恋愛図書館

よつば猫

文字の大きさ
上 下
14 / 46

1月ー1

しおりを挟む
 1年後の1月。

「しっかし、混んでるなァ。
つーか寒っ!
早く帰ってお前のオセチつまみてぇわ」

「だったら初詣とか誘うなよ。
どうせ本営の子達と行きまくるだろ?」

 本営とは、本命の彼女と信じ込ませた営業。
最近はずっとNo.1をキープしてる巧は、プライベートも忙しい。

「それだよ!
今年は外せないのが多くてスケ管理が大変なんだわ。
ま、でも!お前と初詣行かなきゃ1年が始まんねんだよ」

 巧とは毎年必ず初詣に行ってた。
結歌や友美と付き合ってた時も、日にちをずらして例外なく。
親父が死んでから始まった事で……
巧なりに、家族のつもりで誘ってくれてんだと思う。

「1年が始まらない、か……」
フッと笑って、1月の本を思い浮かべた。






《お年玉代わりに、メッセージ本を贈ります。

明けましておめでとうございます!
さっそくこの本の事ですが、これは同タイトルの歌を絵本にしたものです。
この名歌は知ってますか?
なんと、私の1番好きな歌なのです!
なんだか勇気や希望が湧いて来て、1年の始まりにふさわしい歌詞だと思いませんかっ?

まだ真っさらな新しい1年に、私達のラブソングを刻んでこーね!》

 ちょっとした行動とか、サンタ演出とか、お年玉とか……
どこか子供扱いな気もするけど。
そんな楽しさのスパイスは、日々を更に鮮やかにしてくれてた。

「これヤバい、かなりグッとくる」
始まりを歌ったその絵本に入り込む。

「でしょでしょっ?
私の心のバイブルなのっ。
その歌もよく口ずさんでたなぁ~。
あっ」

「じゃあ歌ってくれる?俺、知らないんだ」

「今そーくると思いました……」

 そう言って渋々歌い始めたキミの歌声は、美声って訳じゃないけど。
チラチラ俺に視線を向けながら楽しそうに歌う姿は、例えようもないくらい可愛いくて……
ひとり悶絶。

 当然、歌い終わった後は……
腕の中に閉じ込めて、キスの嵐。

「っっ……
も、道哉っ、しつこいよっ?」

「ひどい事ゆーなよ、これでもセーブしてんのに」

「だって……
早く道哉のおせち食べたいもんっ」

「色気より食い気かよっ。
けど俺も、結歌のスイーツおせち食べたい」

 年末、私も作る!って言い出して、スイーツおせちを手掛けた結歌。
オーブンの取り合いとか、作業テーブルの陣地争いとかで盛り上がったり。

 たまに、いやけっこう頻繁に摘み食いするキミに……
吹き出したり、キスして阻止したり。
その空間は笑顔で溢れてて、その時間は鮮やかで楽し過ぎた。

 巧ん家の分まで用意してくれて。
受け取った巧は、お前ら最強コンビだな!って大喜びしてた。

 キミはイカコンビです!って、楽しそうにはしゃいでて……
今回の最強元イカコンビを、未来の日常にしたくなった。

"この道で何らかのトップを目指す"
その夢をキミの夢と重ねて……
2人で最高のカフェを実現したいと思った。


「じゃーん!見て見てっ?
イチゴの紅白ショートでしょ~?
で、きんとん風モンブラン。
黒豆と抹茶のムースに~…」
と、1つずつ紹介していく結歌。

「すごいな、おせち料理に見立てたんだ?」

「そうでーす!道哉のはっ?
1コずつ紹介して下さいっ」

「えーと、左上から鶏とアスパラのロトロ、牛モモ肉のタリアータ、ポルチーニとほうれん草のパルミジャーノフリッタータ……」

 俺も順に紹介していくと、感嘆の声が降り掛かる。

 そして、箸を伸ばしたキミは……

「ん~っ、美味しっ!
さっすが道哉!あ~幸せっ」
イタリアの正月料理で欠かせない、コテキーノとレンズ豆の煮込みを口にして、ほっこりとした笑顔を浮かべた。

「でもまだまだだよ。
店じゃやっと調理に関わり始めたばっかだし。
このおせちもさ、店長にレシピ聞いたり見よう見真似だし」

「え、だったら余計すごいよっ!
天性っ?才能!?
包丁使いも鮮やかだったしね~」

「……そんなんじゃないよ。
巧と住んでた時はメシ係だったから、鍛えられたんだよ」

 小3から炊事してた事も理由も、隠したい訳じゃない。
だけどやっぱり、新年早々楽しさに水を差したくなかった。

「結歌、これ絶品。
えと、伊達巻き風チーズロールと、昆布巻き風コーヒーブラウニー?」

「ほんとっ?
えっへん!未来のパティシエールですからっ。
それより、その好みだとティラミスも好き?」

「うん、1番好き」

 毎年誕生日に買ってくれてたワンカットのティラミスは、親父の大好物で……
それは俺の大好物にもなって、1年に1度の楽しみだった。


「腹一杯になったし、初詣でも行きますかっ」

「あっ、じゃあ食後の運動に、手ぇ繋いで歩いて行こっ?」

「この寒いのに?」

「そう!この寒いのにっ。
楽しい発見が出来るかもしれませんよっ?」

 結歌らしくて、それだけで心があったまる。

 キミの隣ならずっと……
鮮やかで、楽しくて、あったかいと思った。



 神社で手を合わせて……
改めて、キミと2人でカフェがしたい。
そんな未来への道が始まるように祈った。





しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:2,871

【完結・短編】もっとおれだけを見てほしい

BL / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:123

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

恋愛 / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:270

夫の裏切りの果てに

恋愛 / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:1,251

処理中です...