毒華王女伝

荒谷創

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毒華の首

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進み出たのは辺境伯の陪臣騎士団の騎士服に身を包んだ壮年の偉丈夫。
整った容姿は貴族の血を引く故だ。
しかし、その片親が子爵程度とあっては出世など夢のまた夢。
上げる功績は全て奪い取られ、上の失敗は押し付けられる。
だが、その才が確かな事は革命軍で明らかになった。
腐敗貴族の私兵と中央から差し向けられる軍、犯罪で儲ける外道共を次々に打ち破り、革命軍をここまで導いてきたのだ。
貴族の血を引きながら、家名を持たぬその名をジャン。
それは王国ではあまりにもありふれた名前だ。生まれた子が男で、特に名が浮かばないならジャンにしておけば良いとさえ言われる程、ぞんざいな名付けである。
そんな男は王女の前へと進み出る。
「全ての罪は自分達にあると言ったな?」
「言いましたわ」
小柄な王女を見下ろし、ジャンはスラリと剣を抜き放つ。
罪人つみびとである貴様を、斬るのも肯定するんだな?」
凄惨な笑みを浮かべ、その首に刃が添えられても、王女の顔に恐れは浮かばない。
「当たり前ですわ」
「……良い覚悟だ。ならば首を刎ねてやる。ひざまずけ、こうべを垂れろ!」
剣を高く振り上げるジャンに、しかし王女は目を逸らすことも無く応えた。

「お断りいたしますわ」

革命軍がどよめいた。やはり命が惜しかったのか。
それは安堵と共に、一種の失望でもあった。
しかし……
わたくしが跪き、頭を垂れるのは天上の神と、地上に於いては唯一人。国王陛下だけです」
「な、なに?」
自らの白く細い首に閉じた扇をトンと当てると、ジャンをますっぐに見詰めながら王女は言った。
「それとも、見られていては斬れないんですの?」




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