柳兎学園・江戸文化作法研究会 ~サムライ部での青春のワンシーン~

花山オリヴィエ

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「んじゃぁ、まずはアタシから始めようかね」

 あからさまにモチベーション、やる気に温度差が生まれるワキミズとエミィ。前者は既に敗北を知った顔をし、後者はこれからの未来に洋々たる希望を抱いていた。


 大広間、そこは屋内で身体を動かす際によく用いられる場所らしく、奥の部屋ではエミィが道着に着替え、やってきた。
 道着は空手や柔道のそれとは違い、ズボンというより袴。どちらかと言えば合気道をする者が身につけるそれに近かった。

 ――が、

「スミマセン、ユキシロ先輩。もう少し大きめのサイズはありませんか? ちょっと胸がきつくて……」

 それまでつまらなそうにしていたワキミズが思わず噴き出す。
 確かに、エミィのそのたわわな果実は見るからに豊満で、サイズもたしかにあろうが、道着というものにも結構な容量があるはずだ。それでもなお、彼女が小さいと言うことは、必然的に納まっているソレがアレな訳で……

(エミィさん、幾つあるんですか……)

 ワキミズの心の声はそのまま視線となって一点に集中する。

「あー、すまんねぇ。明日には替えを用意しとくから、今日はちょっと我慢しておくれ。それとそこのチビ。アンタは着替えないのかい?」

 チビという単語に少しムッとしながらも、メィリオは胸を張って答える。

「ワタクシはお嬢様のお世話と安全の確保のためにここにいるのです。そしてこのスーツは其の為の制服なのです。どうかご容赦ください」
「ふーん……まぁ、それならそれでもいいさ」

 そういってひらひらと手を動かすと、ユキシロはワキミズに向き直った。

「んじゃぁ、まず、そこのボン。アタシを殴ってみな」
「ハァ……ボンって……」

 早速、先輩から目を付けられた形であったワキミズだが、それまでの弱々しさからは予見するには難しい発言をして見せた。
「あの~、いくらボクがヘタレで弱々しいオタクでも、女性に手を上げるのは気が引けるっていうか……できません」

 キッパリと言ってのけたワキミズ。これに対して、ユキシロが問う。

「あぁ?
 アレか。
 アンタにはアタシが女に見えると」

 ……?

 しばしの沈黙ののち、更にワキミズが問う。

「というと――」
「あぁ、アタシは男だよ。そりゃあ、化粧もしてるし、線も細いから分からんかもだけど、『女形(おやま)』っていう女性の格好をする役者なのよ、コレガ」
「だから、オカマっていうんだよ」

 ――ウッサイ!

 ツクモの入れる茶々に、メィリオは笑いをこらえる形である。
 エミィに至っては、
「Oh! ジャパニーズ・カブキですね?
 素晴らしい! 美しい!
 すっかり女性だと思ってましたよ」

 ――はぁ・・・

 ワキミズの絞り出した、なけなしの勇気と男気もこのメンツの前ではかたなしであった。

「んだもんで、いいから殴ってみ? アタシは殴らないからさ」
「それじゃあ……」

 エイ!

 マンガで読んだらしきその構えはボクシングでも空手でもなく、素人独特の形で右手を突きだす。あくまで素人なので、力の配分や、速度も、ボロボロ。モチロン当たったところで威力もないであろう、そんなコブシであった。

 ワキミズの考えはこうであった。
 ――どうせ、オレのパンチなんて当たらないんだろうし、避け方とかそういうのをやって見せるくらいだろう。 先輩は殴らないって言ってるんだし……

 そうして、ワキミズの右手は空を叩き、次の瞬間、ワキミズは背から畳に叩きつけられたのだった。

 ――ッガハっ!

 まるで、巨大な手で直接胴体を絞られる様に、肺の中にあった空気が吐き出させられる。
 ワキミズの視界、目の前にいたはずのユキシロは消え、いつの間にか天井が見える。古臭い梁の張った天井までは結構な高さがあったことを目視した。
 ツクモやエミィは歓声を上げ、メィリオは痛々しそうに目を手で覆うも、部長は眉ひとつ動かすことは無かった。
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