛をして、一人は才能を活かした生活をする。子育てに必要な積み立ても始めたし、学校も調べた。将来分けるための土地も見繕っている。名前だって考えたし、良い名前かどうか占い師にもみてもらった。 何も考えないで、こんなことをするはずがあるかっ! ミアは私の求婚を冗談だと受け流していたけれど、私は一度だって冗談でミアとの未来を語ったことはない!」
ミアの中で萎え切らない陰茎がぐっと先に進む。
「ああっ、ちょっ、抜いてくれるんじゃないんですか」
「断る!」
腰を掴まれて、ニコラの精液を潤滑剤にして、どんどん奥深くに這入りこんでくる。
「うわぁ、ニコラ様、これ、奥まで這入っちゃう――」
「そのつもりだ」
ぐんと押されて、最奥まで来たのがわかり、ミアは慌てた。精液を掻き出さないまま、取り返しのつかないところまでニコラを受け入れてしまったと、ミアは詰めていた息を吐く。
「ええと……ちなみに、その、ニコラ様のいちばん上の子の名前は、なんておっしゃるので?」
目が眩みそうな快感を引き連れて、ニコラの肉茎がミアの中を行ったり来たりする。
「アーレン。アーレンという。アリソンとアルガンで迷ったが、アーレンの方が知性に満ちた人物になると占いでいわれて。守護の金の指輪にはミアの瞳の色と同じ石をつけてもらう手配をしたところだ。名付けの承認は南部の教会の高名な司祭に頼むつもりで打診してある」
まだ生まれてもいない子がそこにいるような話しぶりのニコラは、真剣そのものだ。何も始まっていない未来のために、ニコラは既に行動を起こしている。
「ああああ、ニコラ様、どうしてそこまで……妄想で行動しちゃうのは恐怖でしかないんですけど」
「それで、要るのか、要らないのか?」
奥まで隔たりのない状態で満たされて、行き止まりを熱い昂りでつつかれて、嬌声をあげないように注意深く息を吐く。
「はぁ……アーレン……アーレンですか。男の子でも女の子でも良さそうな名前ですね。その妄想は細部まで出来上がってるわけですよね……侮っていました。そこまででしたか……」
ニコラは無意識に、より深いところを狙って穿ち始める。完全に孕ませるつもりでいる。
ミアはそれまで当たり前だった自分の価値観が少しぼんやりしたのを感じた。信念でニコラに勝てる気がしない。
「ミア、アーレンが泣いているぞ! 母から望まれないとは不憫な子だ」
「ああもう、もう負けました。要ります、要りますよ。ニコラ様の中でその子はもう存在するのでしょう?」
「もちろんだ。私はミアとの未来しか見えない。私は良い父親になるだろう。妻と子を慈しみ、剣の指南もするし、裁縫も教えられる!」
「やあっ……」
ニコラの大声と一緒にミアの体の中で肉杭が跳ねて、たまらず悲鳴を上げる。
「娘がいたら余計なことを言って、口を利いてもらえなくなる父親になりそうですね」
「想定の内だ。娘が連れてきた男と決闘する覚悟もあるし、息子の恋を応援する気概もある」
何だか馬鹿馬鹿しくなってしまって、ミアはニコラを引き寄せて口付ける。
「ニコラ様は、本当にニコラ様ですね……」
「すまない。ミアであってもミアとの未来を譲る気はない」
「それで、わたし、逃げられないんですね」
ニコラの陰茎が再び力を持ち、ミアの中で膨れ上がる。
「逃げられる前に堕としてしまおう……」
心配してミアが体を起こすと、ニコラは思い詰めた顔をしてミアの腹に手を置く。
「……中に出そうと思う」
「え、なんですって? だ、だめですよ!」
ミアは慌てて体を離そうとしたが、ニコラはミアを捕まえて離さない。
「禁止行為はないといったではないか」
完全に目が据わっている。ミアは何かニコラの急所のようなものを踏み抜いてしまったのを知り、しまったと思った。
「言いましたけど、それとこれとは別です」
「もっと何でもしていいと言った。ミアの子は可愛い。間違いない。ミアと私の子だものな」
ニコラは熱に浮かされた顔をして、ミアの頬に口付ける。
「子連れでは花街で働けません」
「ミアは花街には帰らない。それに、ミアがいなければ私の未来は終わりだ」
演技がかったしぐさで悲壮な顔をするニコラに、ミアは舌打ちしたい気持ちになった。手が自由だったら頭を抱えていただろう。
「ちょっと待ってください。どうしてもというなら、わたし、避妊薬を飲んできますから」
ミアは自分の薬箱に入っているはずの避妊薬を取りに行こうと体を起こす。
花街から持ち込んだ薬品のうち、潤滑剤すら新品のまま使っていないのに避妊薬が必要になるとは思わなかった。
「いや、必要ない。順番は逆だが、どうせ結婚するんだ、子が授かるのは嬉しい限りだ」
「何言ってるんですか、そんなの、良いわけないでしょ!」
「まどろっこしいな。何の問題があるというのだ。では、どうしたものか……とりあえず中に入れてくれ、話は身体に直接訊く」
「あっ……や、ダメですって……んっ……」
ニコラは素肌のままミアに押し入ってくる。皮膜がない分、引き攣れた抵抗もなく、雁首がつるりと一度に膣に飲み込まれて二人とも同時に喘いだ。
「ぐっ、はぅ……な、なんだ、これは……。あっ……ちょ、ミア、危ないから、動かないでくれ……」
「うあっ、ニコラ様こそ、それ以上動かないで……あっ」
互いに、さっきとまるで感触が違う。生の肉の感触がミアを襲い、たまらずミアは強くニコラを締め付けた。
「ミア、ダメだ……そんなにしたら――あ、ぐあっ……!」
ニコラがびくりと体を痙攣させ、その後、硬直させる。
急な激しい締め付けで、ほどほどに陰嚢に溜まっていた精が、亀頭だけが埋まった浅いところに吐き出された。
「あ……し、しまった……」
ニコラはミアの腹を透視するほど見つめて、わなわなと震える。
「え? え? ……何ですか? どうしたんです?」
様子のおかしいニコラに、何事かと問う。
「……すまない。中に、射精してしまった」
ニコラから身も蓋もないことが告げられ、ミアは顔を引き攣らせる。
「ひえぇ……」
「わざとじゃ……」
「し、信じられない……」
こんな暴発、本来のニコラであればあり得ない。ニコラの体は童貞のそれではない。
しかし、ニコラは自分でもわかっていないくらいにミアから与えられる快感に弱かった。
愛する者との隔たりのない交わりが、どれほど快感をもたらすのか理解が及ばなかったのだ。
気まずい沈黙が流れる。
ニコラが少し落ち着いたころ、ミアがそっと体を起こした。
「……もういいです。避妊薬を使いますから、どいてください。早い方がいいので」
「そんなの、嫌だ」
「嫌だ、じゃないんです。なんですか、ニコラ様こそ子どものようですよ!」
ニコラは起きようとしたミアをもう一度押し倒し、肩を掴んで問う。
「ミアは私との子が要らないのか?」
「……考えたことありませんね」
まぎれもない事実だった。ミアは自分一人の世話で精いっぱいで、別の生き物を生み出すことなど、今の今まで考えたこともない。
「なら、今考えてくれ」
「うっかり中に出された後にですか? 早漏にもほどがありますよ!」
「ぐぅ……これほどとは思わなかったのだ……」
ニコラは出してしまった後もミアから陰茎を引き抜く様子がない。ここが定位置だとばかりに中に居続けて存在を主張している。
「私はミアとの子が欲しい。ミアは? 自白剤はまだ効いてるはずだな――答えてくれ。ミアは私と家族を持ち、末永く一緒に暮らすことは想像できないか?」
「未来って……ん……んん……だ、だめ……言いませんよっ! そんなこと言ったら、後戻り出来なくなっちゃう」
「言って大丈夫だ。後のことは私に任せておけばいい。建前やアディアール家のことではなくて、ミアの本心を聞かせてくれ」
「だから、言いたくないんですってば!」
「ミアの真実が欲しい。ミアの気持ちだけでいい。私との未来が要るか要らないかそれだけだ」
ニコラは機嫌を取るように、ミアに口付けをして答えを待つ。
ミアは抵抗してぶるぶると頭を振る。
「い……い……」
ついに何かを言いかけ始めた口元を、ニコラは祈るように見つめた。
「いい加減にしてください! 子どもをこさえて、人をどうこうしようだなんて、最低です! そんなふうにして生まれた子が幸せになれるとは思えません。一時の感情でできた子なんか、わたしみたいに道に捨てられちゃいます!」
ミアは激怒してニコラの軽率さを責めた。しかしニコラは怯まなかった。倍の勢いでミアに反論する。
「馬鹿なことを! 一時の感情などではない! 私はミアに婚姻を申し込んでから、先々のことで予定がいっぱいなんだ。 ミアと結婚してすぐに子どもを授かって、次々と産まれる私の子は四人。一人は騎士になる。一人はギルドに、一人は燃えるような恋愛をして、一人は才能を活かした生活をする。子育てに必要な積み立ても始めたし、学校も調べた。将来分けるための土地も見繕っている。名前だって考えたし、良い名前かどうか占い師にもみてもらった。 何も考えないで、こんなことをするはずがあるかっ! ミアは私の求婚を冗談だと受け流していたけれど、私は一度だって冗談でミアとの未来を語ったことはない!」
ミアの中で萎え切らない陰茎がぐっと先に進む。
「ああっ、ちょっ、抜いてくれるんじゃないんですか」
「断る!」
腰を掴まれて、ニコラの精液を潤滑剤にして、どんどん奥深くに這入りこんでくる。
「うわぁ、ニコラ様、これ、奥まで這入っちゃう――」
「そのつもりだ」
ぐんと押されて、最奥まで来たのがわかり、ミアは慌てた。精液を掻き出さないまま、取り返しのつかないところまでニコラを受け入れてしまったと、ミアは詰めていた息を吐く。
「ええと……ちなみに、その、ニコラ様のいちばん上の子の名前は、なんておっしゃるので?」
目が眩みそうな快感を引き連れて、ニコラの肉茎がミアの中を行ったり来たりする。
「アーレン。アーレンという。アリソンとアルガンで迷ったが、アーレンの方が知性に満ちた人物になると占いでいわれて。守護の金の指輪にはミアの瞳の色と同じ石をつけてもらう手配をしたところだ。名付けの承認は南部の教会の高名な司祭に頼むつもりで打診してある」
まだ生まれてもいない子がそこにいるような話しぶりのニコラは、真剣そのものだ。何も始まっていない未来のために、ニコラは既に行動を起こしている。
「ああああ、ニコラ様、どうしてそこまで……妄想で行動しちゃうのは恐怖でしかないんですけど」
「それで、要るのか、要らないのか?」
奥まで隔たりのない状態で満たされて、行き止まりを熱い昂りでつつかれて、嬌声をあげないように注意深く息を吐く。
「はぁ……アーレン……アーレンですか。男の子でも女の子でも良さそうな名前ですね。その妄想は細部まで出来上がってるわけですよね……侮っていました。そこまででしたか……」
ニコラは無意識に、より深いところを狙って穿ち始める。完全に孕ませるつもりでいる。
ミアはそれまで当たり前だった自分の価値観が少しぼんやりしたのを感じた。信念でニコラに勝てる気がしない。
「ミア、アーレンが泣いているぞ! 母から望まれないとは不憫な子だ」
「ああもう、もう負けました。要ります、要りますよ。ニコラ様の中でその子はもう存在するのでしょう?」
「もちろんだ。私はミアとの未来しか見えない。私は良い父親になるだろう。妻と子を慈しみ、剣の指南もするし、裁縫も教えられる!」
「やあっ……」
ニコラの大声と一緒にミアの体の中で肉杭が跳ねて、たまらず悲鳴を上げる。
「娘がいたら余計なことを言って、口を利いてもらえなくなる父親になりそうですね」
「想定の内だ。娘が連れてきた男と決闘する覚悟もあるし、息子の恋を応援する気概もある」
何だか馬鹿馬鹿しくなってしまって、ミアはニコラを引き寄せて口付ける。
「ニコラ様は、本当にニコラ様ですね……」
「すまない。ミアであってもミアとの未来を譲る気はない」
「それで、わたし、逃げられないんですね」
ニコラの陰茎が再び力を持ち、ミアの中で膨れ上がる。
「逃げられる前に堕としてしまおう……」
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