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9 性格最悪な弟
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「レイナが傍にいてくれて助かったわ。本当にありがとう」
「私もですよ、お嬢様」
リストに目を通した後、私はレイナを連れて侯爵邸の廊下を歩いていた。
一人でいるとどうも怖かったが、彼女が後ろにいると不思議と落ち着いた。
すれ違う使用人たちの侮蔑を込めた目は気になるけれど、それも何とか耐えられる。
(ドレスや装飾品類は用意してもらえないだろうから……どうにかして手に入れないといけないわね)
私は家族にドレスや宝石を買ってもらったことが無かった。
今回言ったところでどうせ何もしてくれないだろうし、婚約者もいないから自分で用意する必要がある。
弟のラウルは私と違って何でも両親に願いを叶えてもらっているみたいだけれど。
「お嬢様、どちらへ行かれるのですか?」
「舞踏会に着ていくドレスを用意しないとと思って」
「わぁ、それは良いですね!お嬢様のメイクアップした姿見てみたいです!」
「そんなに期待しないでちょうだい。私別に綺麗じゃないから」
「もう、そんなことないですよアリスお嬢様!」
二人で和気あいあいと話をしていたそのとき、突然不機嫌そうな声が間に割り込んだ。
「――誰かと思えば、侯爵家のお荷物な姉さんじゃないか」
「「……!」」
一瞬にして私とレイナの顔が強張った。
どうやら私たちは最も出会いたくない相手と鉢合わせてしまったようである。
「ラウル……」
「お坊ちゃま……」
そこに立っていたのは、侍女を後ろに引き連れた弟――ラウルだった。
(性格の悪い侍女たちもいるし最悪だわ。せっかくレイナと二人で良い気分になっていたのに)
ラウルと会うと面倒だ。
それは私もレイナも痛いほどよく分かっていた。
「父さんも母さんも、邪魔者だった姉さんがいなくなって清々してたのに何で帰ってきたわけ?おかげで二人の機嫌最悪じゃん。どうしてくれんだよ」
「……」
この弟は昔からこういうことしか言わない。
社交界で他家の令息と揉めた回数だって数えきれないほどある。
そんな問題ばかり起こす弟なのに両親はラウルを甘やかし、溺愛している。
そのことを考えると、何だか無性に腹が立ってくる。
(私は……こんな奴より下として扱われているというの……?)
どうにかしてこの馬鹿弟に思い知らせてやりたい。
そんな気持ちはたしかにあったが、持っている権力が違いすぎた。
何とか感情を抑えた私は、至って冷静に言った。
「まぁ、それはごめんなさいね。すぐに出て行くつもりだからそんなに不機嫌にならないで?」
「……その貼り付けたような笑顔、気持ち悪いんだけど」
自分の思い通りにならなかったのが不快なのか、ラウルは顔をしかめた。
私に近付こうと一歩踏み出したそのとき、前に出てきたのはそれまでずっと黙り込んでいたレイナだった。
「アリスお嬢様に手を出さないでください!」
「レイナ……」
彼女は両手を広げて私を守るようにして前に立った。
「お前……あのときの芋女か」
レイナの姿をじろじろと見たラウルはハハッと大声で笑った。
「姉さん付きになるだなんて、お前も運が悪いな。まぁ、こうなったのも全部お前の容姿が醜いせいだ。そんな顔に産んだ親を恨めよ?」
「ちょっとラウル!今のはいくら何でも……」
「お嬢様、私は大丈夫です」
「レイナ……」
そうは言ったものの、レイナは拳をグッと握りしめて悔しそうな顔をしていた。
「楽しみだなぁ、姉さんが戻って来たことでまたあの遊びが出来るんだから」
「……!」
ラウルはそれだけ言うと、私の横を通り過ぎて去って行った。
「うふふ、可哀相な女。私たちみたいに美しく生まれなかったから」
「せいぜいその女の隣で頑張って働くことね。出世なんて一生無理だろうけど」
そして侍女たちも口元を醜く歪めてラウルの後に付いて行った。
「私もですよ、お嬢様」
リストに目を通した後、私はレイナを連れて侯爵邸の廊下を歩いていた。
一人でいるとどうも怖かったが、彼女が後ろにいると不思議と落ち着いた。
すれ違う使用人たちの侮蔑を込めた目は気になるけれど、それも何とか耐えられる。
(ドレスや装飾品類は用意してもらえないだろうから……どうにかして手に入れないといけないわね)
私は家族にドレスや宝石を買ってもらったことが無かった。
今回言ったところでどうせ何もしてくれないだろうし、婚約者もいないから自分で用意する必要がある。
弟のラウルは私と違って何でも両親に願いを叶えてもらっているみたいだけれど。
「お嬢様、どちらへ行かれるのですか?」
「舞踏会に着ていくドレスを用意しないとと思って」
「わぁ、それは良いですね!お嬢様のメイクアップした姿見てみたいです!」
「そんなに期待しないでちょうだい。私別に綺麗じゃないから」
「もう、そんなことないですよアリスお嬢様!」
二人で和気あいあいと話をしていたそのとき、突然不機嫌そうな声が間に割り込んだ。
「――誰かと思えば、侯爵家のお荷物な姉さんじゃないか」
「「……!」」
一瞬にして私とレイナの顔が強張った。
どうやら私たちは最も出会いたくない相手と鉢合わせてしまったようである。
「ラウル……」
「お坊ちゃま……」
そこに立っていたのは、侍女を後ろに引き連れた弟――ラウルだった。
(性格の悪い侍女たちもいるし最悪だわ。せっかくレイナと二人で良い気分になっていたのに)
ラウルと会うと面倒だ。
それは私もレイナも痛いほどよく分かっていた。
「父さんも母さんも、邪魔者だった姉さんがいなくなって清々してたのに何で帰ってきたわけ?おかげで二人の機嫌最悪じゃん。どうしてくれんだよ」
「……」
この弟は昔からこういうことしか言わない。
社交界で他家の令息と揉めた回数だって数えきれないほどある。
そんな問題ばかり起こす弟なのに両親はラウルを甘やかし、溺愛している。
そのことを考えると、何だか無性に腹が立ってくる。
(私は……こんな奴より下として扱われているというの……?)
どうにかしてこの馬鹿弟に思い知らせてやりたい。
そんな気持ちはたしかにあったが、持っている権力が違いすぎた。
何とか感情を抑えた私は、至って冷静に言った。
「まぁ、それはごめんなさいね。すぐに出て行くつもりだからそんなに不機嫌にならないで?」
「……その貼り付けたような笑顔、気持ち悪いんだけど」
自分の思い通りにならなかったのが不快なのか、ラウルは顔をしかめた。
私に近付こうと一歩踏み出したそのとき、前に出てきたのはそれまでずっと黙り込んでいたレイナだった。
「アリスお嬢様に手を出さないでください!」
「レイナ……」
彼女は両手を広げて私を守るようにして前に立った。
「お前……あのときの芋女か」
レイナの姿をじろじろと見たラウルはハハッと大声で笑った。
「姉さん付きになるだなんて、お前も運が悪いな。まぁ、こうなったのも全部お前の容姿が醜いせいだ。そんな顔に産んだ親を恨めよ?」
「ちょっとラウル!今のはいくら何でも……」
「お嬢様、私は大丈夫です」
「レイナ……」
そうは言ったものの、レイナは拳をグッと握りしめて悔しそうな顔をしていた。
「楽しみだなぁ、姉さんが戻って来たことでまたあの遊びが出来るんだから」
「……!」
ラウルはそれだけ言うと、私の横を通り過ぎて去って行った。
「うふふ、可哀相な女。私たちみたいに美しく生まれなかったから」
「せいぜいその女の隣で頑張って働くことね。出世なんて一生無理だろうけど」
そして侍女たちも口元を醜く歪めてラウルの後に付いて行った。
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